82話 お宝の部屋
レナは新しいフロアなのに、思い切って、どんどん前に進んでいこうとする。
「ちょっと、レナ! 本気で危ないわよ! 無茶苦茶強いモンスターが出てくる可能性だってあるんだから!」
ミーシャがあわてて追いかける。
「これは生まれながらの盗賊の本能なんです! 許してください、姉御!」
「本能って、あなた、生まれは貴族じゃない!」
俺も取り残されると危ないので二人を追う。
だが、すぐにレナの足が止まった。
目の前に大きな翼の生えた悪魔みたいな石像があって、これが道をふさいでいたからだ。
「なんだ、これ? 邪魔だな――――わっ!」
レナがすぐにとびのく。
その石像がだんだんと緑色に変わってきて、さらには動き出したからだ。
「これ、ガーゴイルだ! 動くの、初めて見た!」
レナが叫ぶ。そのレナと入れ替わりにミーシャが前に出た。
「ガーゴイルって定説だと、何かを守護する場所に配置されるって話よね。じゃあ、このフロアには何か大切なものがあるってこと?」
「やっぱりお宝があるんですね、姉御!」
「それはいくらなんでも気が早いけど、可能性はあるかもね」
俺も二人のところに合流する。ミーシャは前に出ているが、初見のモンスターだから行動パターンを見ておきたい。
ガーゴイルもこちらの人数が多いからか、多少、状況を見計らっているらしく、すぐには攻撃してこない。ありがたくはあるのだが。
――と、ガーゴイルはその翼でダンジョンの天井近くまで飛び上がると、ミーシャを避けて、後ろの俺のほうを狙ってきた。
「くそっ! 来いよ!」
剣でまず敵の爪の攻撃を防ぐ。
かなり重い攻撃で受け止めただけで体が後ろに擦るようになった。
逆襲で剣を打ち込むが、金属的な音がして跳ね返される。
ほぼダメージにはなってない。
「なんだ、こいつ! やたら皮膚硬いぞ!」
石化して待っていることと関係があるんだろうか? とにかく、一発じゃほとんどダメージを与えられない。
ガーゴイルもすかさず二度目、三度目の攻撃をしてくる。
こちらもはじき飛ばされないように体を低くしてこらえる。
そして、隙を突いて、攻撃を仕掛ける。
ダメージにまったくなってないわけではないようで、だんだんとガーゴイルの皮膚が緑から黒に変色しだした。
「このまま繰り返せば倒せるか? でも時間はかかりそうだな……」
もっとも、大きな動きがないまま、長引くだけであれば、パーティーであるこっちのほうが有利だ。
「ご主人様、加勢に来たわ!」
後ろから接近してきたミーシャがまわし蹴りをガーゴイルに食らわす!
ガーゴイルは一撃で壁に打ちつけられた。
その時点でよろめいているところを、俺が走りこんで、剣を突きつける。
これでガーゴイルは動かなくなった。
無事に34階層での初戦闘は終了した。
「ご主人様、大丈夫?」
すぐにミーシャが回復魔法をかけてくれる。
「たいしてケガはないけど、硬い奴だったな。俺のクラスの冒険者だけだったら、戦闘が長引きすぎてまずかったかも」
ダンジョンで手間取っているとほかのモンスターが襲ってくるリスクも上がるからだ。
「そうね。防御力はかなり高い奴だったわ。逆に言うと、やっぱり何かを守ってるのかも」
ミーシャがそんなことを言ってる時にはレナはもうガーゴイルの先に進んでいた。
「ここ、小部屋になってますぜ」
となると、ガーゴイルは部屋を守っていたってことか?
そして、ほとんど間を置かずに、レナの歓声が聞こえてきた。
「よーし! 本当にお宝がたくさんあるぜ!」
「おいおい、マジかよ!」
俺もお宝という言葉に引き寄せられて、部屋に入っていった。
厳密には「お宝」と断定するには早いが、「お宝」かもしれないものは大量にあった。
そこには大小様々なサイズの箱が置いてあったのだ。
しかも見た感じ、ほぼすべてが手つかずのようだ。ということは中に物が入っているだろうことが推測できる。
まあ、この階層まで来られる冒険者はほとんどいなかっただろうから、おかしなことじゃない。来ることまではできても、大きな荷物を抱えて帰る余裕がないことだって多いだろう。
「おお……盗賊として生きてきてこれまでで最高の戦果かもしれねえ……」
レナは感動して、ちょっとぷるぷるふるえていた。
この物量ならそうなってもおかしくないかもな。だって俺も軽く興奮してきていたぐらいだから。
「ほんとね。これは壮観だわ」
ミーシャも遅れて部屋に入ってきた。
「もちろん、罠である可能性もまったくないとは言い切れないけど、ガーゴイルがいたぐらいだし、大切なものもあるのかもね」
「私、ここは慎重に調べさせていただきます!」
そう言うと、レナは引っ越しの時の段ボールぐらいのサイズの革の箱をまず調べだした。
「これ、全部チェックしたらものすごく時間かかるんじゃないか……?」
多分、数日かかるぞ。
ミーシャはレナを見てため息をついた。
「あの熱の入れようだと、しばらくは動かないわよ……」




