④流星の姫巫女 2 「いつだって物語のページを開くのは」
試験生が一斉に飛び出していく中で唯一立ち尽くすミーティア。そう、どんなことがあろうとも試験は始まっているのだ。
「初めての杖でも……やらなきゃ!」
真っ黒な、若干眼の模様がキモい杖でミーティアは試験に挑む。
それに……自分の問題は杖だけではないのだから。
(いた……! 魔物!)
草むらから現れたのは「ブラックウルフ」。それと一緒に横には「ブラックウルフ 1ポイント」と魔法文字が浮かび上がった。
魔物の中では弱い部類だ。だから1ポイントなのだろう。魔法騎士なら即座に斬り倒せる。
だが、魔女の戦い方は魔法騎士とは異なる。
常に「距離をとって魔法を撃つ」か「防御を展開して詠唱時間を作る」を意識しなければいけない。
魔法騎士のように白兵戦が得意ではない魔女が戦闘をする場合は、得意とする「魔法」で上手く立ち回らないといけないのだ。
「我を守護せよ 『プロテクト』!」
『プロテクト』─1節の無属性魔法。自分の周囲に防壁を張る基本的な防御魔法だ。魔女はこの魔法を展開するところから始まりと言っても過言ではない。
ブラックウルフ程度なら纏った魔力だけで十分ガードできるが、この『プロテクト』は魔力消費が少ないので使ってもミスではない。ウォームアップ程度に良いだろう。初めての杖なのだから無事に発動したのも安心できた。
案の定ブラックウルフはこの防壁に阻まれてこちらに近づけない。自慢の牙をガツンガツンと壁にぶつけているがビクともしない。
(よし……今の内に攻撃を……!)
魔女は防壁の中で詠唱を唱え、攻撃魔法を発動する。『プロテクト』は自分の攻撃魔法は阻まずにすり抜けるので問題なく安心して攻撃できるのだ。
それなのだが……
(……! こう、げき……しなきゃ……!)
杖を握る手が震える。壁を攻撃してこちらを睨む魔物を見据えると顔が引きつる。
「あ……あ……」
詠唱を唱えようとしてもパクパクと口が開閉するだけで声が出ない。
これなのだ。ミーティアの一番の問題は。
戦おうとすると、どうしてもミーティアの頭の中では人間に両親を殺され、自分も魔物に襲われそうになったという過去がフラッシュバックする。
そうなればミーティアは恐怖で魔法が発動できなくなるのだ。
自分が今まで受験のために戦闘の練習をしなかったのはただサボっていただけではない。
どれだけ弱い魔物でも。どれだけ練習と言い聞かせても。体に恐怖が染みついているせいで戦えないのだ。
付属学校時代もそれで成績が酷かった。なんとか「魔法作成」などの他の分野を頑張って卒業はできたのだが。
(震え……止まって……止まって……!)
その時だった。ガン!!と一際大きい音をブラックウルフに鳴らされる。
それにビクリと驚き、とうとうミーティアは杖を落としてしまい、さらには『プロテクト』の魔力制御も手放してしまう。
『プロテクト』は発動した後、魔力をコントロールすることでその場に永続的に留めて置ける便利な魔法だ。
だが、許容以上のダメージを『プロテクト』に蓄積させるか、精神の不安定により魔力のコントロールができなくなった時、『プロテクト』は消えてしまう。
ミーティアの『プロテクト』は……消えた!
ブラックウルフが飛びかかってくる。魔力を纏っているから防御はできるが……今のミーティアは襲われてしまえばそれすらも手放してしまいそうだった。
「いや…………」
また、フラッシュバックする。
『ティア、逃げろ!』
『逃げなさい!!』
聴こえる両親の過去の声。この次の瞬間には悲鳴に変わったことを覚えている。自分の耳と脳が嫌というくらい刻み付けている。
体が、動かない。纏っていた魔力すら霧散した。喉から悲鳴すら出てこない。
戦うことに恐怖しきった脳が……停止しようとする。
今、ウルフの牙が……
「『アイシクル・ランス』」
ブラックウルフの体に飛来してきた氷の棘が突き刺さった!!
それによりブラックウルフは光の粒子となって霧散した。
「へ…………?」
ミーティアは涙に濡れた目でその魔法の発動地点を見る。そこには……
「ヒョウカ……ちゃん」
ヒョウカ・ヒイラギ。7番の待合室で自分の横にいた和装の魔法使いの女の子だった。
もしかして、自分を……助けてくれた?
