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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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99話 不思議な先輩アンジュさん


 さて。5限の「魔法戦闘」の時間を終えると普通はこれで終了。


 だがしかし、僕は赤点を取ってしまっているせいで補習をしなければならない。

 なので5限が終わった後も教室に戻って先生と2人で勉強だ。



「では、小テストをしましょうか。少し席を外しますのでその間に解いておいてください。30問中25問正解していたら明日は次の内容に進みましょう」


「わ、わかりました……」



 2時間ほど先生の授業を聞いた後、小テストが始まる。これをクリアするまで次の内容には行けない。クリアするまでずっと同じ内容の勉強することになるのだ。

 全ての小テストをクリアし終わった時、ようやく皆と理解度が並ぶ。それが一番大変なんだけどね。

 実際、今回の小テストもクリアするかはギリギリなところ。もしかしたら明日も同じ内容をすることになるかもだ。頑張らねば。



……。



…………。



 うーん。わからなくて空欄(くうらん)のところもあるけど、とりあえず最後の問題まで済んだ。はたして25点あるのかな。


 先生が来るのを待っていると……




「おや。こんな時間にまだ1年生がいるなんてね」


「え?」



 僕以外にいないはず教室で、後ろから声をかけられる。

 そこにいたのは……制服に()()()()()()をつけている女の子。こちらに微笑(ほほえ)みを向ける彼女には気品を感じて「綺麗」という印象を受ける。お嬢様然とした美人な人だ。

 ネクタイの色やリボンの色によってアーロイン学院の学年は見分けられる。僕達1年生は赤。リボンの色が青ってことは……この人は「2年生」。先輩だ。


 その先輩は僕の席の前に移動して、僕が受けていた小テストを(のぞ)き込む。



「ははは。真面目な学生がいるなと思ったら補習じゃないか。君、けっこうおバカなんだね」


 ぐぅ……は、恥ずかしい…………。



「あの、あ、あなたは?」


「ん? ああ……ごめんごめん。わたしは『アンジュ・シスタリカ』。ここの学院の生徒会書記をやってるんだけど……1年生の子がまだ知らないのは無理ないか。大きな行事で会ったわけでもないしね」


 生徒会……! 確か生徒会って実力がある人しか入れないんだよな。そんな人がなんでこんなところに。


「僕は……」


「名乗らなくていいよ。知ってるから。君入学試験でAルーム主席合格してたじゃないか」


 あ、そっちの方で僕の名前を知っているんですね。よかった。良い方の噂で。

 不正してるとか、幼女誘拐とか、この学院には身に覚えのない僕の噂が行きかってるからね。ほんと困るよ。うんうん。


「わたしは最近まで学校を休んでたんだ。で、今日学校に復帰したら君の噂を聞いてね。他の1年生からここにいるって聞いたから実は君がここにいることは知ってた。補習してるとは思わなかったけど」


「はぁ……僕に何か用があるんですか?」


「いや。主席合格者の顔を見たかっただけさ。いつか生徒会に入ってくるかもしれないだろ?」


 そんな予定全然ないどころか1年の時点で留年の危機ですけどね。ははは。

 とか言っても変な空気になるだけだ。言わないでおく。


「実はわたしも主席合格して入ったんだ。しかも同じ魔法騎士コースで試験部屋もAルーム。だから気になってね」


「アンジュさんもですか!? ち、ちなみに何点取ったんですか?」


 あんまり聞くことじゃないかもしれないけど僕も気になったから聞くことにした。こう見えても僕は511点も取っているのだ。……アレンのおかげだけど。

 僕の点数が例外だとして、どれくらいの点数が主席合格になるのかも聞いてみたかったのだ。その年に優秀な魔法使いがいるかどうかで大きく変わってくるのだろうけど。



「わたし? わたしは128点だったよ」


「へぇ~。…………え!?」


 128? こう言ってはなんだけど……少なすぎるように思える。

 僕の年の受験者では平均点くらい……。それどころか平均よりちょっと悪いくらいでもある。なにせカナリアが400点オーバーを出してるのだから優秀な魔法使いならそれくらいは出すと思っていた。


