44話 狐耳のメイド
新キャラが登場しました! 今度は狐耳です!
狐耳のメイドさんのメイド服は牛の血でべっとり赤くなっている。
なかなかスプラッタな光景だ。
まあ、敵の血だからいいって言えばいいんだけど。
そして、その血のせいか――
余計に表情が冷たいものに見える。
なんというか、表情がきついのだ。
表情で人を判断してはいけないのだけど、どこかぞくっとする怖さがある。
いやいや、意外と名前はかわいいとか、そういうギャップがあるのかもしれない。
「この者は、我が家に仕える使用人の一人で、ヴェラドンナといいます」
「毒々しい名前だ!」
それ、たしか毒に関係した名称だったような……。
「ヴェラドンナと申します。以後、お見知りおきを」
礼儀正しくおじぎをしたが、狐耳のこのメイドさんの目はまったく笑ってなかった。
「ちなみに、ヴェラドンナというのはニックネームです」
「ああ、なるほど。さすがに本名はそんなに怖いものじゃないよね」
「名前はずいぶんと昔に捨てました」
何があったんだよ、過去に……。
「まるで暗殺者のような雰囲気の方ね」
「ミーシャ、思ったことをそのまま言いすぎだ。失礼すぎる……」
「はい、5年ほど前まで裏稼業で生きていました」
ガチの人かよ!
「はっはっは。貴族ともなると命を狙う者もいるかもしれないからね。ならばいっそ暗殺者を雇えば確実だと思ったのだよ」
この当主もレナの父親だけあって、けっこうとんでもない人だな……。
「ありがたかったです。暗殺者は常に緊迫した環境で生きていかないといけないので、安定した給金が出る生活は助かります」
なるほど……。そういう考え方もできるのか。
「冒険者の家ばかりの家ともなると、よからぬ者が入って来ないとも限らないからね。それなりの使用人を選ばないといけないと思ったのだよ」
「わからなくもないですけど」
「このヴェラドンナをレナの代わりに使用人にしてもらうこと、これがレナがケイジさんの屋敷に住み続ける交換条件ということにします。どうかな、レナ?」
まずレナに尋ねる当主。
「私はいいけど……むしろ、旦那と姉御はどうするんだ……?」
アクの強い使用人候補にレナも困惑気味だ。
「私は異論はないわ。そもそも戦闘のできない使用人じゃ話がかみ合わなくて退屈させちゃうかもしれないし」
ミーシャの意見は一理ある。
言ってみれば、屋敷に住んでるのが全員テニスの選手だとして、テニスのルールを知らない奴が使用人だったら、居心地悪いよな。
その点、暗殺者なんて存在なら冒険者がどういうものかも心得てるだろう(たぶん)。
「俺は別に反対意見はないし、それじゃ、来てもらって問題ないかな」
ヴェラドンナに同意の意味をこめて、目を合わせる。
向こうも小さく目礼した。
「うむ、では、決まりですな」
当主はぱちぱちと拍手をした。
これで新しいメンバーが屋敷に増えることになった。
「私はミーシャよ、猫の獣人というより本体が猫なの」
あっさりとミーシャが自分が猫だという正体を明かして、握手を求めにいった。
まあ、一緒に住んでたら隠していようがないし、暗殺者だったぐらいだから口も堅いだろう。
「よろしくお願いいたします、ミーシャ様」
握手にヴェラドンナも応じた。
「あっ、うちの屋敷に住むのに一つだけ条件があるの」
ミーシャの顔は笑っているのに、なぜか殺気みたいなものを感じた。
「ご主人様に手を出すことだけは許さないから。そこだけは理解してね」
うわ、同居人になる女子を早速牽制した……。
「ミーシャ、俺は浮気なんてしないから心配するな……」
あと、第三者がまあまあいる場だから、微妙に恥ずかしいし。
「ご主人様を疑っているわけではないの。でもね、女のほうが誘うことだってありうるから」
「私はもともと暗殺者です。命令には絶対服従します。ご安心を」
なんか血なまぐさいファーストコンタクトだな……。
「わかったわ。その心、胸に刻んでおきなさい」
やっと、ミーシャがにっこりと笑った。
こうして、ヴェラドンナが屋敷の一員になることが確定した。
それにしても――
ヴェラドンナは狐耳だから、なんかケモ耳ばかりが増えるな……。
「これ、あの屋敷に住んでる男は獣人にしか興味のない性癖だとか変な噂たたないかな……」
俺は小声でミーシャに言った。
「ああ、それなら問題ないわ」
「なんで断言できるんだ?」
「レナの話だけど、私とレナが住んでる時からそういう噂は街で立ってるそうよ」
「もう、遅かった!」
まあ、ここまで来たら、ケモ耳ばかりなのが個性だというぐらいに開き直るか。




