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031 噂


「エレンくんはああ言ってますけど、実際のところはどうなんですか? 本当は付き合ってるんじゃないんですか?」


「ど、どうしてそうなるんですか」


 エレンのお陰で一度は皆散らばっていったが、休み時間になると再びリリアンヌの下へ集まり始めた。

 といってもその中に男子はおらず女子しかいないのだが、男子がいなくなった分、質問の勢いが強くなった気がする。

 だが何度も違うと言っているのに、周りの女子たちはどうしてか中々納得してくれる気配を見せない。


「だって、ねえ?」


「? だって、どうしたんですか?」


「休日に付き合ってくれたってだけで、わざわざこんな髪飾りはくれないはくれないですよー」


 周りの女子たちの視線がリリアンヌの髪飾りに向けられる。


「そ、そう言われても……。これはその日の前にも色々あって、その結果エレンさんがプレゼントしてくれただけで……」


 そもそも先日のことはエレンがリリアンヌを連れ出したのではなく、リリアンヌがジョセの説教から解放されたという理由で半ば無理やりエレンを商店街に連れ出したのだ。

 だから本当ならエレンが休日に付き合ってくれたからお礼をする、ということがそもそも間違っている。


 とはいえそんなことをここで言えば再び質問の嵐が飛んでくるだけなので、このことはまた時を改めてエレンにお礼するのがいいだろう。


「じゃあ本当に恋人に対する贈り物とかじゃないんですか?」


「何度もそう言ってます……」


 リリアンヌの言葉に周りの女子たちはなんだとため息を零す。

 ため息を吐きたいのはこっちだと思わなくもないが、これ以上ことが大きくならないように余計なことはするべきではないだろう。


「でもそう考えたら、ただのお礼にこんなセンスのいい贈り物って凄いですね……。何というか、リリアンヌさんの綺麗な白髪がより一層映えている気がします」


 一人の女子の言葉に、周りの女子たちが頷く。


「そ、そうですか……?」


 以前までだったら髪のことに触れられるのはリリアンヌにとってはあまりこころよいものではなかった。

 しかしエレンの髪飾りのことも含めて、綺麗だと褒められるのはどうしてか悪い気分はしなかった。

 むしろ気を引き締めていなければ自然と頬が緩んでしまいそうである。

 確かな自分の心境の変化を感じつつ、それもエレンによる影響が大きいのだろうことが容易に想像できると胸が高鳴った。


「クラスの男子たちにも少しは見習ってもらいたいものです」


 誰かのそんな辛辣な発言にリリアンヌの周りはどっと笑いが包まれる。


 そこでふとリリアンヌはクラスの中を見渡してみる。

 いつもはリリアンヌの隣に座っているエレンだが、どうやら今は教室の中にはいないらしい。

 まあリリアンヌの周りにこれだけの女子が集まれば逃げたくなるのも無理はないだろう。


 教室に残っている男子たちは今の女子の発言を気にしているのか、どこか慌てた様子で何やら身なりを整えだしている。

 その努力が女子たちに伝わるかどうかは別にして、微笑ましい光景ではある。


「あれ、そういえばこんな時に真っ先に食いつきそうなククルがいないですね」


「どこかにもっと大きな噂のネタがあったんじゃないですか?」


 それは大いにあり得る。

 思わず苦笑いを浮かべるリリアンヌだが、ククルの悪癖にも困ったものだ。

 自分に関することは恥ずかしいがまだ大目に見よう。

 しかし今回のようにエレンに迷惑がかかるようなことは出来ればやめてほしい、というのがリリアンヌの本心だ。


 だがリリアンヌがそれを彼女に伝えたところで、素直に言うことを聞いてくれるだろうか。

 普段のククルを知るリリアンヌからすれば、その可能性は高いとは言えないだろう。


「……あ」


 どうすれば、と頭を悩ませていたリリアンヌの視界にふと一人の男子が入った。






「……それで俺に頼ってきた、と」


「はい」


