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039 ギルドカード


「クエスト報酬に関しては等分でいいか?」


 ギルドに戻ってきた四人。

 これからクエスト達成の旨を受付に伝えに行かなければならないのだが、当然クエストには報酬が存在する。

 そこでラクスは今回の報酬の分配について他の三人に話を振る。


「私はそれで構わないわよ」


「私も大丈夫です」


 ラクスの言葉に頷いたのはミリィとリリアンヌの二人。

 そもそも貴族である二人にとって報酬はさほど重要なものではなく、こうやってクエストを受けるのも基本的に訓練の一環としての意味が大きい。


 しかしそんな二人とは裏腹に手をあげる者が一人。


「あの僕、今回全く働いてないから報酬は三人で分けてくれたらいいよ」


 というのも今回のクエストは、最初に一つの魔物の群れを二つに分け、それぞれエレン・リリアンヌ、ラクス・ミリィという組み合わせで倒していくという話だった。

 しかし結果的にエレンたちが担当した魔物の群れの半分は、全てリリアンヌが倒してしまったのでエレンの出る幕は一切なかったのである。


「い、いやあれは私が勝手に倒しただけですから、エレンさんは気にしなくていいんですよ」


 慌ててリリアンヌがそれを止める。

 しかしエレンの方も何もしていないのに報酬を貰うというのは気が引けるらしく、中々頷こうとはしない。


「じゃあリリアンヌは二人分の仕事はしたってことで、とりあえずエレンの分の報酬も渡せばいいか。それを最終的にどうするかはまた二人で話してくれ」


「そうね。とりあえずクエストを一回完了してからでも良いんじゃないかしら」


 外野の二人の意見に、エレンたちも頷く。


「皆、ギルドカードは忘れてないよな?」


 その言葉に三人が頷く。


 当然のことではあるが、クエストの完了にはギルドカードの提示が必須になって来る。

 受注する際は特に必要ないのだが、完了報告をする際には全員のギルドカードを提示しなければならない。


 というのもクエスト完了がギルドランクの昇格などに直接繋がって来るのだ。

 確かに報酬自体は全員のギルドカード提示は必要ないのだが、わざわざギルドランクを上がりにくくするような者はそうそういない。

 むしろそこまで身分を隠すのは何か後ろめたいことがあると言っているようなものだ。


「じゃあ全員で行くのも面倒だし、俺がちょっと行ってくるわ」


 そう言って、まずラクスはミリィからギルドカードを受け取る。

 それにならい、リリアンヌも自分のギルドカードを差し出そうとしたところで、ふと何気なくエレンの方を見た。


「っ!?」


 そこでリリアンヌはとんでもないものを見てしまった。

 エレンが今まさにラクスに差し出そうとしているギルドカード、それはエレンが持っていていいようなものでは決してなく、それをエレンが持っていることをラクスたちには知られてはいけないものだった。


「あ、あの! ちょっと急用を思い出したので私たち先に帰りますねっ!」


「え?」


 不審がられても仕方ないと思いつつ、とりあえず今は最悪の事態だけは避けなければならない。

 そう判断したリリアンヌは咄嗟にエレンの手を握ると、呆けるラクスたち二人を置いて、ギルドから飛び出したのだった。




「……はぁ、はぁ」


 とりあえず屋敷までエレンを引っ張ってきたリリアンヌは、乱れる息を整える。

 あまり体力がある方とは言えないリリアンヌとは違い、エレンは特に疲れた様子もなく首を傾げている。


「急用なんてありましたっけ?」


「そ、そんなのただの嘘に決まってるじゃないですか!」


「う、嘘ですか?」


 リリアンヌの物凄い剣幕に、珍しくエレンがたじろぐ。

 しかしリリアンヌはそんなエレンに構う余裕すらない様子で、エレンに詰め寄る。


「どうしてエレンさんがAランク(、、、、)のギルドカード(、、、、、、、)なんて持っているんですか!?」


 リリアンヌが聞きたかったのはそれだ。

 そもそもギルドカードとはランクによってそれぞれ色が異なる。


 E~Gはブロンズ、B~Dはシルバー、そしてAはゴールドのギルドカードである。

 その上にSランクのブラックのギルドカードがあるという話だが、リリアンヌはこれまでに一度も見たことはない。


 因みにCランクのリリアンヌはシルバーのギルドカードだが、Dランクのラクスも同じシルバーだ。

 ミリィに関しては母国のヘカリムであればもっと高いランクだったのかもしれないが、国ごとにギルド登録をし直さなければいけないという決まりもある。

 そのせいで先ほどラクスに渡していたのはブロンズのギルドカードだった。


 そしてリリアンヌは自分で言うのもあれだが、Cランクというのはそれなりに優秀であることを自覚しているつもりだった。

 周りでもシルバーのギルドカードを持っているのはラクスくらいで、そのラクスもDランク。

 順調にいけばもうすぐBランクにあがるのもそう遠くないと考えていた。


 しかしつい二カ月ほど前にアニビアにやって来て、ギルドも登録したばかりのはずのエレンがAランクの証であるゴールドのギルドカードをどうして持っているのか。

 もしあのままエレンがラクスにギルドカードを渡していれば、当然ラクスは驚いただろう。

 そして少なからずエレンの実力に気付き始めるはずだ。


 これは、エレンが持っていていい代物ではないのである。


 というか、そもそもエレンは自分の実力を理解していないはずだ。

 それなのにどうしてエレンはAランクまで登り詰めたのか。

 それはエレンが自分の実力を理解していなければ説明のしようがない。


 リリアンヌは一体どういうことなのか、半ば睨むようにしてエレンに問い詰める。

 しかしエレンはそんなリリアンヌの考えをことごとく嘲笑うように、苦笑いを浮かべながら頬を掻く。


「あぁ――――それ、勘違いなんですよ」


「か、勘違い……?」


 エレンのあっけらかんとした口調に、リリアンヌは思わず聞き返す。


「僕がFランク相当の護衛依頼を受けていた時なんですけど、運悪くガーゴイルに遭遇したんですよ」


「ガーゴイル、ですか?」


 リリアンヌもよく知るそれは、鳥の魔物だ。

 といっても大して強力な魔物でもなく、駆け出しの冒険者でも数人いれば倒せるだろう魔物である。

 しかしそれが一体どうしたというのだろうか。


「それを僕が魔法で倒して、とりあえず護衛の依頼は完了したんです」


「怪我とかは無かったんですよか?」


「御者をしてくれていた人が驚いて馬車から落ちて怪我をしたくらいで、他に怪我した人とかはいなかったと思います」


「そ、そうですか」


 そこでリリアンヌは疑問に思った。

 どうして御者が馬車から落ちたりしたのか。

 突然出てきて驚くのは分かるが、それで馬車から落ちるとは考えにくい。

 最悪馬に踏まれて大怪我をしてしまう可能性だってあるはずだ。

 それなのにたかがガーゴイルごときでそこまで驚くとは考えにくい。


「まあそれでクエストの完了報告に行ったんですが、そうしたらどういうわけか僕が倒したガーゴイルが”コカトリス”だったということになっていまして」


「コカトリス!?」


 エレンの口から出てきたその名前に、リリアンヌは思わず叫ぶ。

 驚かずにはいられなかった。


 コカトリス。

 恐らくその魔物のことを知らない冒険者はいないだろう。

 鳥と蛇を合わせたような姿をしていて、その目を見てしまったが最後生きて帰ることは出来ないと言われている。


 それはかつてリリアンヌたちを襲ったワイバーンと同等――――否、それ以上に厄介で危険な魔物だ。

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