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今回で一旦物語は区切り、序盤戦が終了し、次回から本格的なスタートということになります。
よろしくお願い致します。
戦隊ヒーローや仮面ライダー、幼児向けアニメのヒーロー達に憧れた幼少時代。
笑いあり、涙あり、そして何より熱い戦いありの、格闘系マンガの主人公の真似をした小学生時代。
まさか俺は平凡で、物語の主人公なんかにはなれないと薄々自覚しつつも、異世界でヒロインのために命をかけて戦うライトノベルの主人公を目標として生きた中学生時代。
いつだって非日常に憧れて、アニメやマンガやラノベの世界に思いを馳せていたってのに、異能力者宮崎と出会った翌日、俺はこれから起こるかもしれない非日常に、深く深く嘆息していた。
今日も元気に時間ギリギリ登校、今の所は皆勤賞だ。相も変わらず、まるで嫌がらせのように暑苦しく俺を照らしてくる太陽の如く、毎度嫌がらせのように俺の所に寄ってきては、意味不明な妄想を唱えている間宮に、俺は質問してみる。
「お前は魔法使いがこの世に存在すると思うか?」
すると間宮は、目を輝かせてこちらを見つめてくる。
『ついにお前もこっち側に来たか...!』的な感じだろうか。残念ながらそれはない。ただでさえ汚れてしまっている高校生活の歴史に、中二病だなんて要素を足したら、真っ黒黒歴史になること間違いなしだ。
「存在しないということはないが、存在するとも言い切れない。彼らは常に、形態を変化させて存在している。彼らの基礎を形成している『禁忌の御触書』には、彼らの形態変化の規則性とその特異性が......」
ふむ。やはりいつ聞いても、こいつの言っていることが真実だとは思えない。大体、そういう趣味はない上に話を殆ど聞いていない俺に矛盾点を指摘されるような話だ。
宮崎の言った通り、こいつの言っていることが本当に真実なのだとしたら、この世に嘘や作り話なんて概念は存在しない。
しかしその真偽はともかく、宮崎が間宮の話を真実だと思っていて、その間宮をグループやらなんやらに引き入れようとしているのは紛れも無い事実であるというのが、なかなか厄介な所で。
結局『こんなアホらしい話を信じる宮崎はバカ』という結論に至って、絶えず耳に流れてくる間宮の話を右から左に受け流しつつ、HRの開始を待ったのだった。
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4時限目が終わって、休み時間。
俺や間宮も含め、殆どの生徒が弁当を食い終わった頃に、事件は起こった。
突如、窓の外から聞こえた爆発音と、校庭の中心あたりから出ている煙。かたや興奮の声、かたや恐怖の声で、教室はざわつき始める。
そして、誰かが大声を上げる。
「い、行ってみようぜ!」
人間が集団で動くとき、その行動決定権は大抵、最初に発言したものに委ねられる。
先ほど興奮の声を上げていた者はもちろん、恐怖の声を上げていた者までも、一気に廊下の方になだれ込む。
なんとも見事な、一連の流れだ。先程まで多くの生徒が和気藹々と語り合っていた教室は、その一瞬にして空になった。
しかし一方、俺はというと。
茶髪のロングヘアの女の子に、ナイフを首筋に当てられ失神しかけていた。
「......ふう、そろそろ行ったかしら」
教室から生徒がいなくなり、完全に声が聞こえなくなったのを確認すると、ナイフを少し俺の首筋から離して、茶髪は言った。
「一応確認するけど、あんたがいつも間宮と一緒にいる、南雲ね?」
その喋り方はなんとも高圧的で、質問とだというのに肯定以外の返答は用意されていないようだった。
恐怖のあまり声が出ないので、とりあえず2度ほど頷いておく。
「そう。じゃあ、単刀直入に言うわ。私が間宮を殺すの、邪魔しないでね」
......は?
殺す。間宮を。
意味がわからない。何が言いたいんだこいつは。
「あー、やっぱり説明した方が良かったかしら...ええっとね、私は殺し屋なの。そして目的は、間宮司の暗殺」
.........あっ。え?
なに暗殺者とか、そういうことしちゃう?
異能力者だけに留まらず、こういうことしちゃう?
