⑤流星の姫巫女 3 「解き放て禁断呪文!! 破滅の聖剣『ロプデュリデ』!」
自分は今、すごい光景を目にしていることだろう。
なにせ、持っていた杖が急に喋り出したのだから。
「杖が……喋ってる……?」
驚きを通り越し、一周回ってさらに驚いてしまう。そんな状態だ。
それだけ魔法道具が喋るなんて普通なんかじゃない。そもそもこれは魔法道具なのかと疑ってしまう。
『杖……などと道具の名で呼ばれたくはありませんな。我が名は「アルヴァス」。高貴なる存在にして紅蓮の王。本来ならば人ごときに呼ばせたくはありませんが……貴方様だけは特別ですぞ』
いや意味がわからない。どう見ても杖だ。これでもかというくらい杖である。あと眼の紋様の部分が今では本物の眼のようにギョロギョロと動いていてマジでキモい。
それに高貴なる存在だとか紅蓮の王だとか言われても「棒が何か言ってる」くらいにしか聞こえない。「アルヴァス」……って杖のくせに名前無駄にカッコイイし。
「って……わたしは特別なの?」
『もちろん! なぜなら貴方様は……』
ガアアアアアアアァァァァンン!!!!
黒い杖─アルヴァスとの会話の途中、自分の『プロテクト』に攻撃が加えられる。
それはゴーレムの拳。そういえば今はゴーレムを相手にどうするかを考えている時だった。
「は、早く逃げなきゃ……!」
ミーティアはすぐにヒョウカと共に逃げ出そうとするが……
『あんな土人形を相手に魔王様が逃げるなどと言うものではありませんぞっ!』
アルヴァスは怒って自分の頭にゴンッ!とぶつかってきた。痛い。
「へ……魔王?」
ミーティアはヒリヒリと痛む頭を押さえてアルヴァスに問う。
『そう! 貴方様は「魔王後継者」ではありませんかっ! あの土塊人形くらい容易く破壊できるはずっ!』
「魔王、後継者?」
なんだそれは。いきなり出てきて、いきなり意味わからないことを言って、いきなり自分がどうだと言ってくる。
頭がパンクしそうだ。けれど、今は重要なことさえわかればいい。
「わたしなら、あれをどうにかできるの……?」
『もちろんですぞっ!!』
「その方法を教えてっ。えっと……アルヴァス!」
『仰せのままに。我が魔王』
♦
……。
…………。
……………………。
ゴーレムの攻撃を防いでいる間、ミーティアはアルヴァスからゴーレムを倒すを方法を伝授された。
……が、本当にこれで大丈夫なのか不安だ。
ミーティアはゴーレムの方を向く。
今からわたしは、「戦う」。……いや、ヒョウカちゃんを「守る」んだ。
「アルヴァス。ほんとに……それでいいの? ほんとにほんとにさっき言われた通りにやるよ?」
『はい!』
杖の言うことは信じられないが、やるしかない。何から何まで不思議なことだらけだが。
今は、これに賭けるしかないっ!!
『叫ぶのです! 貴方様は……』
「わたしは……」
「『禁呪』の魔王だっ!!」
ミーティアがそう宣言した瞬間だった。
突如、自分の前に黒い光の粒子が集まっていく。それは何かの形を取っていく。自分はそれに手を伸ばし……掴んだ!!
