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その中二病が真実ならば  作者: terus
第1章:邂逅
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「は?」


思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

俺の前に座るこの方は一体、どこの世界に住んでらっしゃるだろう。少なくとも俺の知っている限りでは、この世界に魔法使いなんて職業は存在しないはずなんだが。


「はは、まあそうなりますよね。僕だってそこまでバカじゃありません、言葉だけで信じて貰おうとは思ってませんよ」


言うと宮崎は、俺の顔の前に右の手のひらを向ける。

そしてその手をグッと力強く握りしめる。

こいつは何がしたいんだ...?そう思った矢先、頭にいきなり、激しい電流が流れたような感覚が走る。

別に痛いわけでも苦しいわけでもなかった。しかし、何かが起こった、変わった。それだけは理解できた。


「一体何をーー」


『したのかと思うでしょう?』


宮崎の声が聞こえると共に、頭の中を揺らされたような感覚を感じる。例えるなら、頭痛や目眩を発症している時に感じるあの浮遊感と同じ感覚だ。


『南雲さんの脳と僕の脳を同期しました。今南雲さんの脳内に聞こえている僕の声は、実際に発している物ではなく、僕が直接、南雲さんの脳に送っている物です』


そう言いながら宮崎は、奴の唇を人差し指で触った。

確かに、奴の声は聞こえているにも関わらず、現実には奴の唇は微動だにしない。

高度な腹話術などという可能性もあるが、俺の頭にさっきから走り回るこの感覚は、そのせいだとは思い難い。するとまさか本当に、こいつは、俺の脳内に直接語りかけているというのだろうか。


「これがお前の言った魔法なのか」


『そうです。ああ、せっかくだから南雲さんも、脳内で喋ってみてはいかがですか?相手に伝えたい事を少しだけ、いつもより強く念じるだけで十分ですよ』


と、言われたので、念じてみる。



『どういう原理なんだ、これは?』


再び、脳が揺れたような感覚に襲われる。確かに、実際に喋っているわけではないのに、相手に自分の念じたことが伝わったのが分かる。


『そうそう、うまいです、その感じ。......それで、原理ですか』


『まあ、諸説ありますが......一番有力な説は「原理はない」という説ですね』


『はあ?どういうことだ』


『つまり僕のこの能力は、「原理はなく、現在の化学の範囲でその合理性を確かめることはできないが、それでも明確に存在しており、成立している」とする説です』


ふむ。抽象的すぎてよく分からん。

と、別にそれを念じたつもりは無かったのだが、どうやら伝わってしまったらしい。

宮崎はフフ、と控えめに笑うと『では、もう少し具体例を交えて言い換えましょうか』と言う。


『例えば、格闘系マンガ、それもエネルギー波や形態変化が飛び交うような作品を思い浮かべてください。ああいう作品において、主人公やそのライバルの必殺技に、「これはあまりに非現実的だ、おかしい」などと批判をする人がいますか?』


『いや、そういう奴は見たことないな』


『でしょう?それと全く同じです。僕のこの能力はこの世界のあらゆる物と比べて、あまりにズレている。それ故、この世界に存在している法則(ルール)や言葉で、原理を説明できるわけが無い。その必要もない。しかし明確に存在していることだけは分かっているのだから、それだけでいいじゃないか、ということです』


......つまり、なんだ。


『原理が分からない、と?』


『まあ端的にまとめれば、そういうことですね』


なるほど。まあこいつの言うことは大体分かった。

原理不明らしいこの異能力についても、まあひとまずは受け入れられた。

が、まだ、理解が及ばないことが一つ。


『なぜそれを、俺に言った?残念ながら俺は脳に直接話しかけることも出来なければ、スプーン曲げとかトランプを消失させるなんていう、世界で何万人とやってるようなチープなマジックすら出来ないぞ...』


『間宮さんです』


俺のセリフを途中で遮って、宮崎は言った。


『は?』


『南雲さんが、間宮さんといつも一緒にいらっしゃるからですよ。彼女の存在は、私にとって重大です』


間宮?あの、中二病女が?