もうなんでだよ知らねえよ間宮殺すとかいちいち俺に報告すんなよ勝手にやっとけアホか。
「ちなみに今校庭で起こったあの爆発も、私の仕掛けたものなの。ああ、安心して、アレただ煙とすごい音が出るだけで決して校庭に穴開けたりはしないから」
そうですか。分かりました。では早く解放してください。あなたの握ってるそのナイフ、刺さりそうでほんと怖いんですさっきから。
「って、なんとか反応しなさいよ。失神したわけじゃないんでしょ?刺すわよ」
「はっ、はぃい!すいません刺さないでください!」
そう言われて出した声は、恐らく俺の人生史上ベスト3には確実に入るだろう弱々しい情けないものだった。
だってさ、仕方ないじゃない。宮崎の時は俺に危険はなかったから冷静でいられたけどさ。
ナイフだぞ?刺さったら痛いぞこれ?そんな状況でまともに発声できる人間なんているか。
「私の名前は古村 楓。一応同じクラスだけど、一回も話したこと無かったから、一応名前は教えといてあげるわ。そしてさっきも言った通り、間宮の暗殺のためにここにきた、殺し屋よ」
「でも殺し屋っていうのは意外と細かくて大変な職業でね。殺しの現場は誰にも見られちゃいけないし、標的以外の人間は殺してちゃいけないのよね」
宮崎も、間宮も、そしてこいつ、古村も。
なんとも異常で現実離れした事を、いずれも無表情に近い顔で、淡々と語る。
最初は頭がおかしいとしか思わなかったが、ここまで来ると一周回ってすごい事だと思えてきた。
「だからそういう意味で、クラスで孤立する予定だった間宮の殺害は簡単な仕事の筈だった。でもあんたが間宮につきまとうせいで、もう台無しよ」
「いや、どちらかというと俺は付きまとわれているんだが...?」
「はあ?知らないわよ。一緒にいる時点で付きまとわれてようと付きまとってようと同じなの!」
言って古村は、再び俺にナイフの刃先を向ける。
サイズは小さいものの、陽の光が反射して鋭く輝くその銀の刃は、素人目から見ても切れ味が鋭いのだと分かる。
こんな凶器、今まで制服のどこに隠してやがったんだ。
「...でっ、でも、殺すチャンスはいっぱいあるだろう。俺と間宮が一緒に居るのなんて、学校内だけじゃないじゃないか。下校の時とか、プライベートの時とかはどうなんだよ」
......いや、自分自身が言った事なのだが、クラスメイトを殺そうとしてる人間に対して『いやこうすれば殺せるだろ』だなんてアドバイスをしてるのは正直異常だな。
間宮に対して、初めて罪悪感を感じた。
「それが出来たら苦労してないわ。学校外では、間宮を私のような殺し屋とか事故から守ろうとする奴がたくさん居るのよ。殺せないわ」
「なんだよ、それ」
「どうやら間宮の持ってるチカラ?とかなんとかに興味を持って、不思議な技でアイツを保護してるヤツらがいるのよ。あーほんと、消えてくれないかしらね」
古村はそう言うと、首を左右に回して「あー」と唸る。
間宮の持ってるチカラに興味を持っていて、不思議な技というと......宮崎か。
すると間宮は今まで宮崎に命を救われてたことになるのかよ。なんてこった。
「何が目的なんだ」
「は?」
「いやだから、間宮を殺してなんになる。あれか、お前もアイツの吐いている妄言を全部鵜呑みにして、
『グループ』だの『完璧な人間作り』だの言うんじゃないだろうな」
俺がそう言ったのを聞いた古村は、俺をバカにするように鼻で笑う。何がおかしい。
「その『ぐるーぷ』とか『完璧なんたら』は知らないけど、間宮の言った事を信じてないのなんて、ここにいるアホどもだけよ。本当に頭のいい人は、みんなアイツが本当にすごい力を持ってるって分かってる。だから実際、私に仕事が舞い込んできたわけだし」
バカにするように笑うどころか、実際にバカにされた。その上ドヤ顔で語るし。ムカつく。
凶器持ってるから声には出せないが。
「じゃあ仮に間宮が本当にすごい力を持ってるとして、なんで殺す。意味がわからん。その力とやらを使う様子もないんだし、ほっとけばいいだろ。わざわざ血を流そうとするな。やるとしてもよそでやれ。戦闘民族かお前らは」
言うと古村は返答に困ったのか、目をキョロキョロさせて「うー」と唸る。
そして最終的に返しが思いつかなかったのだろう。
「とにかく、これでいいの!」
とだけ言って、強制的に会話を終了させた。
ふと、廊下の方から小さいながらも声が聞こえてくる。先程校庭に飛び出していった生徒たちだろう。こいつの仕掛けた爆弾?に学校を狙うテロリストの存在でも感じたのだろう、その声はやたらと興奮しているように聞こえた。
「......おっと、いらない事喋りすぎたわね。まあともかく、私が言いたいのは!学校内で間宮につきまとうのをやめること!特に変な気を起こすなんて問題外よ!」
変な気なんぞ起こさねえよ。誰があんなのに食いつくか。プラスポイント容姿だけじゃないか。
「あと、この事言いふらしたら、あんた殺すから。そういう場合は例外で殺してもいいことになってるのよね」
背中に寒気が走る。これはなんとしてでも絶対に、秘密を死守しなければ。そんな決意で胸が固まった。
「じゃ、そういうことだから。よろしくね」
こうして教室はいつもの賑わいを取り戻し、「校庭でなにかが大爆発」というなんとも衝撃的と言える大ニュースも、日毎夜毎に日常の中に溶け込んでゆく。
しかし、俺が昨日と今日で体験した、出会ってしまった人物たちは、むしろ俺の平穏な日常を無理矢理に飲み込み、非日常へと化けさせてゆく。
しかし、俺がこんな目に合っているというのに、その全ての原因である間宮はまだ、いつもの無表情を崩そうとしない。
そんな間宮がなんとも恨めしくなり、奴の方を睨むと。
それに大した感情を持つでもなく、むしろ何故睨まれているのか分からないという風に首をひねった間宮は、またいつもの通りにどうでもいい妄想話を聞かせにくるのだった。
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