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都市夜光  作者: にゃんころ餅
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4話 ニーチェ

 深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ。

 この言葉は昔の誰か偉い人が言ったらしい。

 深淵とは言葉通りの意味ではなくて、混沌とした、哲学的な比喩のことだそうだけど。

 ……僕が言いたいのは気をつけなきゃいけないってこと、覗き込んだ水溜まりが深く澱んだ深淵かもしれない。

 覗くつもりがなくても深淵は教えてはくれないし、覗いてしまったなら逃れようはない。

 ええと、どこまで話したかな。

 僕は現場を見張っていた。

 もし犯人がいるとして、現場にここを選んだのなら犯人は土地勘を持っているはずだ。

 だから現場を見張っていれば、必ず犯人は現れる。

 ……他にあてがなかったってこともあったかもしれない。

 レンタカーを一週間契約で借りて、車の中からひたすら道を見張った。

 不思議なことに近所の人はこの道を避けて通るようだったから、数時間に一人しか通らない道を見張ることは苦痛ですらあったけれど、連絡のつかない彼女のことを思えばやめようとは思わなかった。

 見張り始めて三日目の夜だった。

 小屋から男が出てきた。

 僕はびっくりしたのでよく覚えている。

 額が狭く鼻は低い、エラが張ったように左右に広がっている顔。驚くほど背が低かった。

 シャツとジーパンという恰好はどこにでもいそうな感じだが、少なくとも日本人にはいない特徴的な風貌をしていた。

 僕は男が小屋に入ったところを見ていない、二十四時間見張っているというわけではもちろんないから、見逃したのかもしれないが、夜中も含めてできる限り見張っていた。

 それに小屋に明かりがついているのを見たことがなかった。

 だから僕は空き家だろうと勝手にあたりをつけていた。

 男はコンビニに向かうようだった。僕はその外国人を追ってみることにした。

 彼女が犯罪に巻き込まれているのなら犯人が外国人であるというのはありえそうなことだからね。

 いいかげん張り込みにうんざりしていたってこともあった。

 僕は車を降りて、こっそりと尾行を始めた。

 男は道を進み角を曲がったところで僕は見失わないよう小走りになりながら追いかけた。

 ――ちょうど角にいつかの黒い猫がいたように思う。

 実際に姿を見たわけじゃないけど垣根の向こうで何かが動く気配があった。

 尾行してみると男はいかにも奇妙だった。

 コンビニの向かいの駐車場へ行き、なにをするでもなくぼんやりと座っているだけなのだ。

 僕はコンビニの中から雑誌を見ているふりをしながら様子を窺っていた。

 気が付けば時間は深夜2時を回っていた。

 ところでどうして女の子ってやつは足を出したがるのかね。

 真冬にコートを着込みながらミニスカートっていうファッションだとか、見た目は可愛らしいけども見ているこっちが震えてこないかい。

 ……なんでそんな目で見るかな。わかった、僕が悪かったよ。

 ……続けるよ、僕が立ち読みのフリをしているコンビニに、若い女性が来た。

 上は真っ白な長袖のニットで腰まで伸びていた、下はたぶん短いズボンだと思うけど、見えないくらい短いんだ。

 ももを出して、長いブーツを履いていた。

 ……なんだよ、うるさいな、僕は女物のことなんかわからないったら。

 これは重要じゃないんだ、いいから続けさせてくれ。

 とにかく若い女性が来て、なにか買って外に出た。

 すると例の男が女の後をついていく。

 コンビニは獲物を探す場所だった。僕は事件の核心をとうとう捉えた。

 女の後を追う男を僕は追った。

 ……ややこしいなって、いいから話を続けさせてくれってば。

 女は思った通り例の道を通った。

 男はその日は何もせずに小屋に入っていったよ。

 僕は警察へ行くか迷った。本当に迷ったんだ。

 行けばよかったと思う、なにも変わらなかったかもしれないけど、あの時までなら手を引くことができたんじゃないか。

 今はそう思うけども、当時は警察に相手にされなかったことや、被害がなければ動けない警察の不祥事がニュースでばんばんやっていた頃だったから、僕は確証を掴むことにした。

 決定的な現場を押さえて、現行犯で捕まえてやろうってね。

 彼女の失踪に男が関わっているのはもう確実に思えた。

 車に戻って、準備を整えることにした。

 バックミラーにあの猫が居たような気がしたけど、はっきりとは見てない。

 きっと居たと思う。

 僕はもう深淵に覗かれていたんだ。

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