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45話 ヴェラドンナの仕事

文学フリマに出ていた関係で更新が遅れました! すいません!

 こうして俺たちとヴェラドンナは王都の屋敷に戻ってきた。


 レナが使用人ではなくなったので、もうメイド服を着ていない。

 ちょっと盗賊っぽい露出の多い格好だ。

 ホットパンツみたいなのを履いているので、足もまぶしい。


 レナは「これで冒険者が心置きなくできるぜ!」と喜んでいた。

 いや、両親としてはおしとやかになってほしいはずだけど、立派な冒険者になってしまっているのは事実だから、しょうがないかもしれない。


 とはいえ、まずはヴェラドンナのいる新生活に慣れるのが先決だ。

 レベル上げなどはそれから先の話だ。


「まあ、初日だし、今日はヴェラドンナの掃除技術を見せてもらおうかな」


「心得ました、ケイジ様」


「審査は私がするわ」

「それと元使用人の私もな」


 ミーシャとレナは二人揃って腕組みしている。

 家事をやっていた者として見極めてやるということなのだろう。


「わかりました。このヴェラドンナ、精一杯やらせていただきます」


 早速箒を持つと、ヴェラドンナはてきぱきと動きだした。


 まずは階段の掃除。


 暗殺者だったという話は伊達ではないのか、まったく無駄がない。


「速いわ……しかも、急いでやっているようにも見えなくて、なかなか優雅……!」

「そのうえ、隅のホコリもちゃんと取れてますぜ!」


 二人がその技術に驚いていた。

 なんか、バトル漫画みたいな展開だな。


 今度は廊下の拭き掃除。

 木の板を雑巾で拭いたりするのだが――


 これもヴェラドンナは走っているような速度で――いや走りながら廊下を磨いてゆく。


 これ、禅宗の修行僧が身につける技術じゃなかったっけ……。


「何よ、この速度! 信じられない!」

「さらに鏡みたいに床が輝いてますぜ!」


 また二人が驚いている。


 これはかなりの大型新人が入ってきたのかもしれんな。


「今のところ、満点ね。減点対象がないわ……」

「でも、こんなに序盤から力を出して、息切れしないか心配ですよ」


 なんかミーシャとレナの息がこれまでで一番合ってる気がする。

 立場が同じになると人間って無意識のうちに結束するのかもしれない。


「じゃあ、次は庭の草むしりね」


 いつのまにか、指示もミーシャが出すようになっていた。

 いや、別に誰が指示出してもいいんだけど。


「それなら屋敷に戻ってきた直後に行いました」

 笑わない表情でヴェラドンナが報告した。


「まさかっ! ほとんど時間はなかったはずなのに!」

「言われる前から仕事ができるだなんて! メイドの鏡だぜ!」



 どうやら、スペックに関してはヴェラドンナは何の問題もないらしい。

 大変よいことだ。


 もっとも、非常に重要な要素がある。


 料理だ。


 これはできればいいという問題ではない。

 それなりにおいしいものが作れないとつらい。


「悪いけど、今の私の料理能力はかなり高いわよ。それを超えることができるかしら」

「レパートリーなら私も負けませんぜ」


 ミーシャとレナも謎の対抗心を見せていた。


 レナに至っては使用人の立場から解放されたはずなのに、負けたくないらしい。


「実はこの私は料理当番をあまり仰せつかったことがないので、少し自信はありません」


 はじめてヴェラドンナが弱味のようなものを漏らした。

 まあ、完璧超人はなかなかいないってことか。


「ふっ。それでは使用人としてはまだまだね」

「いやいや、料理ができないぐらいのほうが愛嬌があっていいぜ」


 二人が今度は勝ち誇った顔をしていた。

 こいつら、楽しそうだな……。


「とはいえ、とくに苦手というわけではないはずなので、今日は自分の腕を見せたいと思います」


 そしてヴェラドンナは台所に立つ。

 すでに台所にはひととおりの食材が揃えてある。


 さあ、何を作る!?


 大きめのナイフをヴェラドンナが握る。


 その瞬間――

 ずっと無表情だったヴェラドンナの口元に、にやぁっと笑みが宿った。


「サア、今日ノ獲物ハドコ?」


 それから、まるで機械で出した音声みたいな無機質な声が発せられる。


 俺たち三人、寒気が走った。


 ヤバい。なんか、本性みたいのが垣間見られた。


「最初ノ獲物ハアナタネ」


 そして、トマトが切り刻まれる。


「次ニアナタ」


 今度はキャベツがバラバラになる。


「アナタも助カラナイワヨ。クスクスクス……」


 今度はセロリが切られる。


 ――その後。

 おいしいミネストローネができたのだが――


「ええと……料理に関しては当番制にしようか……」

「ご主人様に賛成するわ……」

「旦那に一票……」


 ヴェラドンナの料理回数は減らす方向性で決まった。


「あの、私の料理に不備が?」

 また無表情にヴェラドンナは戻っている。

「いや、味は申し分ない。雰囲気が問題なんだ……」


 こいつ、刃物を持つと昔の暗殺者的な空気が復活するのだ。

 はっきり言って、料理するたびに殺気が漂うのは怖い。


「私はケイジ様にすべて従いますので」 


 こうして多少の不安材料は残しつつ、新生活がスタートした。


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