......まさかとは思うが、アイツのいつも言ってる中二病的な戯言が、本当だって言うんじゃないだろうな。


『そのまさかですね』

うわあ、また意図しないところで考えが聞かれてた上にその通りだったよ。


『と言ってもまあ、彼女の言ってることが本当に真実だとは限りません。もちろん彼女が、世間一般で言われているような、「中二病」の患者で、彼女の言っていることは全て妄想である可能性も捨てきれません』


宮崎はそんなことを、真顔に近い微笑み顔でスラスラと言う。

こいつすげえな。俺だったらこんなん、途中で吹き出してるわ。


『しかし、彼女は違う。他の人間とは、明らかに一線を画していると、分かります。まあこれは、感覚的なことであって何か理由があるわけではありませんが...』


『だが、間宮の言っていることが、「ダークネスドラグーン」が、「第3世界線」が真実だったとしてどうなる。最強の座をかけてバトルでも始めるのか』


『いえ、その逆で、僕は彼女を仲間に引き入れようと考えています』


『仲間?』


『ああ、言ってませんでしたっけ。実は僕は、僕のような異能力者が集まる、とあるグループに所属してまして。そこに彼女を引き入れようと考えています』


グループ...こんな奴がゾロゾロいるってのか。脳内だけで会話して、いっつもヘラヘラしてるのを崩さないような奴が。

想像しただけでも気持ち悪い。


『グループの目的は、僕ら異能力者のそれぞれの能力を全て持った、完璧な人間を創造し、破滅に向かって順調に進んでしまっている人類を、再興へ向かわせることです。人類が一丸となって新しい時代へ向かうには、誰か一人、優れたリーダーが必要なのですよ』


間宮と同様、やはりこういう頭のおかしい奴らが言うことは全く理解できない。

そして、これも間宮と同様、こいつも本来関わってはいけない人間なんだなあ、とも思う。


『と、いうわけで南雲さん、今までの話を統合して......』


『間宮さんの引き入れを手伝ってはくれないでしょうか?』


「断固拒否する」


脳内で言うと迫力に欠けるので、断固たる意志の表明のため、実際に声帯を大きく震わせて言う。


「そうですか。それは残念だ。間宮さんが居なくなれば、あなたの学園生活はお望み通り元の平安なものに戻るだろうに」


言いながら宮崎は、再び拳を開いて固く握る。

俺の脳内に糸が切れたような感覚が走り、宮崎の能力とやらの効力が切れたのを理解する。


「まあ確かに、間宮と関わるってのは苦行だ。こんなのが三年間続くと考えるたびに、自殺を検討したくなるね」


「だが、お前と関わったところで状況が好転するとは思えない。例えそれで、間宮が俺の前から消えるとしてもだ」


宮崎は未だ、その微笑んだ表情を崩すことはしない。

さして残念そうでもない顔で、こちらを見つめているばかりだ。


「はは、酷い言われようだなぁ。まあでも、ここまで丁寧にお断りされたら分かりました。あなたを協力者に要請するのは、ひとまず諦めましょう」


いやおい、ひとまずってなんだよ。もう2度とするんじゃねえよ。


「今日は遅くまで残って話を聞いてくださり、ありがとうございました。いずれまた会うでしょうから、その時はよろしくお願いします」


「ああ、そうかい。俺は2度とお前と出くわさないように祈っとくよ」


「ああ、それと、今日の出来事は誰にも言いふらさないで下さいね。全校生徒の記憶を消すのは、意外と面倒なんですよ。......では」


そう言い終えると宮崎は、シュン、というF1カーが目の前を通り過ぎた時のような音を出しながら、消えてしまった。

脳内会話に、記憶消去に、瞬間移動か。

なんとも信じがたい話だが、目の前で見せつけられてはどうしようもない。

ポケットに入れていたピンク色の手紙と封筒をビリビリに破いてゴミ箱に捨て。

なんとも能天気な夕方の帰り道を、一人歩いて帰った。



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