2話 彼女の家
探そうと思ったって、普通の大学生に何ができるというのだろう。
警察へ行っても相手にされなかったし、赤の他人である僕に情報を漏らすわけもなかった。
写真を持って近所の人に尋ねて回ったけど、つい最近越してきた彼女を知っている人すらいない有様だった。
僕は途方にくれてしまった。
そんな時に幸運にも彼女のアパートの大家さんに会えたんだ。
大家さんは僕のことを彼女の恋人だと思ったらしく、物を持ち出さないならという条件で彼女の部屋に通してくれた。
僕たちはまだ付き合っていなかった、彼女はどう思っていたかわからないけど告白はしていなかった。
だけど僕は勘違いを利用することにした、他にあてもなかったしね。
彼女の部屋にはなにもなかった、多少の家具とパソコンと布団、たくさんの服とカバン、いかにも独り暮らしという部屋だ。
掃除は行き届いていて、というかぐちゃぐちゃにするほどの物がなかった。
玄関の脇にゴミ袋があったそうだが、今はなにもなかった。
入ってすぐになにか変だなと思ったけど、それがどうしてだがわからなかった。
僕はなにかないかとパソコンをつけてみた。幸いパスワードはなく、なにかのキャラクターらしい壁紙のデスクトップ画面になった。
悪いとは思ったけど、メールをチェックしたりブログをやってないか探したりした。でも不審なものはなにもなかった。
なんとなく履歴を確かめると、大手動画サイトを見たのが最後の操作だった。
履歴には操作時間も残っていて、大学に来なくなった日の午前2時だった。
僕は毎日彼女に会っていたし、カレンダーで確認しても間違いなかった。
つまり彼女は夜ここに居て、朝にはいなくなっていたということだ。
そんなことありえるのだろうか。
パソコンで遊んでいるうちに夜も更け、急に家出したくなって行方知れずになる。
やっぱり変だ。
考えていると玄関で感じた違和感の正体に僕は気付いた。
玄関にはなにもなかった。靴すらも。
つまり彼女は外にでたのだ。
深夜に誰にも言わずに外出する、僕には心当たりがある、コンビニに向かったんだ。
夜中まで遊んでいるとき、僕たちはたびたびコンビニを利用した。
深夜のコンビニは人がいない、でも商品は昼間と変わらず便利だった。
カップラーメンを買ってその場でお湯を入れたこともある。
彼女はコンビニに行って、そして帰ってこなかったのだ。
これは想像だけどきっと真実だ。彼女は事件に巻き込まれたのだ。