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94話 今日は朝寝坊

 Sランク冒険者として讃えられた翌日は、ダンジョンに潜るのは休みにした。

 ほかの冒険者も参加していたし、荷運びの途中にも休日は入れていたのだが、一つのプロジェクトが進行中だったわけだから、ゆっくりする気分にもなれなかったのだ。


 なので、荷運びが終わったので、その日は昼前ぐらいまでゆっくりと眠ることにした。なお、ヴェラドンナにも今日は昼前まで寝てると言ったので起こしに来られたりもしない。


 といっても、朝になれば目は覚める。朝日で目を開けると、ミーシャが人の姿になったまま、俺のすぐ横で体を「く」の字にして眠っていた。もう、最近は変化魔法も慣れてきて、ずっと人の姿で生活ができる。


「せっかくだし、もうひと眠りするか」

「あっ、ご主人様、目が覚めたのね」


 俺の声に反応してすぐにミーシャが目を開けた。


「ミーシャは起きてたのか」

「猫は早起きだもの」


 もぞもぞとミーシャはベッドを移動して俺の体に乗ってくる。そのまま、ぎゅっと抱きついてきた。


「今日は昼まで寝てていいんでしょう。私、ご主人様とこうしてたいわ」


「えっ、昼まで相当時間あるぞ……」


「たまにはいいじゃない。お仕事の途中だと、ほら、あんまり夜更かしもしづらかったし」

「うん、そうだな……」

 なんで夜更かしすることになるかは無粋だから黙っておこう。


「だから、今は心置きなく、ご主人様に引っ付いていたいの。この猫心、わかるでしょ?」

 そこは乙女心じゃなくて猫心なんだな。

「わかった、わかった。そうしていていいぞ」

「ありがとう、ご主人様」


 ミーシャは俺の頬をぺろぺろ舐めた。

 これはそんなに卑猥な意図はなくて、猫としての愛情表現だ。俺としては変な気持ちになりそうになるのだが、ここは堂々としているのが正しい。


 背中をゆっくりと撫でてやる。


「ご主人様の手も変わったわね。昔はもっと薄っぺらい感じだったけど、Sランク冒険者になった今は、そうね、もっとごつごつしてるわ」

 あんまり意識してなかったけど、手も丈夫というか頑丈にはなってるよな。


「もしかして、硬くて嫌か?」

「あっ、そんな意味では言ってないから心配しないで。昔のご主人様も好きだけど、今のご主人様の手はとても安心感があるの。この手に私、守ってもらえてるんだって気持ちになるの」


「戦闘だともっぱらお前に守られてるんだけどな」

「そんなことないわよ。ご主人様もすごく強くなってるじゃない」

 俺の言葉をミーシャは優しい声で打ち消した。

「だって、ご主人様も同じSランク冒険者よ。誰かを守ってあげられるに決まっているわ。もちろん私でもね」


 ミーシャが俺の心臓のあたりに頭を置いた。なんだか、俺の心臓の音を聞いているみたいだった。


「Sランク冒険者なんて、そうそうなれるものじゃないわ。ご主人様は間違いなく自分の手でその地位をつかんだのよ。もっともっと自慢していいぐらいなのよ」

「でも、俺が急に偉そうになったら、ミーシャも変に思うだろ?」

「そうね、ご主人様はご主人様だもんね」


 ミーシャが獣人になれたばかりの頃は、もっと愛の形も激しかった気がするけど、こういう静かな愛の示し方も悪くないかな。


 今の俺たちは本当に信頼しあえている。

 この関係がずっと、ずっと、続いたらいいよな。


 窓から差し込む朝日がほどよくあたたかくて、ミーシャはうとうととまどろみだした。

 俺もまた眠くなってくる。

 夢の中でミーシャと王都を買い物していた。Sランク冒険者だと町の人が賞賛してくれるが、俺とミーシャはごく普通に買い物を楽しんでいる。


 そう、強さの面で俺たちが変わったとしても、俺とミーシャの関係はちっとも変わらないんだ。なにせ、冒険者なんてものになる前からの仲だからな。


 多分、二時間ほど眠っていたらしい。ミーシャは俺の胸でかわいい寝息を立てている。


「うにゅうにゅ……ご主人様……」

 この声は寝言だな。

 ミーシャのほうも夢で俺と行動を共にしているんだな。そりゃ、これだけ引っついて眠れば、夢で相手が出てきたっておかしくないか。


「うにゅ……もう、ご主人様の、えっち……」

 ど、どんな夢を見てるんだ……。

「ご主人様……ここじゃダメ……」

 だから、どんな夢なんだよ!


 もう一度寝ようかと思ったが、寝言が気になって眼が冴えてきた。


(いっそ、起こそうかな……。でも、のんびりしていい日に起こすのもおかしいしな……)


 俺はけっこう長い時間、ミーシャの寝言を聞きながら過ごした。


 そのあと、ようやく目を覚ましたミーシャは俺を見るなり、顔を赤くした。


「ご主人様と引っつきすぎたかしら……。へ、変な夢見ちゃったわ……」


「そっか……。まあ、夢だから別にいいだろ……」


「うん……。夢だもんね……」


 ちょうどいい時間だ。俺とミーシャは着替えて、一階のダイニングのほうに降りていった。


 昼からは夢のとおり、ミーシャと買い物にでも行くかな。

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