入学編2
能力発現は次話です・・・申し訳ありませんが、もう一話だけお付き合い下さい。
入学式が始まり、最初は予想通り「暖かな日差しが心地よい・・・」から始まる校長の話からであり、入学式の後に重要なテストがあるらしく、今後の学校生活に大きく関わるとのこと。皆、声には出していないが気合を入れ直しているようだ。ただ気になったのが、誰も何も違和感に気付かないことだ。今後の学校生活に関わるようなテストを普通、予告なしでやるだろうか?よっぽど簡単なのか、まぁまずありえない。だって、ここはあの東都高校なのだ。そんなに温い筈がない。
その後、来賓、新入生代表、在校生代表と続き、最後の理事長からの連絡となった。
一応すでに入学式は終了していて、保護者は退席させられ生徒のみが講堂に残っていた。そして理事長先生の話が始まる頃になり、さっきから気になっていたことがあった。さっきまで開いていたはずのドアが厳重にロックされているのだ。だが、周りを見渡してもこれまた異変に気付いている者はいないようだった。疑問を残しつつ話が始まり、理事長は第一声でこう言い放った。
「あなた方は今日から我が校の生徒であり、モルモットです」と。
空気が凍る。まぁ、当たり前だ。しれっと変な単語が聞こえたのだ、誰だってこうなる。そんな中、俺は一人舌打ちをした。厳重にロックされた扉、厳重にロックしなければならなかった扉、恐らくこの後に続く言葉によって、生徒が扉に密集するのだろう。密集というより暴動だろうが、果たして学校側がそれを想定しておらず、また、起こったとして騒ぎが収まるのをただ待っているなんてことがあるとはとても思えない。これが言っていたテストなのだろうか?だとしたら、どういう形で今後の高校生活に関わってくるのだろうか?考え出したらきりがない。取り敢えず大人しくしているべきだろう。理事長は続けた。
「モルモットと言っても何も皆さんが今後、卒業後を生きていく上で何か支障をきたすことはありません。モルモットという言い方が良くなかったですね。研究のちょっとしたモニターになって頂きます、と言えばいいでしょうか」
全員の間に安堵の空気が流れるが何故、皆気付かないのだろうか?理事長は言い方を少し変えただけで、実際何も変わらないことに。
「具体的に何をするかというと、入学式の後検査を行い、皆さんには一つずつ『能力』を与えます。これは皆さんが今まで生きてきた中で最もなじみ深いものに関わりのあるものになっています。」
『能力』?冗談もほどほどに・・・と言いたいところではあるが本気なのだろう、目が本気だ。テストとは検査のことなのだろうか・・・?これまた、席が騒がしくなった。
「静粛に。能力を与えられたあなた方はその能力を使いこなせるようにならなければいけません。というのも、校内ではその能力を用いて他の人と競ってもらうためです。これは成績にも影響し、能力を使えていないとなるといくら成績が良くても最悪の場合、退学となる可能性があります。競う、とは文字通り体育のように実技として扱い、人と戦って頂きます。最悪、骨折などの重傷を負う可能性もありますが、そこは帝都大学の医療チームを常駐させているのでご安心ください。」
安心できるはずがないだろう・・・などと心の中でツッコミを入れていたが、それ以前に気になったことがある。さすがにこれは全員気付いているようだった。重傷を負う可能性があるといわれたのだ、死ぬ可能性が無いと言い切れるわけがない。全員の顔に緊張が走る。
「但し、毎年一部の人が不慮の事故で亡くなってしまいます。戦闘というと白熱してしまい、手加減をし損ねるというのが毎回のパターンです。そのため、皆さんにはよく注意して臨んで頂きたいと思います。」
毎年数人の死者がでる、その事実だけでこの場を混乱させるには事足りた。
「おい、ふざけんなよ!」
「死者が出るようなことをやっているなんて聞いてないぞ!」
「今からでも学校を辞めて、別のところに移る」
予想した通り、入り口には多くの生徒が殺到した。そして、それを理事長は冷ややかな目で見ていたが、やがて
「取り押さえなさい」
と冷たく言い放ち、扉付近にいた職員に生徒たちを捕えさせた。取り押さえられた生徒達はそのままどこかに連れていかれた。恐らく、これが最初に言っていたテストなのだろう。
ふと隣を見ると、先に声をかけてきた(と思う)女子が何事もなく座っていた。
「お前は動じなかったんだな」
「えぇ、何となく予想はついていましたから」
これには少しばかり驚いた。ほとんど人間が気付いていない思っていたが、思いのほか近くに分かっていた人間がいたようだ。そうして、連れられて行く生徒達震えながら眺める生徒、何事もなく座る生徒など合わせて最初の半分くらいの100人くらいが講堂に残っていた。
「おや、今年の新入生は出来がいいですね」
理事長は驚いたようにつぶやいた。すると、俺の隣に座っていた女子が突然、挙手をした。理事長は反応し、
「何ですか?」
「今のが先ほど校長先生が仰っていた試験ということよろしいのでしょうか?」
「察しがいいですね。その通りです。ちなみに君、名前は?」
「桜井 心と申します」
「桜井さんですね。覚えておきましょう。それにしても、今年の新入生は出来が良いですね」
理事長は満足げに頷き、
「それでは、連絡も済みましたし検査に移りましょうか」
といった。しかし生徒たちの中に、この移り変わりについていけている者はほとんどいなかった。名前順に検査室へと移動を始め、俺も腰を上げ移動を開始した。