85話 試し切り
これは最高の剣が手に入ったかもな。
俺は早速、剣の鑑定をはじめる。
「鑑定(剣)」という技能が役に立ったのは実質、これが初めてかもしれない
「まず、完璧に近く鍛えられてる……。波紋もすごく美しい……。装飾とかも手が込んでるけど、だからってごてごてして、実戦的じゃないってわけでもない。これ、あくまでも本当に戦うための武器だ。戦闘の邪魔になるような飾りは一切ない」
「でも、実戦のためにこんなに高価そうな剣を作るかしら? しかも、ここって宗教の儀式で使うものが置いてあるんじゃないの?」
ミーシャは半信半疑のようだが、これに関してはミーシャより俺のほうが詳しい。
「もちろん、これは大人数での戦争やしょぼい冒険者のための剣じゃない。おそらく、こんな高価なものを使わせてもらえる冒険者は当時もいなかった。なぜなら、これは神様に奉納した剣、神様に使ってもらうための剣だからだ」
「神様が使う? 神様が武器を持って戦ったなんて伝説はあるかもしれないけど、そんなことありうるのかしら?」
「ないだろうよ。だから、この剣は傷一つついてない。でも、神様のために作ったものだから手はまったく抜いてない。最高の職人が最高の技術で作ってる。武器として本当に使ったとしても、とてつもない威力を発揮するようになってる」
「ご主人様、やけに剣に詳しかったのね……。これも技能のおかげ?」
ミーシャが驚いているが、これは俺の技能というよりは日本にいた頃の知識を元にしての類推だ。
「日本でも最高品質の武器や防具を神社に奉納していたんだ。だから、一部の神社の宝物館には素晴らしい刀や鎧が置いてあったりする。神様が使う前提だから全力で作るしかなかったんだ。それで、本当に使うことはないから保存状態もいい」
武士が戦闘で使うものを奉納する場合、レプリカやなまくらを選ぶことはありえない。胸を張れる最上級品が選択される。
「だから、この剣も素晴らしいものに違いないって言いたいわけね」
「違いないも何も絶対に素晴らしいんだよ。じゃあ、ちょっと使ってみようか。そろそろモンスターが出てくる頃だろ」
モンスターが来ることを願うのも変な話だが、その願いは確かに叶った。
ゴーレムが廊下からこっちに向かってやってきた。
といっても、地下十五階層に出てきたようなゴーレムとはわけが違う。移動する速度もゆっくりしたものじゃなくて、本当の人間が走ってきているみたいだ。
石もかなり硬質なものを使っている。このフロアの人間を叩き潰すための番人ってところか。
「残念ね。あんな石のモンスターじゃ効き目がよくわからないわ」
「いや、逆にちょうどいいや。あれで試してみる。さすがに一撃じゃ倒せないだろうから、援護のほうは頼むぜ」
「ちょっと危ないけど……ご主人様に任せるわ。一撃で即死するってことはないだろうし」
まず、ゴーレムの攻撃をかわすのが大前提だ。
俺の気持ちも乗っていた。
適切な間合いをとって、どうにか攻撃をかわす。
思った以上にゴーレムの腕のリーチは長かったが対応できた。
そして、敵の攻撃をかわしたあとにチャンスが訪れる。
直後に、一気にゴーレムのほうに突っ込む。
この剣ならゴーレムをふらつかせるぐらいの威力はあるんじゃないか。
俺は剣をゴーレムの腹に浴びせる。
ガシィィィィッッッ!
かなり深いところまで剣が入った。
つまり、岩を斬ったのだ。
「これは、本物だな……」
正直、ここまで強烈な効き目を発揮するとまでは思っていなかった。予想以上だった。
そして、その一撃がちょうどゴーレムのコアにあたるところまで届いたのだろう。
ゆっくりとゴーレムはこちらのほうに倒れてきた。
危うく下敷きになりそうだったが、どうにかかわせた。
「旦那! 今のマジですごいですぜ!」
「私もびっくりしたわ……。レベルが一気に20は上がったような威力……」
二人とも、なかなか衝撃を受けてくれたらしい。
というか、一番、衝撃を受けたのは俺かもしれないけど……。
「ハードなダンジョンには店で売ってない次元の装備が眠っているっていうのはゲームの中だけじゃないんだな……」
この攻撃力を維持できるなら、Sランク冒険者に認定されても、恥ずかしくないかもしれない。ミーシャ的な常識を超えた力に近い。
「じゃあ、その武器は旦那の持ち物ってことでいいですね。売るのはやめておきます」
「お前、使える装備も全部売るつもりだったんだな……。ほかにもいい武器があるかもしれないし、この部屋は重点的に調べよう」
俺も中身を確認したアイテムを片付ける作業を手伝う。
自分に関係するものが出てくるとわかって、やる気も出てきた。
そして、レナは今度は剣よりさらに短い武器のコーナーにぶち当たったらしい。
「これ、ナイフですね。私が使えるものも入ってるかな……」
せっかくだし、ナイフも俺が鑑定することにした。
武器としての実力は俺のほうがわかる。
やはり、ここにあるものはどれも装飾性が高い。神に捧げられたものと見ていいだろう。
はっきり言って今までのレナのナイフよりいいものは何本もあった。
なかでも、一本とくに素晴らしいものがあった。
つかんだ時に、本当によくなじむ。わずかな反り具合も美しさを最大限に考慮しているみたいだ。
「レナ、今度からこのナイフに変えとけ。品質は保証する」
俺はそれを自信を持って手渡した。
「じゃあ、次にモンスターが来たら使ってみますね」