「これ、落としてる」
「あ、ありが、とう……」
ヒョウカは自分が使っていた黒い杖を拾ってくれた。冷たい氷のように動かない表情からは何を考えているか読み取れない。
「どうして私の名前を知っているの?」
「え?」
「さっき、私の名前を呼んでいた」
「あ……」
そうだった。助けてくれたことで緊張が解けてつい名前を呼んでしまっていた。相手からすれば名乗ってもいないのになんで名前を知っているんだとなる。
「待合室で受験番号の紙を見て……それで……」
「そう」
ヒョウカは謎が解けたと思うと、もうミーティアのところから離れようとする。用がなくなったと言わんばかりに。
「あの、助けてくれて……ありがとう!」
せめて感謝を伝えようとミーティアは声を張り上げてヒョウカの背中に言葉を送った。
「……別に。ただそこに魔物がいたから倒しただけ」
返ってきた言葉は表情と同じく氷のように冷たいものだった。
♦
さっそく自分の不甲斐ないところを見せてしまった。自分もあんな風に戦えればと思うが、今それを願ってもどうにもならない。
もちろん、戦えない自分はその「対策」をちゃんと用意している。さっきは体が竦みすぎてその対策を忘れていた。
そして、対策とは……「魔法道具」である!!
魔法が使えなくなって戦えないというのなら道具を使用するといった作戦だ。道具なら「戦う」という意識も少しは薄れる。
「昨日の内に魔法道具店で厳選した魔法道具達で……この試験を勝ち抜く!」
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~ケース1~
「いた! 魔物!!」
ミーティアの前に現れたのは「フレイリザード」(3ポイント)。火を噴く大きな蜥蜴の魔物だ。
相手は火の魔物。そんなときは……
「じゃじゃーん! 『マッスルポンプ』!!」
ミーティアがカバンから取り出したのは水鉄砲のような魔法道具。中には水が入っていて、それを撃ち出す物だ。
マッスルポンプの撃ち出す水はなんと「2節の水魔法と同等の威力」!!…………と、説明書には書かれていた。はたして嘘か真か。
「えーい!! いけー!」
ミーティアは勢いよくマッスルポンプの引き金を引く。撃ち出された水は……
チョロロロロロロロロロロロロロ。
水は小さな弧を描いてフレイリザードには届かず地面を打った。届かないどころか自分の足元付近に落ちたせいで脚と靴下が若干濡れてしまった。
「…………」
「…………」
フレイリザードとしばし睨みあい……
「うわー!! これ不良品だー!!」
逃げ出した。やはり2節の水魔法と同等の威力というのは嘘だった!
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~ケース2~
「いた! 魔物!!」
次にミーティアの前に現れたのは「サンダーフォックス」(7ポイント)。体に電気が走っていて、触れるとビリビリ痺れる。これを利用した体当たりや飛ばしてくる電撃に要注意の狐の魔物だ。
相手は雷の魔物。そんなときは……
「じゃじゃーん! 『電撃無効ゴムアーマー』!!」
ミーティアはよいしょ、よいしょ、と衣服を着こむ。それは全てがゴムで造られた特殊な衣服。これを身に付ければ「雷魔法」は全て無効である!
といっても魔法は元の性質に若干の変化を及ぼす。いくらゴムと言えども「雷魔法」で破壊されたりする危険もあるのだ。
しかし、心配はいらない。この『電撃無効ゴムアーマー』はなんとなんと「8節の雷魔法」すら耐えきったとのこと!! とんでもない超絶魔法道具である。…………と、説明書に書かれていた。
とにかく。これで自分はもう傷つかない。そんな安心感があれば少しだけなら戦う勇気を出せるかも。
「うりゃー!」
全身に防護服のようなゴムアーマーを纏ったミーティアは杖で殴りかかろうとする。それでも足はガクガク震え、体はビクビク震えていたが。
結果は……
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!!