それは「鍵」の形をした小さな機械だった。側面部には小さなスイッチのようなものが付いている。「魔法道具」……のようだ。
『それは魔王後継者専用のアイテム。後継者が初めて魔王に覚醒した時に、魔王様から与えられる魔法道具。その名も……「サタントリガー」!』
さらに、その言葉と同時だった。自分の前にもう一つ別の物体が現れる。
それは一冊の真っ黒な表紙の本。しかし、鎖が巻き付き、「錠」が施されて開けなくなっている。錠には小さな丸い穴─「鍵穴」がある。
本からは禍々しい魔力が噴き出している。常人ならば触れることでさえできないようなおぞましさがあった。
『先程も申した通り、魔王後継者は覚醒した時に魔王様から専用のアイテムが与えられます。それ以外にも「眷属との契約」と、「魔王様の力の一部」が与えられるのです』
「眷属との契約と……力の一部?」
『はい。魔王様が持つ最強の魔物を1体だけ使役できるのです! その契約した眷属とは見ての通りこの私。そして、力の一部というのが……まさにあの「本」でございます!』
見ての通りどころかこの喋ってる杖が「魔物」というのが一番驚きの情報だったが……今は置いておこう。それよりも本の方だ。
「あれが『魔王の力』? でもただの本っぽいけど……」
『何を言いますかっ! あれこそ「禁呪」の魔王たる貴方様に与えられた力─「魔王の魔術書」にございます!!』
「魔王の魔術書?」
『「禁呪」の魔王の能力……それは、人の身には使用できない魔王様がお創りになった魔法の数々─「禁断呪文」を使用する権利を獲得することです。そして「魔王の魔術書」とはその禁断呪文が記された書物。つまりミーティア様専用の武器でございます』
わたしだけの……武器。この、本が。
これは偶然か。物語の本ばかり読む本の虫であった自分に与えられた力がまさか「本」とは。
だが、ここで問題が1つ。
「なんかあれ鍵穴ついてるけど……鍵は?」
『持っているではありませんか! そのサタントリガーこそが鍵なのですぞ』
「あ、やっぱりこれなんだ……」
確かに本の錠にある丸い鍵穴と形が一致している。刺せそうだ。機械っぽかったからまさか本当にこれを使うとは思わなかった。
『あとは……後継者なら言わずともわかるはずです』
「え……?」
そう言われた時、ドクンッ!!と体が跳ねた。
脳に、何かが流れ込んでくる。言葉にはできない、「闇」のような何かが。
「…………わかる。あれ? なんでか知らないけど、これの使い方……わかる気がする。初めて見たはずなのに」
ミーティアはカチリ、とスイッチを押してその鍵の形をした魔法道具を起動した。
頭に流れ込んできた闇が伝えてきたサタントリガーの使い方。それに従うならば。
「解放宣言っ!」
『認証 サタントリガー・アクティブモード 解放─「魔王の魔術書」』
さぁ。物語のページを開こう。
ここが、その1ページ目だ!!
ミーティアはサタントリガーを本に巻き付く錠の鍵穴へ突っ込んだ。
「解錠!!!!」
錠は外され、魔術書は鎖から解き放たれた。
その魔術書からは……途轍もない量の魔力が噴出した!
試験生全員はその魔力に恐れおののく。何が起きたのかはわからない。けれど、それが恐怖に値する物だということだけは誰もがすぐに知ることができた。
「開け! わたしの………………わたしだけの1ページ!!」
ミーティアの声に動かされるように魔王の魔術書はバラバラバラッ!!とページが捲れていく。ページは全て「白紙」だった。
そして、とあるページでピタリと止まると……そこに文字が浮かび上がる。
『出ましたぞっ! あそこに記されたものこそが魔法を超えた魔法……「禁断呪文」! その一つ目です! 貴方様なら読めるはずっ!!』
記された文字は知らない言語。それでも今の自分には読める。彼女はそんな気がした。
「『禁呪』の魔王 ミーティア・メイザスが唱える!!」
ミーティアの右眼に不気味な形をした紋様が現れた。
その紋様は、魔王がその力を行使した時に現れる魔王の証だ。
「光は我が手に集まり踊る 闇は我が光に平伏し消え失せる 邪悪なる者よ、恐れよ 眼前の有象無象を蹴散らせ光の軍勢 真なる闇を撃ち抜け破邪の聖剣!!」
ミーティアが紡いだのは5節の詠唱。されどその5節は誰もが知らぬ詠唱文。
「禁呪解放! 『アークレイン・セラフィム・ロプデュリデ』!!!!」
禁呪発動。
天にゴーレムさえも「小さい」と形容できるほどの巨大な黒の魔法陣が出現した。
そこから、無数の光が撃ち出される! その光は「剣」の形を取って明確な殺意をその身に宿した。
この世界の魔物達に光の剣が突き刺さる。突き刺さる。突き刺さっていく!!
ミーティアから離れていた魔物も、他の試験生が狙っていた魔物も。全てに等しく「裁き」が下される。
天の怒り。神話の1シーンのようなそれに誰もが声を出せずにいた。
ゴーレムにもその裁きが下る。そこらの魔物に撃ち出された通常サイズの光の剣ならば意に介さなかっただろう。
だが、ゴーレムに撃ち出されたのはその身と同じほどの大きさを誇る超巨大な光の剣だった。
ズッッッッッッッグンンンンンンンンッッッッッッ!!!!!!!
