69話 凱旋
無事に王家の墓のモンスターを退治するというクエストを達成した俺たちは、王城に戻ると、王様アブタールの歓待を受けた。
王城の食堂に連れていかれると、そこにメンバー分の料理が運ばれてきた。
「君たちのおかげで、王として恥をかかずに済んだ。本当に心から礼を言う!」
なるほど、墓の管理もできないとなると、王としての資質を問われるようなことにもなりかねないのか。伝統があるというのも大変だ。
俺たち冒険者はそれぞれ席を与えられ、食事をしている間に王がぐるぐると巡回をして、しゃべるという流れになっている。
キャンプでもちゃんと食事はしていたが、やはり王城で出る料理はおいしかった。
多分、様々なスパイスを使って、味に深みを出しているんだろう。
料理スキル自体が高くても、扱える食材の数には限りがあるからな。
やがて、俺たちのところにも王がやってきた。
「Aランク冒険者としての初仕事、本当にお見事だった」
「無事に職責を果たせてほっとしております」
王様相手にどう振る舞うのが正しいのかよくわからないから、無難に対応しておく。
「ほかの冒険者たちから君たちの大活躍はすでに聞き及んでいる」
王はすべて知っているといった顔で言った。
しまった、目立ちすぎたか。
「とくに、ミーシャ君、君はAランク冒険者になるべきだと思うが」
ミーシャは少々困った顔をしていた。
あまり冒険者のランクが上がると自由度が減るからだ。
「わ、私は王家のために戦って活躍できるほどの実力はないですから……」
大ウソだけど、そう言っているほうが無難なのかな。
「わかった。では、君をAランク冒険者にするようにギルドに推薦しておく。ただし、つまらない用事にかかわらせることは極力しない。これで手を打たないか?」
王がそう提案した。
「ギルドとしても、恐ろしい力を持っている冒険者が低いランクでくすぶっているとなると、立つ瀬がない。ここは実力にあったランクになってくれないか」
「そういうことでしたら……」
ここまで言われてはミーシャも断れない。
「あと、レナ君もAランク冒険者に格上げするように話をしておく」
「え、私もですか!?」
「君たちの活躍は細かく聞いている。それにAランク冒険者ともなれば、セルウッド家の両親にも胸を張って凱旋できるだろう?」
ああ、この王様、ちゃんとそのへんの事情は知ってるんだな……。
あるいはセルウッド家のほうからレナという冒険者は娘なので、よろしく頼むということを言っている可能性もあるな。
「Aランク冒険者なら、功績によっては爵位を得てもおかしくない立場だ。つまり君は実力だけで両親と変わらないところまで出世したようなものだ。とても偉大なことだよ」
「そ、そう言われるとうれしいかな……」
レナも両親に自慢できるなら、それは悪い話ではないんだろう。
「どうか、これからもよろしく頼むよ!」
こうして、俺たちのパーティーは全員がAランク冒険者ということになった。
「旦那、私、試験勉強なんてしたくないんですけど……」
あ、そういえば、Aランク冒険者って品格や知識も求められるんだった……。
「しょうがないわね。私がみっちり教えてあげるわ」
「うわ~! 絶対に姉御の教育、厳しいじゃないですか~!」
かなり本気でレナは嘆いていた。
そのあと、俺たちは屋敷にも凱旋した。
はっきり言って、出発した時よりもきれいになっていた。
床なんてぴかぴか輝いているぐらいだ。
「公務、まことにお疲れ様でした」
ヴェラドンナが丁寧に頭を下げて、俺たちを出迎えた。
「公務、か。そう言えなくもないか」
「きっと、慣れない場所で寝起きをしてお疲れでしょう。今日はごゆっくりとお休みください」
ヴェラドンナは今日もほとんど表情を変えなかったけれど、俺たちを祝福してくれているのはよくわかった。
「そうだな、きっとどの部屋もしっかりベッドメイキングされてるだろうしな」
レナが自分の部屋に入っていったあと、ヴェラドンナが俺の前にやってきた。
それからさっき以上に深々と頭を下げた。
「お嬢様をお守りいただき、ありがとうございました」
やっぱり、この人はセルウッド家の忠実なメイドだ。
「けっこう、あいつ、先走るから危ない時もあったんだけどな。もっと、慎重になるようにまた説教しなきゃな」
「はい、お嬢様は、どうも軽すぎるところがございますので、よろしくお願いいたします」
「ほんと、お前がそれぐらい心配してるってこと、レナにも伝えたほうがいいんじゃないかな」
「こちらから伝えても、小言のように聞こえてしまいますので」
なかなか難しいものだ。
その日はヴェラドンナが豪勢な食事を作ってくれた。
やっぱり、自分の家で食べる食事が一番おいしいな。
今日はゆっくり寝て、ダンジョン攻略をしっかりとやっていこうか。
でも、まずは正式に二人がAランク冒険者になるのを待たないといけないな。