 僕が困惑していると……



「肩にゴミ、付いてるよ」


「え? ほんとですか?」



 アンジュさんは僕の肩を指さしてそんなことを。なので肩の方を向いて手で払ってみるが……



(あれ? ゴミなんて付いてないんだけど……)



 肩には何かが付いていたように見えない。床に何かが落ちていったようにも見えない。


「あの、アンジュさん─」


 僕が見落としているのか、何が付いていたのか聞こうとしたら……




「あー! こんなところにいました!」




 教室のドアをガラガラ!と開けて少女のような高い声と共に入ってきたのは僕らの「魔法武器学」の教師であるユーリエ先生だ。アーロイン学院の新米教師さんである。


「もう! アンジュさん、すぐ『研究室』からフラッといなくなるんですから」


「ふふ、ごめんごめん。ユーちゃん先生」


「私は友達じゃないんですからその呼び名やめてくださいよぉ…………」


 アンジュさんはユーリエ先生の『研究室』に入ってるんだな……。


 研究室というのはアーロイン学院の先生が1人1つ持っている専門の研究をしている部屋のことである。

 アーロイン学院1年生は2学期になると、自分が行きたい研究室に希望を出して配属(はいぞく)することになる。そこで自分が学びたい内容をさらに深く学んだり研究したりするのだ。

 ベルベットはそういう堅苦しいものは嫌いだからと研究室は持ってない。他の先生がどんな研究室を持っているのかは把握してないからまだ僕もどこに行くかは決めてないんだけど。


 それにしてもユーリエ先生は身長がとても低い子供みたいな先生だからアンジュさんと並ぶとどっちが先生か生徒かわからないな……



「それじゃ待たね。アスト」


「はい」



 アンジュさんとユーリエ先生はこの教室からいなくなる。それと入れ替わりで補習担当の先生が入ってきた。


「先生。これ、小テストです」


「はい。じゃあ採点をしますね」


 先生は教卓で僕の小テストを採点していく。それをずっと黙って待っているのは耐えられないから……



「あの、先生。前年のAルームであった魔法騎士コースの試験で主席の人が128点って聞いたんですけど…………それって本当なんですか?」



 ちょっとした話題を投げかけてみる。さっきアンジュさんが言ってたことだ。

 その話題を耳にすると、先生はピクッと反応する。そして溜息をついた。



「アンジュ・シスタリカのことですか? あの年の試験はそれはもう大変でしたよ」


「大変?」


「彼女は魔物の討伐試験だというのに同じルームの試験生に攻撃して、ほとんどの試験生を病院送りにしたんです。中には全治6カ月の重傷になった子もいてね。そんなことがあれば周りの点数も低くなるに決まっている。だから相対的に彼女の点数がAルームで一番になったってだけです」



 な……!! 試験生に攻撃!? 試験生に対して攻撃しちゃいけないってルールはなかったけれど……そんなことやって合格になるのか?


「結局、かなりの実力があるからとガレオス様の後押しもあって合格扱いにはなったけど……その後の保護者からの苦情はすごかったよ。試験の魔物にやられたのならまだしも、見学に来てた親御(おやご)さんは自分の子がアンジュ・シスタリカに蹂躙(じゅうりん)される様を見てたからね」


 そんなことがあったのか。かなり血の気の多い先輩なのかな……? とてもそんな風には見えなかったけど。

 僕なんかに会いに来てくれるくらいだし、むしろ良いイメージの方が強い。話しても嫌な感情なんか一切湧かなかった。



「おお! アスト・ローゼン、小テストギリギリ25点で合格ですよ。これで明日は次の内容に進めます」



 よし!! やった! ギリギリだけどセーフはセーフだ。これでなんとか一歩……前……進……って、あれ?