「いたたたたたたたたた!! うえーん! これも不良品だー!」
逃げ出した。8節の雷魔法どころか低級魔物に自然と流れている電撃すら貫通していた。っていうかここまで綺麗に貫通するということはゴムですらなかった。ふざけている。
♦
~ケース3~
「いた……魔物……!」
疲れ果てたミーティアの前に現れたのは「ガイアビートコング」(50ポイント)。魔力によってさらに強化された強靭な肉体が武器のゴリラの魔物だ。ここにきて強敵である。
パワー自慢の魔物。そんなときは……
「じゃ……じゃじゃーん! 『ハイパワーガードシールド』!!」
ミーティアは大きな盾を取り出した。この盾はどんな攻撃ですら防げるというトンデモ魔法道具。
なんと過去には究極魔法をぶつけても傷1つ付かなかったとか!!!! まさに最強の盾である。……と説明書に書かれていた。
「ウホホ」
「あ……」
それを見ていたガイアビートコングはミーティアからその盾を取り上げる。
そして……ベギンッ!と簡単にへし折った。
「……」
「……」
逃げ出した。そもそも究極魔法すら耐えたなんておかしい。それによく考えたら防御はこんな物よりも『プロテクト』を使った方がマシだ。
『残り時間は15分となりました』
「えええええええええええええええええええ!! もう15分!?」
そうこうしているうちに1時間の時間制限が15分にまで縮まっていた。
未だミーティアのポイントは……0だ。
♦
「『スノークル・ブリザード』」
魔法陣から吹雪を発生させて一気に5,6体の魔物を氷像に変える。
「物足りない」
魔法を発動したのはヒョウカだった。今ので32ポイントを獲得。現在獲得ポイントは237ポイント。ダントツで一位の成績だ。
(アーロイン学院の試験って言っても大したことない)
ただの雑魚狩り。そんな感想しか漏れない学院の入学試験はヒョウカにとってつまらない物になっていた。難しいと聞いたからどんな物かと思ったのにこれでは溜息も出る。
もう十分ポイントも稼いだ。合格圏内だろう。そろそろ切り上げるか……。
そう思っていた時だった。
ズンンンンンンンンンンッッッ………!!!!!!
重い音が、世界に響く。
何かの圧倒的質量がこの世界に降り立った。そんな予感も一緒に届いた。
「これは……?」
♦
「ふふふ。残り15分。ここからは難易度が一気に増すわよ」
見学室では試験官のマルタが不敵に笑う。
アーロイン学院の試験は残り15分で倒される想定ではないほどに強い魔物が投入される。強い敵と相対した時の試験生の動きを見るためだ。
今回投入したのは自分の属性魔法で創り出したもの。作成には1カ月を要したほどの「傑作」だ。
「とんでもない強敵よ……ふふふ」
マルタはモニターを見ながら挑戦的な視線を試験生達に送った。
♦
「あれは……ゴーレム」
ヒョウカの前に現れたのは巨大な「ゴーレム」だった。
ゴーレムとは土魔法で創られる存在。注がれた魔力によって戦闘力が異なり、創り手の実力によって変わってくる。
(こいつ……強い……!)
そのゴーレムに内包された魔力はとんでもない量だった。それは達人が創ったかのような逸品のゴーレム。戦闘力は有象無象の魔物達を腕の一振りで消し飛ばしそうなほど。
そしてそのポイント数は……
「マルタ作 ガイア・エスクド・ゴーレム 300ポイント」
破格の300ポイント……!! 間違いなくこの試験のボスだ。
「やっと骨のありそうなのが出てきた……」
ヒョウカは氷のような表情の中に確かな意思を見せる。
自分はここに「目的」があって遠くから遥々やって来た。ここで腕試しといこう。
こんなところで、負けられないのだから!
♦
「残り15分……どうしよう……どうしよう……」
残り時間15分にしてまだポイント0のミーティアはあたふたとしながらフィールドを彷徨う。
あれから色んな魔物と出会っては魔法道具を使ってはみたがどれもこれも効果はなかった。
もう一度だけ魔法を使ってみようとチャレンジしてみたが……また声が出なくなって使うことができなかった。
やはり「攻撃魔法を使う」ことが「戦闘する」ことと自分の中で直結してしまっている。これでは何度やっても無意味だ。
ドゴオオオオオオオオオオォォォォォォォンンンンンン!!!!!!
