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66話 体が勝手に

 王家の墓周辺のモンスター追討作戦は無事に進んでいって、最終日を迎えた。


 この日はこれまでの仕事とちょっと趣向が違う。


 王家の墓のごく周囲の草刈りなどをお願いされていたのだ。


 長らく墓参りができない状態のため、墓も荒れていて、手入れが行き届いてないからついでにやってくれということらしい。


 あと、きれいに整備することによって、モンスターが墓や通路のあたりに出てこないようにする意味合いもある。

 草も生えてなくて、石畳しかないのであれば、モンスターの餌になるものもそこにないことになるからだ。


 ただ、たいして多くもない人数で本格的な掃除をするのは限界があるので、王都からも軍隊が50人ほど派遣されてきた。


 入口近辺のあたりはモンスターが出てくる可能性も低いので主にこちらの軍隊にやらすらしい。それを少数の冒険者で護衛する。


 俺たちと魔物使いのリチャードが所属するパーティーは、それに対して、ずっと奥の墓のあたり近辺の掃除を任された。


 森の奥でモンスターが出てきて軍隊がパニックになっても困るから、少数精鋭で行けということだろう。


「たまには、こういうタイプの労働も悪くないな」


 俺は支給されている鎌で墓のあたりの草を刈っていく。


 墓は数段高くなった一画にずらっと並んでいる。その周囲も人の手が入らないうちに、かなり草が生えている。


「たしかに、ここが完全に森に飲みこまれてしまうと、モンスターも自分たちの縄張りだと思うものね。手入れは大事だわ」


 すぱすぱとミーシャも細い木を切っていた。


「ミーシャの攻撃力だと木でも軽々と切れるんだな……」


「根から抜かないとまた生えちゃうかもしれないけどね。やっぱり、手でやったほうが確実かしら」


 ミーシャがぐいっと力を入れると、面白いように根が抜ける。


 すぽっ、すぽっ、すぽっ。


 魔法が使えるって言っても物理的な力のほうが強いからな……。


「あ~、地面掘り返したいぜ……」


 イヌ科の血がうずくのか、レナは地面を掘る欲求に打ち勝ちつつ、作業をしていた。


 こうして順調に墓掃除は続けられた。

 危険なモンスターはあらかた排除されたはずだし、とくに問題はないんだろう。


 ふと、あるいたずらを思いついた。


 いたずらだから、当然あとで怒られるリスクも覚悟のうえだが、一度、やってみるかな。


 俺は背の高いススキみたいな草を刈った。


 それを手に持つ。


「なあ、ミーシャ」


「いったい、何? 珍しいものでもあった?」


 俺はミーシャの前でそのススキを振る。


「ほ~ら、猫じゃらし」


 さて、果たしてミーシャは興味を持つだろうか。


 猫って気まぐれだから、こういうのって効くかどうかわからないんだよな。

 ある時はノッてくるけど、そうじゃない時は無視ということもある。


 まして、ミーシャは人間の姿をとっているので、どうなるのかは謎だ。


「はぁ。何かと思えば」


 ミーシャはやれやれといった顔になる。


「猫の時ならともかくとして、人間の時にそんなものに興味持つわけないでしょ。バカにしないで」


「そうだよな。子供騙しならぬ猫騙しだもんな」


 こんなんじゃ、何の意味もないか。真面目に掃除をしよ――


 ひょん。


 ミーシャが右手をススキのほうに出していた。

 ゆるい猫パンチみたいな動きだった。

 ちなみに鎌を持ってないほうの手だ。でないと、こっちも危ない。


「あれ、お前、手を出してないか?」


「い、今のは冗談よ……。ふざけただけで……」


 ひょん。


 また、手が出た。


 どうやら本能に抗えないらしい。

 もうちょっと、強くススキを振ってみる。


 ひょん、ひょん、ひょん。

 何度も猫パンチっぽい右手が飛んできた。


「な、なんでかしら……。つまらないことだってわかってるのに! 恥ずかしいのに! 手が出ちゃう!」


「そっか、野性の部分はなかなか抜けないんだな。ちなみに、これって猫的に面白いのか?」


 こっちはススキ振ってるだけだからな。


「こんなの、面白いわけないでしょ…………ううん」


 ミーシャが首を横に振る。その顔が真赤になっていた。


「なぜかわからないけど、すごく楽しいわ! あぁ、体が勝手に反応する!」


 楽しいらしいから、もうちょっと続けても大丈夫だろう。

 ススキを振りながら移動する。


「ほれほれ、こっちだぞ」

「う~、手が出ちゃうわ! なんでよ! 私の体、どうしちゃったのよ~! わ~ん! みんな、見ないで、見ないでね!」


 ミーシャが声を出すので、かえって目立っていた。

 あまりやりすぎるのもアレだし、そこでおしまいにする。


「ミーシャっていつもクールだから、こういう無邪気なところも残ってて、ちょっと安心した」

 あまり知らないミーシャの一面を知れた。


「ご主人様、次からはこういうことは屋敷でほかに人がいない時にしてね」


 ミーシャはちょっとすねたような顔をしているが、その発言から察するに――


「こういうこと自体はやってもいいってことか?」


「…………た、たまにならいいわ。ほら、こういうことは二人の間だけですることだと思うし……」


 やっぱり、そこそこ面白かったようだ。


 一方、その頃。


「やっぱり、掘るほうが楽しいぜ!」


 レナは備品のスコップを使って、根っこを片っ端から掘りまくっていた。


 オオカミに変身して掘ることもできるけど、別に人間の姿で道具を使って掘っても問題ないらしい。


 ちなみにけっこう遊んでいるようだが、作業自体はちゃんと順調に進んでいる。細かい仕上げは、王家の墓なわけだし、あとで派遣された軍隊とかにやってもらうべきだろうけど、基本ラインはこれで問題ないだろう。


 だが、少しずつ日が傾きはじめたかなという頃。

 ちょっとした異変が起きた。


 一緒に作業をしているパーティーの一人、魔物使いのリチャードの使っているイタチがやけに鳴き出した。

実家の猫もヒモに反応する時とまったく興味持たない時がはっきりしてます。あれ、猫のほうが人間と遊んでくれてるんですね。

5月25日にダッシュエックス文庫で発売された『異世界作家生活』の連載を昨日夜より開始いたしました!(もろもろ許可済です) こちらもよろしくお願いいたします!

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