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037 ストレス発散


「エレン! そっちに魔物行ったぞ!」


「あ、分かりました。じゃあ僕が――」


「いえ! ここは私に任せてください!」


 魔法を撃とうとするエレンを制止し、リリアンヌが前に出る。

 そして近くまで迫って来ていた魔物を光魔法で倒す。


「おいエレン! もう一体そっちに行った!」


「じゃあ次は僕が――」


「いえ! それも私が何とかしますから!」


 リリアンヌはまるでエレンの相手を奪うように魔物を倒していく。

 既にエレンの代わりに何体の魔物を倒したか分からなくなっているくらいだ。

 それに引き換えエレンの方は未だに一体の魔物も倒していない。


「か、数が多いですね……!」


「僕も手伝いますよ」


「エレンさんは大人しくじっとしていてください!」


「は、はい」


 リリアンヌたちの周りにはまだまだ魔物たちがたくさんいる。

 各々で役割を分担して戦っているのだが、リリアンヌはエレンにだけは魔法を使わせないようにするべく自分の分とエレンの分の魔物を相手に奔走していた。


 一体どうしてこんなことになってしまったのか。

 それを説明するには時を少し遡る。


 ◇   ◇


「や、やっと休みです……!」


 リリアンヌは今、ミリィが留学生として学園に編入してきてから初めての休日を満喫しようとしていた。


 この一週間、リリアンヌはずっと気を張りっぱなしだった。

 同じ編入生同士だからかやけに親し気な二人に、エレンが何か言ってはいけないことを言わないか気を付けていたのだ。


 時間として見れば、何の変哲もないただの一週間。

 しかしリリアンヌにとってはこれまでの学園生活の中で、一番待ち望んだ休日だったと言っても過言ではないだろう。


「来週のことも考えて、休める時に休んでおかないと……」


「随分とお疲れのようですね」


「エ、エレンさんっ!?」


 リビングのソファーで横になっていたリリアンヌの前に、突然エレンがやって来る。

 同じ家に住んでいるのだから当然と言えば当然だ。

 しかしいくら休日とはいえだらしない姿を見せてしまったとリリアンヌは頬を赤く染めながら、慌てて身体を起こす。


「リリアンヌさんは今日は何も用事とかないんですか?」


「は、はい。今日はちょっと疲れたので一日休んでいようかと思ってます」


「あ、そうなんですね。それなら疲れが取れるようにゆっくり休まないといけませんね」


 リリアンヌの言葉に、エレンは何度か頷く。

 そしてそれ以上は特に話すこともなくなったのか、リリアンヌに背を向ける。

 しかしエレンがどこかへ外出するような支度をしているのをリリアンヌは見逃さなかった。


「あれ、エレンさんは今日はどこかへお出かけするんですか?」


「はい。実はラクスに一緒にギルドで依頼を受けないかと誘われていまして。以前は結局一緒には行けなかったので」


「えっ……」


 振り返りながら今日の予定を教えてくれるエレンに、リリアンヌは固まる。


「ち、因みにどんな依頼を受ける予定なのか窺ってもよろしいですか……?」


「確かラクスが『日々のストレスを発散しようぜ!』と言っていたので、恐らくは討伐系の依頼になると思います」


「なっ……!?」


 リリアンヌは絶句せずにはいられない。


 まさか自分の知らないところでそんな話が進んでいたとは思ってもみなかった。

 むしろエレンの実力を確かめるために、今回のことを内密に進めていた可能性も考えられる。


「……エレンさん。その依頼、私も同行していいですか?」


「え、でもさっき疲れてるから今日は休むって」


「私も日々のストレスを発散したいんです!」


 本当はエレンの実力を何としてでも周りに知られないようにするため。

 今週ずっと学園でやって来たこととほとんど変わらない。


「わ、分かりました。たぶん大丈夫だと思います」


「それじゃあすぐに準備をしてくるので、少し待っていてください」


「は、はい」


 物凄い勢いで自分の部屋まで戻っていくリリアンヌ。

 あとに残されたのはどこか驚いた様子を見せるエレンだけだった。


 ◇   ◇


「ライトニング!」


 休む暇なく魔法を撃ち続けるリリアンヌと、対照的に全く何もしていないエレン。


 もちろんそれがエレンの意思ではないことは明らかで、リリアンヌがエレンに魔法を使わせないようにしているだけだ。


「エレンさんは何もしないでください!」


 こっそり手伝おうと画策していたエレンだったが、リリアンヌに一喝されてしまう。


「……ふぅ、何とか片付きました」


「お疲れ様です」


 それからしばらくしてエレンとリリアンヌが任せられていた分の魔物たちは全て倒し終えていた。

 因みに結局エレンは一体も倒していない。


 残りはラクスたちだが、そちらの方ももうすぐ終わりそうだ。


「随分とストレスが溜まっていたんですね。全然気づきませんでした」


「ま、まあ少しは……」


 やりすぎただろうかと反省するリリアンヌではあったが、確かにエレンの言う通りかもしれない。

 倒された魔物たちには申し訳ないが、意外にもいいストレス発散になった。


 ただエレンとの距離が僅かに遠いような気がするのは、きっと気のせいだろう。


新作始めました。コメディーです。


【魔王さま、かわいい。】


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※以下あらすじ

俺の主は魔王様、五歳。とても可愛い。「わらわはさいきょうなのだー!」と最上級魔法をぶっ放す姿は何とも微笑ましく、それに比べれば最上の美貌を持つ聖女も、世界を救う勇者も鼻くそみたいなものだ。そんな魔王様との日常を脅かす奴がいるなら誰だって容赦はしない。五歳の魔王様にも配慮した蹂躙劇をお見舞いしてやる。

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