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73話 怪しい宝箱

 そういえば、クモの動きが止まってきたような。


 さっきまでしつこく糸を吐いていたのに、その様子がない。


 ダメージを受けたから、怯えているのか?


 やがて、クモがこちらに近づいてきた。

 違う、これ、クモが落下してきているんだ。


「ご主人様! よけて!」


「わっ! 危ねえ!」


 俺は横っ飛びになってかわす。


 足をはさまれそうになったが、どうにかなった。


 クモはまだ生きてはいるが、動きは明らかに緩慢になっている。


「ほら、毒が効いてきたんですぜ」


 レナはなかなか得意そうだ。


「盗賊っていうのは、こういうふうに戦うもんなんでさあ。このナイフは毒が強いから、これまで使ってなかったんですけど、地下深くに潜るから持ち出してきたんですぜ」


「見事な腕前ね。でも、やっぱりあなたの戦い方は見ていて危なっかしいわ」


 ミーシャは念のため、回復魔法を俺とレナにかけてくれた。


「さて、まだクモも生きてるから、旦那、とどめを頼みますぜ」


「まあ、剣士の仕事は地上の敵を倒すことか」


 俺は剣を振り下ろしてとどめを刺した。



 そのあとも俺たちは地下31階層をゆっくりと移動していった。


 この階層のモンスターに囲まれると危ういからだ。うかつにずかずか進むのはよくない。


 ――と、小さな袋小路の小部屋に入りこんだ。


 そこに未開封の宝箱があった。


「これも私の領域みたいだな」


 たしかに、宝箱の開錠といえば、盗賊の仕事だ。


 とくにこの階層の宝箱だとすると罠だった場合のリスクも高い。


「あれ、でも、レナって開錠のスキルって持ってたっけ?」


 ステータスの中にはなかったような。


「開錠ぐらいは盗賊のデフォルトですから、わざわざ載ってないんでさ。むしろ、大事なのはカギを破ったり、気配を察知することですよ」


 たしかに開けることができても、それがモンスターだったり罠だったりしたら、シャレにならないものな。


「じゃあ、レナ、よろしくお願いするわ。この階層のものなら、もしかしたらすごくいいものかもしれないし」


 ミーシャも宝箱に興味があるらしい。


「了解です。私も姉御にいいところ見せたいですしね」


 レナはしゃがみこむと、宝箱に耳を近づける。


「ううむ、音はしねえな。ミミック系のモンスターなら息づかいを感じるんだけどな」


 なるほど、そういう判断の仕方があるのか。


 それから、レナは今度は鼻を近づけた。


 くんくん、においをかぐ。

 犬のように。まあ、まさにライカンスロープだけど。


「においで何かわかるのか……?」


「火薬によってはにおいでわかりますからね。ちゃんと意味はあるんですぜ」


 いつものレナとは思えないほどに慎重だ。


 宝箱は罠の危険も高いからな。


 しかし、レナが宝箱を開ける前から――


 宝箱が大きく口を開けて、レナに噛みつこうとした!


「レナ、伏せろ!」


 もしもの時に備えて準備していたから、すぐに動けた。


「何だよ! 開ける前から攻撃してくるなんて反則だぜ!」


 レナは無事に安全圏まで体を伏せた。これで思い切り剣を振り切れる。


 俺の剣の一撃がミミックにぶつかる。


 バァンッ!


 ミミックが壁に吹き飛ばされる。


 そこにミーシャが接近する。


「二度と閉まらないようにしてあげるわ!」


 ミーシャの猫パンチがミミックに直撃した。


 それが致命傷になって、ミミックはひしゃげて動かなくなった。


「ふぅ、用心しててよかったな。結局、無傷で倒せた」


「旦那、ミミックっていうのは開けるまで動かない性質のものなんですぜ。でないと、チェックもできねえ。こいつはズルをしやがったんだ……」


 先に奇襲を浴びてばつが悪いのか、レナは浮かない顔をしている。


「そうなんだろうな。きっと、地下深くにいる奴は性質が違うんだろう」


 盗賊だって、地下31階層のことまでは把握してないはずだ。


「さてと、探してちょうだい、レナ。ミミックがいいアイテムを持ってるってことも多いでしょ」


 こく、とレナがうなずく。


「そうですな。ええと、これはミミックの魔法石か。それと……奥に何かあるな」


 レナが宝箱から取り出したのは、金属製の腕輪だった。


 ただ、その腕輪、どこかで見た紋様が彫られている。


「これ、王家の紋章じゃねえか!」


 レナが大きな声で叫んだ。


「それって、つまり、すごく大事なものってことか……?」


「とんでもないものであることには違いないですぜ。王家の紋章を関係ない人間が刻むのは重罪ですから。贋作を作って、ばれないように処分したのをミミックがため込んだか、あるいは本物をミミックがため込んだか、どっちかです」


 俺たちの頭には自然と王家の幽霊が浮かぶ。


「あの冒険者が生前に紛失したって可能性が高いな」


「そうでしょうね。偽物の処分だけなら、こんな深くまで来るとは思えないし。ちなみに、レナ、その腕輪はどういう効果があるかわかる?」


「う~ん」


 レナは鑑定士みたいに腕輪をいろんな方向から眺めた。


「おそらくですけど、モンスターの特殊能力を無効化するものですね。とくにソロの冒険者には必須のものですぜ。眠らされるかどうかで生き死にが決まりますから」


 いよいよ、あの王族の冒険者のものの可能性が高くなってきたな。


新連載、「モンスターを着る男」更新開始いたしました! よろしくお願いします! http://ncode.syosetu.com/n6915di/

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