「へ!? な、なに……?」
突如発生した大激震。巨大な質量が地面に叩きつけられたかのようなそれは試験生全てに感知されたであろう。
さすがに気になったのか。ミーティアはその激震の発生源へと向かった。そこでは……
1人の少女と1つの巨人。その戦闘があった。
「くっ……………あぁ!!」
だが、その戦力差は歴然だった。
土塊の巨人によって少女が蹂躙されていた。
「あれは……ヒョウカちゃん!?」
どう見ても1人では務まらない相手に孤軍奮闘する銀色の少女。それは自分の知る人だった。
ヒョウカが氷魔法を発動しても相手には効いていない。体の一部分を凍らせても意に介していないというのもあるが、第一にその相手には人為的な魔力防御が付与されていた。
敵の情報を読み取ると……「マルタ作 ガイア・エスクド・ゴーレム 300ポイント」と書かれている。
300ポイントというのも驚くが、それよりも試験官が造ったゴーレムであるという点が最も注目すべき点である。
ゴーレムはただ動いて戦うだけではない。創り手によって様々な能力を付与することができる。創り手が優秀ならその分、強いゴーレムを創ることができる。
ガイア・エスクド・ゴーレムには魔法耐性が付く防御性能が付与されている。それによって敵から受ける魔法の威力を下げられるのだ。
ヒョウカは優秀な魔女。しかし、魔法耐性を持ち、身体能力的にも歯が立たない相手にはされるがままの状態になってしまっていた。
防御魔法の『プロテクト』と、ゴーレムの攻撃力はさほど高く設定されていないおかげか、なんとかヒョウカは致命傷を受けずに済んでいる。それでも立派な和装は泥だらけになるくらいには地面を転がされたとわかった。
(あんなに強そうな魔法使ってるのに……それでも勝てないなんて……)
おそらくヒョウカはここの試験生の中で一番の成績だ。その実力をもってしてもここまで相手になっていないのはおかしい。いくらなんでも誰だって気づく。
この相手は「倒す敵」ではない……と。
皆の予想通り、このガイア・エスクド・ゴーレムは「倒せない相手を前にしてどうするか」を見るための敵。ヒョウカの行動は間違いだ。
そして……ヒョウカの奮闘を遠巻きに見ている他の試験生が正解なのである。
本当に?
自分の中でそんな疑問が浮かんだ。
本当に「ただ見ているだけ」なのが正解? 仲間が戦っているのに素知らぬ振りをし、バカだなと笑い、誰も援護の魔法を使わずに見ているだけが?
魔女というのは『プロテクト』ありきで近接戦闘のような真似事ができているが本来は遠くから強力な魔法を撃つことが強みだ。
なら、ヒョウカが敵を食い止めているのに、なぜ誰も魔法を撃たないのか。
なぜ誰もゴーレムを相手にせず他の魔物を狩っているのか。
それは「自分と関係ない」からだ。
ヒョウカがどうなろうと自分の成績には関係ない。むしろリタイアしてくれれば厄介なライバルが1人減る。中には「やられてしまえ」と思っている試験生さえいるかもしれない。
それが、それが本当に正解?
ヒョウカは自分を助けてくれた。いくらヒョウカには別の目的があって、結果的にそうなったことでも、自分は助かったのだ。
そして……数年前に両親を亡くした時、自分が魔物に襲われそうになったところを「ハンターの少年」が助けてくれた。
自分とは「関係ない」のに、「敵である魔人」なのに。
自分はいつだって「その他大勢」だ。お話の中で主人公達が活躍する外で、誰も見ていないところで、立っているだけ。
いつかこんな主人公になりたいと物語の本を読んだって、自分に相応しいのは描写すらされないどこかのモブ。
皆を笑顔にしたいからって動画を作ったって、心のどこかでは無力感があった。「目標」のはずなのに、いつの間にか自分の弱さの代わりに埋めようとするピースに成り下がってしまっていた。
変わりたい。変わりたい。変わりたい。
心はそう叫ぶのに。体が動いてくれない。前に出れば自分は戦わなければいけない。
「戦う」。そう思った瞬間に進もうとする足が痺れる。体が震える。息が早くなる。
わたしは……!
♦
「やっぱり、強い……!」
ヒョウカはゴーレムの攻撃を防御するのが精一杯で今や攻撃を行うことすら困難だった。
攻撃をしたとしても、自分の魔法は通用しない。
それなら……!
ヒョウカは自分の腰に提げている、剣─「刀」に手を伸ばそうとして……止めた。
(これは……使えない。使っちゃダメ)
それは躊躇ではない。ヒョウカにはヒョウカの事情があり、この武器は「今ここでは」使用できない物だった。
だが、それはここで命取りとなる。
ゴーレムの拳が静止していたヒョウカに向かってきた。ヒョウカは身構えるが……
バリイイイイイイイイイイィィィィィンンンッッッ!!!!
