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80話 温泉家族水いらず

「え、俺も……」


「当たり前でしょ。このままじゃ、不公平だわ」


 何が不公平なのかよくわからないが(俺の裸にならないのが不公平ってことかな……)こう言われた以上は無視するわけにもいかない。


「わかった。じゃあ、俺も脱ぐから……あんまり見ないでくれ」


「男なんだから問題ないでしょ」


「男でも恥ずかしいものは恥ずかしい!」


 ちなみに部屋の出入口で動く鎧のモンスターが入れろ入れろと無駄な抵抗をしているが、あれは見られているうちに入らないだろう。そもそも顔がないし。


 鎧を部屋の隅でゆっくりと脱いで、露天風呂(繰り返すが、厳密には風呂じゃないが)に二人が入ってない方向から入る。

 下半身は自分のタオルで隠して、つかる。一般的な温泉だとタオル入れるの禁止だけど、俺たちがつかってる時点でルール違反だから、今更どうでもいいか。


 たしかに、ゆっくりじゃなくてもつかれる適温だ。温泉によくある熱いものとも違う。


「あ~、これはいいな」


「でしょ! 思わず笑っちゃうわ」


 足をぴんと伸ばすと、疲れもそこから抜けていく感覚になる。


「私は温泉ってものに入ったことはなかったんですけど、たしかにこういうお風呂って楽しいですね」


 レナもなかなか気持ちよさそうだ。まあ、羞恥心さえどうにかすれば、入浴自体が不快って奴はほぼいないだろう。


「あなたにも日本人の魂が息づいてるみたいね。いいでしょ?」


「いや、そもそもミーシャは日本人じゃなくて日本猫だし、猫の時代に温泉までつかったことはないだろ」


「細かいことは気にしないの。温泉が好きな人はみんな日本人の心を持ってるのよ」


 調子のいいことをミーシャは言った。


 顔はけっこう赤いけど、のぼせているわけではないようだ。ダンジョンの中とはいっても、半分屋外みたいなものだから、熱気がこもりすぎることもない。感覚は露天風呂に近い。


「でも、たしかに、ダンジョンの中で入るっていうのは独特のよさがありますね。私もわかりますぜ」


 レナも今ではかなり上機嫌だ。


「しかも、モンスターを見ながら入るっていうのも優越感がありますし」


「ああ、あの鎧だな」


 いまだに動く鎧は部屋の出入口で頑張っている。これも、こちらに入れないようにしてくれている床の仕掛けのおかげだ。


 俺の横にミーシャが移動して来た。


「レナも私の横に来なさい」


 ミーシャがなかば強制的に俺たちを横に並べた。


「ふふふ、こういうのいいわよね。私の中でちょっとした夢がかなった気がする」


「夢って何だ?」


「家族水入らずで広いお風呂に入ること。ほら、家族風呂よ」


 家族風呂なんて概念、どこで覚えたんだ? たしかに日本の旅館で泊まってる部屋ごとにお風呂を時間貸ししてるサービスとかあるけど。


「ご主人様がレナに色目使わないか、多少の懸念もあったんだけど、それも今日の感じだとなさそうだし」


「わざわざ、そういうこと言うなよ!」


 余計な意識をしてしまったのか、レナも顔を赤くしている。


「私は姉御を裏切るようなことはしませんぜ……。お、恩義には厚いほうなんだからな……」


「そうね、レナのほうも問題なさそうだわ」


 たしかに、三人で同じお風呂っていうのは、こう、なんていうか、つながりみたいなものが感じられていいな。


「でも、家族っていうと、ヴェラドンナも入れないと完璧じゃないな」


「まっ、本当はそうなんだけどね……。とはいえ、ここまでヴェラドンナを連れてくるわけにはいかないし」


「じゃあ、屋敷の風呂に入ったらいいんじゃないか? ぎりぎりで4人ぐらいなら入れるだろ。水着着用とか、何かルールを作ったりしてさ」


「それはそうなんだけど……やっぱり外風呂っぽさはほしいのよね……。ここだと冒険の途中の休憩っていう要素もあるし。やっぱりほどよい疲労はほしいのよ」


「言いたいことはわかる」


 露天風呂のある温泉旅館だって、わざわざ自宅からそこまで出向くことに意味があるんであって、実家を露天風呂にすればその気分が問題なく味わえるわけではない。


「まあ、今後の課題として考えるわ。それに今は、この温泉を楽しむほうが大事だし」


「姉御に同意します」


 まあ、地下深く潜ってずっと緊張もしてたし、その緊張がほぐれることはいいことなんだろう。こんなちょうどいい聖域を作ってくれた先人に感謝するしかない。


 結局、30分ぐらいは俺達はそこにゆっくりつかっていた。


「じゃあ、私達からあがるから、着替えるまで、あっち向いてつかっててね」


「はいはい」


 部屋の出入口のほうに顔を向けると、いつのまにか動く鎧もいなくなっていた。


 ついに諦めてどこかに行ったか。


 ちょうどよかったかな。ずっと、眺めてたから、なんか愛着が湧いてきて、倒しづらくなってたんだ。


 そのあと、俺達は地上を目指す帰路についた。


 おそらく、次に33階層を通った時にも、ここには寄るだろうな。


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