 昼休み、リリアンヌは教室を出て行くラクスに話があると言って屋上にやって来ていた。

 用件はもちろんククルについて、もっと言えばククルの悪癖についてだ。


「ラクスさんの言うことならククルさんも無碍には出来ないんじゃないかと」


「どうだろうな。あいつのあれは真性だからな」


 ラクスは苦笑いを浮かべながら頬を掻く。

 確かにラクスから見ても今回の騒動はククルの勘違いによるところが大きいだろうし、その結果、いつの間にか学園中に広がっている始末だ。

 既に事情を知るクラスメイト、主に男子たちが噂は事実無根の嘘だったと広げてくれているので事態の収拾はそう遠くないだろうが、それでもエレンなどは一定期間、他の男子たちからの嫉妬の視線を受けることになるだろう。


「分かった、ククルには俺から働きかけてみるよ」


「お願いします」


 リリアンヌはラクスの言葉に安堵したように息を吐く。

 どうやらリリアンヌの話は終わりらしい。

 そこでラクスはふと何かを思い出したように声を出す。


「そういえば父上がリリアンヌに急ぎの話があるみたいだから、今日の帰りにでも城に寄ってほしいって伝言があったんだ」


「国王様が?」


 一体どんな話だろうと首を傾げながらもリリアンヌは分かりましたと頷くと、そのまま屋上からいなくなる。

 残されたラクスはというとリリアンヌの後を追い屋上を去るでもなく、ぼうっと立ち尽くしているだけだ。


「おい、どうせいるんだろ」


 突然、ラクスが誰かに向けて声をかける。


「……さすが王子ラクス様。気付いてましたか」


 するとラクスがいたところの死角から、ククルが姿を現す。

 予想通りのククルの登場にラクスはやっぱりかと呆れを露にする。


「まあお前がこんな場面にいないわけがないとは思ってたよ」


「そりゃあ聖女様と王子の密会ですからね。見逃せるはずがありませんよ!」


 拳を掲げながら宣言するククルに、ラクスはこめかみを押さえる。


「まあちょうどお前にも話があったから良かったんだけどな」


「それは珍しいこともありますね」


 意外そうに首を傾げるククルは、ラクスの話というのが気になるのか耳を傾ける。


「ミルタ街での騒動を知っているか?」


「……領主の領地が綺麗になくなったっていうあれですか?」


「さすが情報が早いな。まだ情報規制されている段階だと思っていたんだが」


「この私を舐めないでほしいですね!」


 実際ククルの情報収集力に関しては目を見張るものがある。

 ラクスは素直に感心しながら、知っているなら話は早いと話を進める。


「その街、実はどうやらリリアンヌたちが先日巡礼に行った場所らしい」


「……ほう。じゃあ今回の一件ももしかしら何かしらあの二人が関係している可能性がある、と」


 ククルの言葉にラクスは察しが早くて助かる、と頷く。


「それに今回リリアンヌが父上に呼ばれたタイミングといい、全てが無関係とは考えにくい」


 いくら聖女とはいえこんなに急に国王から招集がかかるのはおかしい。

 だとすると聖女絡みの話というよりも、エレン絡みの話であると考えるのが妥当だろう。


「……それで私に話っていうのは?」


「そんなのお前ならもう察しているだろ」


 ラクスの言葉にククルが二ッと口の端を釣り上げる。


これまで通り(、、、、、、)、エレンさんたちの周辺の調査ということで大丈夫ですね?」


「あぁ、二人に気付かれないようにな」


「そんなヘマをするとお思いで?」


「さぁどうだろうな。エレンは手強そうだ」


 随分と自信満々なククルの言葉に、ラクスは苦笑いを浮かべる。


「まあ十分気を付けて行動しますよ」


「ああ、よろしく頼む」


 話が終わり、ククルが背中を見せる。

 その背中を見て、ラクスは一つ思い出したようにククルを呼び止める。


「噂もほどほどにな」


「善処しまーす」


 気の抜けた返事と共に屋上を後にするククルに、今度こそ本当に一人残されたラクスはため息を零した。


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