祈る人を癒す人・2
「グレン。アナタが私の行いで傷ついているのはわかっているわ」
「ああ…」
押し倒した体勢のまま、ドルグワントが俺背中に腕を回し、頭を撫でた。
俺はどっと力が抜けて、彼女の隣に、身体を投げ出すように横たわった。
「私だって、アナタの顔を見るだけで辛いわ」
「だろうな」
大の字になると、硝子と蔦の向こうから、陽の光が俺を貫いた。
お天道さんは、俺たちになどお構いなしだ。
「それでもアナタがいいの…お願い…」
「うん…」
目元を赤くしたドルグワントを抱き寄せた。
「なにも要らないの。嫌いでいいから」
腕の痣に問う。
彼女を愛しているのは、誰だ?
書斎に並べられた古い写真を眺めた。
彼女が、これ以上ない幸せの表情で、カメラを向ける俺に手を振っていた。
俺が彼女に気づいて、おいでと笑う場面もあった。
それらの側に、この間撮った新しい写真の入ったフレームを飾る。二人が一緒に画面に入るように、俺がカメラを自分たち側に向けて撮ったものだ。ここには俺たち以外いないから、このままだと一生よりも更に永いこと、二人並んだ写真が無いままになりそうだったから。
俺はドルグワントを愛している。
ああ、たしかに俺はカインで、カインは俺だ。
グレンという人格はカインが別の環境で育った場合のIfでしかない。
それでも俺は、今ここに居る俺は、間違いなくグレンだ。
それを容易に受け入れられることが―なによりの証明になるだろう。
だがひとつ問題がある。なぜドルグワントは、カインの人格と記憶を再現しなかった?
なぜ真に愛し合っていたなら、全く同じ真作ではなく、『自分に都合の悪い贋作』を創ったんだ?
ふと俺は、硝子の向こうに広がる楽園に目をやった。
果てのない夜空と月明かりの下、色とりどり、大きさも種類もバラバラの植物たちが、自分たちの存在を主張するようにいきいきと咲き合って、無造作に絡まって広がって、永劫に繰り返している。
それは、子供の頃、石とか木の実とかメダルとか、好きなものを好きなだけ押し込んだ、自分だけの“宝箱”によく似ていた。
―簡単なことじゃないか。
最初に会った時に言っていた。「思い出しちゃったのよ」「私は聖女だから」「子供のいない夫婦に貸した」と。
つまるところ彼女は純粋な善意と慈愛で、自分にとって唯一無二の存在すら、人々に分け与えたのだ。
子供が友達に言うのと同じ。
自分の宝物だけど、誰かに悲しい顔をしていてほしくないから。
そして戻ってきた俺に、今度はただ、“一緒にいてほしい”と望んでいる。
なら俺の最善は決まっている。
左腕の痣に答えを出そう。