「かっ……!」
とうとう『プロテクト』が破壊された。それに伴いヒョウカは後ろに大きく飛ばされる。
全身を地面に打ち付け、ぐったりと体を倒した。
『プロテクト』は簡単な魔法。けれど、破壊されれば一定時間使用できなくなる。
常に自分の周りに張っておくような結界に近い防御魔法というのは破壊されるとほんの少しの間、魔力制御ができなくなるという副作用がある。
これは常に魔力をコントロールしていた物が突然壊されることによって発生する脳や精神へのダメージが関係している。魔女の研究結果にもあることだが……ここで長々と語ることではない。
魔力制御が難しくなるとはいえ魔力が纏えなくなるほどではない。だが、ヒョウカは魔女の「盾」を失った。このままゴーレムにされるがままになればさすがに失格となる可能性がでかい。
ヒョウカは立って応戦しようとするが……ガクッと体を落とす。
相手に挑み、敗北する。よくあることだ。ヒョウカもその1人となって「負け」を受け入れてしまった。
みっともなく逃げ出すくらいなら……潔く負けを認める。それを選んだのだ。
♦
「ヒョウカちゃん……!」
『プロテクト』を破壊されたヒョウカ。それを見たミーティアはまた足を踏み出そうと勇気を出すが……動かない。
呪縛を振り払えない。敵に挑もうとするだけで、あの時の光景がまたフラッシュバックする。
わたしは……弱い。
フラッシュバックに耐えられず、顔を俯かせる。
しかし、その恐怖のフラッシュバックの中に、1つだけ違うものがあった。
それは自分に物語の本を読むことを薦めてくれた祖父の言葉だった。
♦
「ミーティア。『主人公』というのはどういうものか、わかるか?」
「『主人公』? え~っと……強い力を手にして……魔王みたいに悪いやつと戦ったりとか……あとは人を助けたりとか?」
「わっはっは! 確かにそれはそうじゃな。けれど……『主人公の資格』はそんなところにはない。それだけじゃ……物語のページは開けん」
祖父はミーティアの答えに笑う。その答えとは……
♦
「いつだって……物語のページを開くのは……」
ミーティアは前を向く。黒い杖を握りめる。
「どんな時でも勇気を出して、一歩前に踏み出せる者だ!!」
そう。一歩だ。一歩踏み出せ。一歩くらいどうってことない。大して変わらない。ほら、踏み出してみろ。
そして一歩踏み出せたなら、もう一歩踏み出してみろ。「一歩くらい変わらない」って言うならまた踏み出せるはずだ。一歩も二歩も変わらない。
もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。
そして、恐怖に向かって歩き出せ。たくさんの視線を受け止めろ。
歩き出せたなら……走り出せ!
ハンターのあの人が教えてくれた。大事なのは「強くなること」じゃなくて「誰かを笑顔にすること」。
そうだ。「戦う」じゃない……誰かを「守る」!
それが……大事なんだ!!
戦うじゃなくて守る。そう思った瞬間に、自分の呪縛は消え去った。
簡単な暗示みたいなものなのに。祖父が、ハンターの少年が、背中を押してくれているようだった。
わたしはもう……見ているだけは嫌!
ページを開くんだ。「自分の物語」のページを!
「我を……守護せよ…………」
「『プロテクト』!!」
ミーティアはヒョウカの前に立ち、ゴーレムの拳を防御魔法で受け止めた!!
「大丈夫!? ヒョウカちゃん!」
「? あなたは……」
彼女の身を案じるよりも、今はゴーレムだ。
このままヒョウカを連れて逃げ出すか。それが助かる確実な方法だ。
よし。ゴーレムは動きが遅い。それでいこう。
『待ちなさい』
「……ん? 今、どこからか声が……」
ヒョウカの方を振り返るが……彼女は首を傾げるだけ。それに声もどこか女性っぽくない。
『こちらですぞ。こっちこっち』
「いや、どっち?」
こっちと言われても誰が自分に声をかけているのかわからない。ミーティアも首を傾げる。
『こ っ ち で す !!』
「うわっ!!」
そんな大きな声と共に自分の持っていた「杖」がビョンッ!!と跳ねた。
『まったく……こんなに声をかけているのに。困った御方ですな』
「へ………………?」
杖が…………喋った!?!?!?!?!?




