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逃げられない・3






自室のベッドに横になって、今日一日何度目かのため息をこぼした。

ここ数日を振り返ると、彼女との毎日というものを、俺はすこし身構えていたのかもしれないと思った。

奴隷とか言うもんだからもっとこう…家の隅々まで掃除させられたり、聖女様の足洗ったり、飯も貰えず労働を強いられるのかと思っていた。あと、こう性的な意味のものもすこし警戒していた。

でも、ここで彼女が俺に告げるのは。

―散歩に行きましょう。

―ぬいぐるみを直してほしいの。

―パイを焼いたから一緒に食べましょう。

―夜の花畑で月を見ましょう。

そんなものばかりだった。

ほんとうに、なんてことない「聖女さまのワガママ」でしかない。

彼女がこの檻のなかで俺に望むのは、ぐいぐい腕を引っ張って甘えられる父親であり、母親であり、きょうだいであり、友人であり、恋人の姿なのだろう。

それはたしかに重荷だ。それに血の繋がりも心の繋がりもないのであれば、なるほどただの奴隷だ。

だけど正直言うと、そんな彼女との時間が、嫌いではない自分がいる。

以前なら、いやしかし油断させたところを…なんて考えてもいただろうが。

何かしてやろうなんてのはまだ考えちゃいないが、時間の問題のような気もする。

昨日、彼女は言った。逃げ出せばいいのに、私たちはそうはしないと。

答えは簡単だ。

ドルグワントの子供っぽさや、時折見せる、ドルグワントが自分自身の期待を嘲笑うかのような横顔が、俺の魂をどうしようもなく揺さぶる。

俺を見つめて心底幸せそうに笑ったり、心底残念そうに俯いたり、俺はそのたび、死ぬほどの罪悪感に駆られるのだ。

俺カインは彼女を笑顔に出来るのに、俺グレンでは彼女を喜ばせられないのだと、突きつけられている気分になる。

「絆されてんのかな…」

天井に吐いた泥が、そのまま俺の頭へと戻ってくる。

腕の痣に問いかける。

これはお前の感情か? これは、お前たちの運命か?

俺の心は―ただの容れ物なのか、と。

俺はまだ、この感情に名前をつけたくないと思った。彼女のように愚かだと決めつけてしまえば、笑い飛ばせたかもしれないのに。







 

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