 先生が返してくれた小テストの答案(とうあん)をよく見ると、僕がどうしてもわからなくて一カ所()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかもそこが正解になっているおかげでギリギリセーフの25点だった。


 あれ……? まぁ合格してるからラッキーと思っておこう。ラッキーラッキー。やったー。どうか次の小テストもこんなことがありますように……。




 そんな様子のアストを想像して、どこかでアンジュはクスリと笑っていた。




   ♦




 その頃、カナリア達は─



「ライハ、クエストの内容を確認するわよ」


 ここはミリアドエリア1の宿。そこでカナリアとライハは一旦の休憩を取っている。



「あたし達の標的はDランクの魔物『バーバリアン』。それを15匹倒すこと。あたし達の実力なら問題はないけど、ハンターに見つからないように倒すことが重要だから気を付けるのよ」



 カナリア達が受けたCランククエストは森に生息する魔物「バーバリアン」を倒し、その証とも言えるバーバリアンの頭に生えている(つの)を取ってくること。

 人型の魔物で棍棒(こんぼう)が武器。グランダラスを小さくしたバージョンみたいなもの。人よりも発達した筋肉から繰り出される棍棒攻撃はひとたまりもない。


 しかし、グランダラスを見てきたカナリアからすれば物足りないとも感じる。ひとたまりもないと言っても比べるレベルが違う。バーバリアンの攻撃は魔力をしっかり纏っていれば防げるものなのだから。



 今回確認することは魔物のことではない。「ハンター」のことなのだ。



 自分達がバーバリアンを狩ろうとしている場所はミリアドから離れているとはいえ決して遠くはない場所なのだ。戦闘中にハンターと出会ってしまう可能性は大きい。それこそが最も恐れることだ。

 まだプロではないカナリア達がハンターと戦って勝利できるかは……わからない。だからこそ一層警戒を強めなくてはいけない。


「わかっている。ハンターを見つけたらすぐ逃げる」


「そう。あとは初めてパートナーを組んでのクエストだから色々と連携を試しながらバーバリアンを倒していくわよ。だからそっちの方も集中して挑むこと」


「うん」


 そうなのだ。カナリアとライハは(アストもだが)つい最近パートナーを組んだばかり。こういったところで連携を練習していかないといけない。すぐに実戦レベルにするために。


 1人で戦うよりも2人で戦う方が強い。それは当たり前のことだ。しかし、その2人の連携が取れていないとその当たり前が瓦解(がかい)する。1+1が2どころか1に満たない結果にすらなるのだ。

 だが、良いタッグは2どころかそれが3にも4にもなる。まさにパートナーを組む無限の可能性である。

 いきなり強い相手にそれを試すなんてことはできない。だから弱いバーバリアンでどんどん連携パターンを試していくのだ。


 そこから明日の打ち合わせが終わり……2人は各々部屋の中で自由時間となった時に、


「ねぇライハ……ちょっといい?」


「なに?」


 ベッドに寝転がりながら物語の本を読んでいたライハに声をかける。



「アストのこと…………ど、どう想ってるの?」


「好き」


「っ!!……あ、あんたねぇ……即答って」



 ここにはいないアストのことを聞いてみたがライハは顔色を変えずに答えるのでこちらが動揺してしまう。

 しかし、聞きたいことはそんなことだけではないのだ。




「もし……もしもよ? アストが……『人間』……とかだったら…………どう思う?」




 ライハの方を向かず、ボソボソと呟くようにして伝える。

 自分が聞きたかったことはこれなのだ。クレールエンパイアでリーゼが言っていたこと。自分はそれを盗み聞きしてしまって知ってしまった。アストの秘密を。


 皆といる時はアストと自然に話せるが……2人きりの時はやはり変なところで意識してしまう。胸がざわつく。

 だからこうして彼がいないところで少しくらい吐き出すくらいは許してほしかった。


「アストは人間なの?」


「も、もしもよ、もしも! そんなわけないわよ? でも、もしそうだったらって……話で……」


 カナリアにも彼の秘密をバラすつもりはない。なので一応仮定の話ということにはするが……



「それでもきっと変わらない。アストは友達だから」


「変わらない? これっぽっちも?」



 ライハはなんでもないように答える。なぜなら……




「わたしは魔人だから好きになったんじゃない。『アスト』が、好きだから」




 ライハにとっては簡単な(とい)だった。魔人だから、人間だから、という話は意味がない。彼自体を好きになったこの気持ちは変わることはないだろう。自分を救ってくれたのは、彼なのだから。


「いいわね……あんたは」


「カナリアはアストのこと嫌い?」


「…………わかんない」


 カナリアはそれだけ言って、シャワールームに入っていった。その話はそこで終わりとなった。




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