誰なら知っている
次の日も、似たようなものだった。
俺の日常にドルグワントは紛れ込み、俺の存在を踏み荒らす。
あくまでもそっと寄り添うように。自分のやっていることは当然だとでも言いたげに。
俺が歩けばとてとて付いて来て、立ち止まるとそれを観察している。
ときどき手を繋ぎたがったり、同じものを見ろと身体を引き寄せてくる。
そうして、必ず、「懐かしい」だとか「前のアナタなら」と漏らす。悪びれもせず。
「ここからの星空はいいでしょう」
ドルグワントに誘われて、夜の中庭を訪れた。
「ああ。硝子と植物越しよりはマシだ」
「ふふ。そうなの。私は大好き」
そこは一角だけ、他では相変わらずモサモサ生い茂る植物たちが、月光にくり抜かれたように姿を潜めていた。
パラソルのついたテーブルと、二脚のガーデンチェアだけがここの住人のようだ。
「やっぱり外に出たいもんなのか?」
「いいえ、別に。風景が違うのが好きなだけ」
椅子に腰掛け、頬杖をついて夜空を見上げるドルグワントは、サーカスをのショーを見つめる子供の横顔と同じだ。
用意した紅茶をドルグワントに手渡して、隣の椅子に腰掛けた。
これが俺の役目だしな、と、誰かに言い聞かせた。
「アンタ、姿を見ないときはいつもなにをしてるんだ?」
「お祈りよ。今日も明日も明後日も、あの町の人々が幸福でありますようにって。悪いことが何も起きず―誰もが家族と優しい朝と夜を過ごせますように。たとえ悲しいことがあっても、それが少しでも早く癒されますように」
「ずっと?」
「ええ。お祈りしなくちゃならないことは、たくさんあるもの」
そんなのまるで本物の聖女様じゃないか、ガラでもない。
「アンタがねえ」
「だってアナタも、そうだって信じていたでしょう」
「別に今だって疑ってるワケじゃないさ」
「そう?こんな意地の悪い不気味な女が―って、少しも思わなかった?」
俺は理解した。
わざとなんだろう、と。
彼女は俺を試したいのだ。答えの是非は問わず、彼女なりに、俺を探ろうとしている。
何の為に。俺は、カインとかいうやつの代わりにしか過ぎないんだろうに。
「少しどころか。だがアンタを否定できる材料もない。それだけだ」
違うな。
俺が“良作なのか”―それが知りたいんだ。
なぜならドルグワントが、満足そうに微笑えんでいたからだ。
俺の肩に体重を預けて、噛み締めるように、彼女は笑っていた。
もしも月に俺たちの姿が反射していたら、どんな風に映っているのだろう。