46話 ヴェラドンナの素顔
ヴェラドンナが我が家の使用人になって一週間が過ぎた。
もう、ヴェラドンナのいる生活に違和感もなくなってきたのだが、人間というのはわがままなもので、要望が出てきた。
三人でダンジョンに潜っている時、ヴェラドンナのことで話をした。
「彼女の前がレナっていうのもあるのかもしれないけど――――少しは笑ってほしいわ」
ミーシャの言葉にレナもうんうんとうなずいている。
「まるで護衛中の騎士みたいにむすっとしてるから、息が詰まるっていうのはありますね。多分、ああいう表情なんだと思うんですけど」
まあ、
レナがメイドっぽくない口調だったっていうほうが例外的なのかもしれないけど、ヴェラドンナがどうしても冷たい印象を与えるのは事実だ。
「できれば、もうちょっと自然に笑ってほしいよな。ナイフ持って笑うようなのでは断じてなく」
つまり、俺たち全員、ヴェラドンナの素を知らないのだ。
それは同居している身として寂しくはある。
「じゃあ、あの子の本音を聞きだすしかないわね」
「具体的に言うと、どうするんだ?」
任せろというようにミーシャが笑った。
「こういう時は裸の付き合いよ」
◇
俺たちの住んでいる屋敷は相当広い。
だから、風呂もそれなりに広い。
三人で入るぐらいなら、何の問題もない。
だから女性陣三人で入ることだってできるってわけだ。
風呂の中はよく反響するので俺が座っている部屋にまで微妙に声が聞こえてくる。
断じて言うけど、のぞきはしてない。
偶然、よく声が聞こえる部屋にいるだけだ。
のぞきなんてことをしたらミーシャがどういう反応を示すかわからない。
ミーシャの裸を見ても大丈夫だけど、残り二人の裸を見たとなると、嫉妬される恐れがあるからだ。
ちなみに声が聞こえるところにいるぞということはミーシャの許可を得ている。
以下、音声メインでお送りします。
「あの、どうして三人で入るのでしょうか?」
「ほら、女同士、積もる話もあるかもしれないでしょ。それにはお風呂がちょうどいいって思ったの」
「裸同士、何も隠し事はナシな。身分のこともここでは忘れてくれ」
出だしとしては裸の付き合い作戦は悪くなさそうだ。
「とくに私に話さないといけないようなことはないですが。隠し事をしているつもりもありません。不満もとくに」
「でもね、私たちはもっとあなたのことが知りたいのよ」
「そうだぜ、仕事以外のヴェラドンナも興味があるんだな」
おっ、このまま聞けるか?
「あの、これは私の意見でしかないのですが、あまり本音を出しすぎて、それで仕事や生活に影響があってはいけないと思うのです」
「同居人のことを知りたいと考えるのは自然よ」
「そうだぜ。どんな小さいことでもいいから教えてくれ」
「…………わかりました。ただ、あまり大きな声で言えることではないので、耳打ちでよいですか?」
あれ、じゃあ、何の話をするかわからないな……。
そのまま、声は全然聞こえなくなった。
おそらく、ミーシャとレナも小声になっているか、もう何もしゃべっていないのだろう。
しばらくすると、三人が風呂から出てきた。
ヴェラドンナはいつもの無表情で俺と目が合うと頭を下げて、どっかに行った。
いまだ、素の表情見られず。
一方、ミーシャとレナはものすごく気まずそうな顔をしていた。
「なあ、ヴェラドンナの秘密ってわかったか?」
「…………ご主人様には言えないわ」
えっ! 何それ……。
「あの子が自然な表情になる時はわかったわ。でも、それがいつかは私の口からは無理……」
「いったい、何だよ! 無茶苦茶気になる!」
「姉御に私も従いますぜ……」
「待ってくれよ……。どんな話をしてたんだよ……」
ミーシャとレナが顔を合わせる。
そんなにまずい内容なのか……?
「じゃあ、ぼかして話すわ……」
「うん、頼む」
ミーシャが俺の耳に口を当てる。
「……あの子、えっちいことをする時だけ……素になるんだって」
「そ、そっか……」
なんか聞いて悪いことをした気がしてきた。
これは異性に言いづらい情報だよな……。
「……以上よ」
「わかった……」
「あと、ヴェラドンナ見るたびに、えっちいことしてる彼女を想像したりしないでね……」
おい! それ、押すなよ絶対押すなよって言ってるようなもん!
「うん、わかった」
一応、口ではそう答えた。
そう答えるしかなかった。
ミーシャには申し訳ないが、しばらくはヴェラドンナを見るたびに余計なことを想像してしまった。
何を想像するかは俺の自由なので許してもらいたい。