天からの裁きが下った。
ゴーレムは見事に真っ二つに引き裂かれて2つとなった体を無様に倒した。……土塊は光の粒子となって消えていく。
各地でも光の剣に撃ち抜かれた魔物達が光の粒子となって消えていった。
『試験の全魔物が討伐されました。繰り返します。試験の全魔物が討伐されました。試験終了まで制限時間残り5分ですが、魔物が全て討伐されたので只今を持って試験を終了とします』
全魔物討伐による試験の強制終了。
終盤で残っていた魔物が少なくなっていたとはいえ、アーロイン学院の長い歴史でも初となる異常事態が発生した。
「トップの成績は……ミーティア・メイザス 1587ポイント」
「「「1587!?!?!?」」」
全試験生が叫びをあげた。
冗談ではない。異常も異常。200取れば十分。300超えれば優秀。そう言われるこの試験において1000オーバーを取るのは最早、「人」ではない。
それこそ……「魔王」のような。
♦
「ちょっと! どういうこと!? 全魔物が討伐されるなんてありえないわ。しかもあの魔法……5節だっていうのにどんな威力してるのよ……!」
試験官のマルタはミーティアの発動した「禁呪」を見て驚愕していた。
現代の魔法常識からは考えられない威力。あの若さに似合わない、大魔法使いが何人も協力してやっと発動できるかできないかというほどの超魔法。
そして……この世界には存在しない魔法術式。
「すみませんっ! 報告です!」
モニターに映るミーティアを見ていたマルタの下に1人の学院生が現れる。
「なに?」
「その……たった今、魔法騎士コースの試験が終了したんですが……511ポイントを獲得した生徒が現れました! それも、バハムートを討伐して……!!」
「バハムートを!? まったく……今年の試験生はどうなってるの……」
魔法騎士に魔女。今年はどちらにも規格外の存在がいるようだ。
それ以外にも何人か目を見張る実力の者もいた。本当に今年は素晴らしい年だ。
「学院長に報告を。こちらも今終わったわ。トップは1587ポイント、ミーティア・メイザス」
「はい…………は!? せ、1587!? 歴代最高得点じゃないですか!!」
「ええ。とんでもないのが入って来たわね」
マルタは再度モニターを見る。モニターにはヒョウカの手を引っ張って起こしているミーティアの姿が。
「あの2人……組ませるのも面白いかもしれないわね」
マルタは手に持っていた名簿……そこの「ミーティア・メイザス」と「柊 氷華」の名前に丸をつけた。
♦
試験が終わり、別室で試験結果が発表された。
やはりトップの成績を出した自分は合格していた。今でも信じられない。ラスト15分まで0ポイントだった自分が。
「ふわ~。まさか合格しちゃうなんて……」
『ミーティア様の実力なら当然のこと。』
さっきからこの杖はしきりに話しかけてくるのだが出来れば人前で話しかけてこないでほしい。周りから変な目で見られている。
「合格した者は制服と学生証と生徒手帳を受け取ってください。そして指定された番号の部屋へ。そこでこれからは生活してもらいます。また、相部屋となった者が今後のパートナーとなりますので親睦を深めるよう努めてください」
出た。ここ、アーロイン学院には「パートナー制度」がある。入学すると別の生徒と同じ部屋で共に過ごすことになり、今後のクエスト等でも一緒に活動することにもなる。
「マナダルシア」以外の魔法使いの国、「エクロキュリプス」と「カーリスマリド」では違う。
エクロキュリプスにある「サーモニクス学院」ではパートナー制度は存在していない。1人1室だ。
カーリスマリドにある「ローザリア学院」は女性しか入学のできない花園。パートナー制度とは違う「姉妹制度」なるものがある。これに関しても謎が多く、不明な点ばかりだ。
「えっと……わたしの部屋は……あった。『103』だ」
自分の住むことになる部屋を探し当て、前に立つ。
まだ自分のパートナーは誰になるかわからない。怖い人だったらどうしよう。
本を読むことと動画制作くらいしかやらない自分と合う人なんかいるのだろうか。今更ながらに共同生活に不安がこみ上げてきた。
「うぅ……お腹痛くなってきた……」
『どうされましたかっ! もしや遠隔から魔法攻撃が……!』
「あ、そういうのじゃないから」
ここで迷っていてもどうしようもない。前に進むんだ。物語のページを開くために。
さぁ行こう。次のページへ。
いつか、なりたい自分になるために。
~流星の姫巫女(完)~
これにてエピソード3.5は終わりです。ミーティアの物語はこの「ヘクセンナハトの魔王」本編同様に最終回までの物語は考えてありますが書くかどうかはわかりません。読みたい人がいるなら書くかもしれませんが…………。まぁ、また活動報告で詳しい話でもします。
 




