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96話 普通のデートを

 昔は飼い猫って目線で、それから先は偉大な冒険者って目線で、俺、意外とミーシャを普通の女の子って見ることが少なかったかもしれない。


 よし、今日の目標は「とことん普通にデートをする」ということにしよう。


「ミーシャ、どこかで甘いものでも食べようか」


「名案ね! 私、おいしいタルトが食べたいわ!」


 ミーシャが荷物を持ったまま俺にひっついてくる。


 おしゃれなカフェが大通りから西にはずれたところにあるはずだ。しかも、少し奥まったところにあるため、初めて王都に来たような人間にはわからないので、入らないらしい。なので、自然と店内も落ち着いた空気になっているという。


 ちなみに、その情報は前にヴェラドンナから聞いたものだ。

 もともと暗殺者だったからなのか、ヴェラドンナは王都のことにかなり詳しい。レナも詳しくはあるのだが、あそこの貴族は実はけっこう悪い奴だとか、あっちの金持ちの商人は愛人にぞっこんで夫婦仲は冷たいとか、ゴシップ的なことに特化していて、デートの参考にはまったくならない。


 ミーシャにぴたっと密着されて歩くのは照れくさかったが、デートなんだからそれでいいのだ。


 路地にあるそのカフェはたしかにちょっとわかりにくくて、知る人ぞ知るという雰囲気があった。


 お店はシックな印象で、それでいておしゃれで、うるさくもなく、まさにデートには最適だった。


「ご主人様、こんなにセンスのいいお店を知っているのね。惚れ直しちゃったわ」

「店を選んだだけで好感度が上がるんだったら楽でいいや」

「大事なことよ。だって、お店の雰囲気が悪かったら、そこに入った二人の空気まで悪くなることってあるでしょ」

「それはたしかにそうかもな。店の中でケンカとかされたら、無関係の立場でも変な空気になるし」


 ミーシャはカボチャのタルトを頼んだ。俺も同じのにしようと言ったら、ミーシャに「違うのにして」と言われた。

「二人ずつ別々のものにしたら、半分ずつシェアして、二つの味が楽しめるでしょ」

「なるほどな。じゃあ、俺はこのアップルパイにしようか」


 しばらくすると、タルトとパイがお茶と一緒に運ばれてきた。


 まずは自分で注文したアップルパイを食べるか。

 真ん中あたりに切れ目を入れて、半分はミーシャの分ということにしておく。

 一口目からリンゴの酸味と甘さが絶妙に合っている。


「これは本当に美味い」

 さすがあまり人のこなそうな立地で店をやれているだけのことはある。この味は本物だ。


「私が注文したカボチャのタルトも後口のいい甘さで素晴らしいわ」

 ミーシャもとてもうれしそうにタルトを食べている。


「この味は是非ご主人様にも知ってもらわないとね」

 ミーシャはタルトをフォークに刺すと、俺の口のほうに持ってきた。

「はい、あ~んして、ご主人様」


「それはけっこう恥ずかしいな……」

 ほかにお客さんもいるし、微妙に注目されている気がする。


「大丈夫よ。次はご主人様のアップルパイを同じように食べさせてもらうから」

「いや、それ、恥ずかしさが倍になるだけだろ」

 ミーシャがそこで小悪魔みたいに笑う。

「早く食べないと、もっとイタズラしちゃうわよ」


 これ、周囲からはすごいバカップルに見えるだろうな……。

 これ以上、お店でいちゃつくと出禁をくらいそうなので、ぱくっと食べた。


「たしかに美味いな。素材の味を生かして、しかもちゃんとお菓子になってる」


「はい、次はご主人様のほうを食べさせて」

 かわいく口を開けて待機しているミーシャ。


 そうだ、臆してはいけない。今日は普通のデートをする日なのだ。

 Sランク冒険者になった翌日だぞ。記念日にするぐらいの気持ちでちょうどいいんだ。


 俺もミーシャの口にアップルパイを運ぶ。

 ぱくっとその口が閉じる。


「う~ん! おいしい! 本当に素晴らしいわね!」


 ミーシャがこれ以上ないぐらいの笑顔を見せる。

 この店を選んで本当に正解だったな。ほどほどのお店だったらここまでの表情にはならなかっただろうし。


 ただ、それから先もミーシャが「はい、どうぞ、ご主人様」とカボチャのタルトを食べさせてくるのはちょっと羞恥心的な意味でつらかったが……。


 いやいや、今日は普通のデートをする日なんだ。これぐらい、愛し合っているカップルならやることだ。


 それにミーシャといちゃつけること自体はとても楽しいし。


 こうして、お菓子はすぐになくなった。


 だが、そこでミーシャがなぜか名残惜しそうな、切なそうな顔になった。

 そんな憂いを帯びた顔になる理由がまったくわからなかったので、ちょっとどきりとした。

 いったい、何があったんだろうか。


 しかも、「はぁ……」と片肘をテーブルについてため息までつく有様だ。


「なあ、ミーシャ、どうした? 何でも俺に言えよ」

「…………た、たいしたことじゃないから。我慢すればすむことだから……」

「ミーシャが我慢するなんてらしくないだろ」


 いよいよ心配になってくる。


「あの、ご主人様……もう一つタルト、注文していいかしら……? これだけじゃ物足りないの……」

 思わず俺は噴き出した。

「なんだ、そんなことか」

「笑い事じゃないわよ。二つ目をくださいって女の子としてすごく食いしん坊だって思われるわよ!」


 しょうがない、一芝居打つか。


「あ~あ、これだけじゃまだ足りないな~。すいません、カボチャのタルト一つ追加でください」


 いかにも俺が腹減ってるという態度で、オーダーした。ちょっとわざとらしかった、むしろ相当な大根芝居だったと思うが、そんなことまでいちいち店員は気にしてないだろう。


「これなら、いいんじゃないか?」

「ご主人様、ありがとう!」


 ミーシャも食べる量とか、そういうところは気をつかうんだなと思って、新鮮だった。


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