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89話 地下ダンジョンの宗教

 さすがに王城だけあって、ちゃんと歴史学者みたいなのまで詰めていたらしい。


 王様が「この者たちは国の歴史書を編纂しておる者たちじゃ」と俺たちに説明してくれた。


 やってきた三人の学者は資料を見るなり、すぐに驚きを顔に表していた。


「これはラクリ王国時代のもの……」

「ラクリ教に関する書物がここまで大量に発見されたことは過去にないはず……」

「まさか、生きている間にこんな大発見を目にするとは……」


 やはり、とんでもないものだったようだ。


「ご主人様、いいことしてよかったわね」

「そうだな、無茶苦茶感激してもらってるようだな」


 学者の一人は涙を流していた。名前も知らない人だけど、そこまで喜んでもらえると、素直にうれしいと思う。


「これ、ちなみにどこで発見されたのじゃな?」


 尋ねてきた学者の顔はもう爛々と輝いていた。


「王都のはずれにダンジョンがあるじゃないですか。そこの地下34階層です」


 言ってもかまわないだろう。なにせ、普通のパーティーじゃ、そこまで来れないだろうし、装備品は先にめぼしいものはこちらで回収できる。


「そうか、ダンジョンの地下にラクリ教の大神殿が隠されているという話は聞いたことがあったのだが、モンスターが強いのでほぼ手つかずだったのだ……。その謎がついに解けることになるとは……」


 俺たちとしてもダンジョンに関することなので、興味があった。


「あの、ラクリ教ってどういう宗教なんですか?」


「詳しいことはまだ解明されておらんのだが、とにかく、かつてこのあたり一帯を支配した者達の教えであったことは確かじゃ。ただ、秘密結社的なところがあって宗教自体に参加できる者は限定されておった。宗教関係者は地下深くを都市のようにして生活しておったというが、その証拠を見つけることがずっとできておらんかったのだ」


「じゃあ、地下の神殿みたいなのはそのラクリ教の連中が作ったものか」


「でも、人が生きてる気配も使ってる気配もなかったから、滅亡したんでしょうね。その原因まではわからないけど」


 っていうか、あんな階層で生活するほうが無理がある。モンスターに遭遇するたびに誰か死ぬぞ。

 住人全員がAランク冒険者だったりしない限りはやっていけないだろう。それでもきついかもしれないぐらいだ。


「ぜひとも、その地下にある記録を持ってきていただきたい……。調べていけば、ラクリ教がどういった教えだったかもわかるし、冒険者の方にも益のあることがわかってくるかもしれぬ」


「たとえばどういうことがあるんですか?」


「おそらく、ラクリ教は様々な特殊な魔法を使っていたと思われる。それを復興することができれば、現在使われている魔法が大幅に増える可能性がある」


「それはたしかに夢がある話かも……」


 たしかに「冒険者」に益があるな。冒険者個人ではなく、今後の冒険者という存在そのものにとってプラスになる。


「ほかにも、彼らは特殊なマジックアイテムも多く所有していた。上手くいけば、装備品の質も大きく底上げできるかもしれん」


 俺とミーシャは少しどきりとした。レナなんかは尻尾が妙に左右に揺れた。


 俺たちのあの発見が冒険者業界に激震を走らせるかもしれないわけか。

 いや、冷静に考えればそれはそうだよな。これまでほとんど誰もまともに調査できなかった階層を徹底的に調べれば、それぐらいのインパクトがあってもおかしくはない。


 その階層に降り立った奴ぐらいなら過去にもいただろう。

 それでも、その大半はかろうじてやってきたってぐらいで呑気に温泉につかったり、アイテムを調べていたりする余裕はなかったに違いない。


 もし調べることができていたら、あんなにいいアイテムが手つかずで残っているわけがないのだ。


「これは国としてものんびり構えていていい問題でもないようだな」


 国王アブタールも事の重大さを感じ取ったらしい。

 もはや、たんなる歴史研究を超えて、大幅な国力アップにもつながるかもしれない、そう考えたのだろう。


「ケイジたちのパーティー一行よ。是非とも、地下30階層より下の本格的探索をお願いしたい。これができるのはこの国で君たちしかいない」


 ミーシャが一歩前に出て、頭を下げた。


「わかりました、王様。むしろ、お願いいたしたいことがあるのですが」


「ミーシャよ、申してみよ」


「ほかのAランク冒険者たちには捜索の命令を出さないでいただきたいのです。彼らが行くと、命に関わりますし、探索中に死ぬようなことがあれば、結局資料類が散逸します。ダンジョン内のことは私たちのパーティーに独占させてください」


 ほかのパーティーが来たら危ないのも、アイテムがぐちゃぐちゃになるのも事実だし、もっと端的に、ミーシャは余計な連中に来てほしくないんだろうな。


 地下の深いところにいたミーシャはすごく生き生きしていた。

 ある意味、ミーシャの実力を一番発揮できるのはとことん深いダンジョンなのだ。

 ミーシャという黒猫にとって、これ以上ないほどの遊び場で、縄張りなんだ。


 そこに部外者が来て、しかも屍をさらしていったんじゃ、気分も悪くなるってことだ。


「わかった。この資料を持ってきた君たちを信頼しよう」


「ありがとうございます、王様」


 慇懃にミーシャは頭を下げた。


「あっ、34階層などで見つけた冒険用の装備などは利用させてください」


 ちゃっかりしてるな……。

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