49話 水着選び
その日はヴェラドンナが夕食の当番だった。
「クックク……トマトヨ、サア、血シブキヲアゲナサイ……」
台所から不穏な発言が聞こえてくるが、トマト切ってるだけだ。
まあ、これにも慣れないといけないんだろうな……。
ヴェラドンナは刃物を持つと暗殺者の本性みたいなものが出てくるのだ。
夕飯はちゃんとしたスープやらシチューやらが出てきたので、よしとする。
汁物が多いけど、パンにひたして食べるので問題ない。
「あ、そういえば、今日、買い物に出かけた時にこんなチラシを配っていました」
いかにもチラシ用の質の悪い紙にこんなことが書いてあった。
<王都プール、今年も開園! 暑い時期はこれで決まり!>
「プール? そんなのあるのか。ああ、でも、ハンナって魔導士もプールって言葉、使ってたな」
「プールっていうか、王都には巨大な湧水の池があるんだぜ。そこを夏の時期に開放してるんだ」
王都暮らしが俺たちよりおそらく長いレナが教えてくれた。
「なるほどな。ところでこの世界って水着あるのか?」
ぶっちゃけ、そこが一番気になる。
裸で泳ぐわけにはいかないからな。
まあ、俺が泳ぐ分にはいいけど、ミーシャが泳ぎたいといっても俺は絶対に止める。
勝手かもしれないが、嫁の裸をほかの男に見せるのは絶対嫌だ。
「水着? 撥水着ならあるぜ」
「はっすいぎ?」
「水をはじく魔法をかけた、濡れても問題のない下着のようなものですね。このあたりでは、男女ともにそれを着て泳ぎますが」
なるほど、都合のいいものがあるんだな。
「面白そうね。ご主人様、私、それ行きたいわ」
「じゃあ、水着も買いにいかないとな」
撥水着という言葉に慣れなくて、水着と言ってしまう。
「そうね。もちろんご主人様も選ぶの手伝ってね」
えっ、俺も行くのか……。
これは正直、ミーシャのこととはいえ、恥ずかしい。
「わかった……でも、それは全員で行こう……」
◇
こうして、俺たち四人は撥水着が売っている店に行った。
はっきり言って水着売り場とほとんど違いはない。男物はトランクスタイプが多いし、まあ、俺はどれでもいいな。
問題は女性陣の、とくにミーシャのものをどれにするかだが――
「ううむ……けっこう、アグレッシブな国民性だな……」
全体的に着衣の量が少ない。
ビキニタイプのものが主流らしいし、もうちょっと胸元をしっかり隠せって思うのも多い。
「これはミーシャには着せられないな……。こっちも、お尻が見えすぎるような……」
「そうね、ご主人様の前でならいいけど、ほかの人も泳いでるもんね……」
俺とミーシャは無難な落としどころを模索していた。
「このあたりは半世紀ほど前まで裸で泳いでいましたからね。そのせいか、撥水着の布の部分も少ないのです」
ヴェラドンナが説明をしてくれた。
「ちなみに、獣人の場合はお尻の布は大きいものにしないと、尻尾を出す穴を空けづらいです。穴はお店が空けてくれますが」
「なるほどな。まあ、もうちょっと無難なのにするか」
一応、スクール水着みたいな全身をほとんど覆うようなものもあった。
「ミーシャ、このあたりにしないか?」
俺としてはミーシャの露出を増やしすぎたくない。
「う~ん……ご主人様の意図はわかるんだけど……あんまりかわいくないわね」
たしかに地味と言われればそうだ。
「どうせだから、ご主人様がかわいいと思うものにしたいな」
そう言われるとハードルが上がる。
というか、ミーシャがどれを着ても絶対にかわいいんだから、どれでも一緒という言い方もできる。
だけど、どれでもいいって言ったらミーシャも納得しないだろうしな。
俺なりにちゃんと答えを出したい。
そして、いいのがビキニコーナーにあった。
胸のところがちょっと猫っぽくなってるのだ。
「これ、ミーシャのキャラをよくあらわしてるし、よくないかな。しかも水着のデザイン自体がかわいい」
「ちょっと、子供っぽくてかわいすぎるかもしれないけど、ご主人様の趣味に合わせるわ。ありがとう!」
こうして、ミーシャの水着が決まった。
あとは泳ぎにいくだけだ。




