43話 選抜試験
ちょっと新キャラっぽいのが出てきました。
その日は、王都で最も豪華な宿でもこれほどじゃないだろうってような立派な場所で寝泊まりすることになった。
俺とミーシャは夫婦ということが理解してもらえて、同じ部屋になっている。
結婚のことをちゃんと断ったおかげか、ミーシャは機嫌がよかった。
部屋に入ったら、すぐにぎゅっと抱き着いてきた。
「ご主人様がちゃんと私のことを妻と認めてくれてうれしかったわ」
「そうするに決まってるだろ。俺のお嫁さんはミーシャだけだ」
「頭、撫でて」
言われたとおりに撫でてやると、獣人の姿のまま「にゃ~ん」と声を出した。
その姿になっても、そういう声になるんだな。
「夕飯の時間まで、まだたっぷりあるし、それまでいちゃいちゃしましょう」
「お前、まだ夕方だぞ」
「ちゃんと加減はするわよ」
そのあと、ミーシャに体中を舐められた。
まあ、飼い猫に舐められたと思えば、そんなにまずいことじゃないだろう。そう考えよう……。
この間、レナは家族水入らずの時間を過ごしているはずだ。
まあ、レナにとったらそんなリラックスできる時間じゃなかったかもしれないが。
それでも、親子でしかできない話もあるだろうし、ちゃんとその話はしてもらおう。
「ねえ、レナ、出ていっちゃうのかしら」
同じベッドで横になっていると、ミーシャが言った。
「どうだろうな」
俺は言葉をはぐらかした。
だって、本当にどうなるかなんて、まったくわからなかったからだ。
「少なくとも、このまま使用人をさせることが許されるとは思えないわ」
ミーシャの声は沈んでいるから、レナと別れることが寂しいのだろう。
まだ、そう決まったわけじゃないけど、ミーシャの言うとおりで、大貴族の娘がメイドをしてるなんてことはとても認められることじゃないはずだ。
「レナの気持ちを尊重する。俺に言えるのはそれだけだな」
そもそもずっと使用人をするということ自体が無理のある話だったのだ。
どこかでその契約が終了するとしても、それはやむをえないことだ。
そのあと、食事の時間になったが、レナは今後のことは一言も話さなかった。
俺は冒険者の大会に優勝したことなどを尋ねられて、それを話した。
冒険者の存在が珍しいのかいろいろ聞かれているうちに、食事の時間は終わって、レナの身の振り方の話は出ないまま終わった。
その翌日も、領地を案内されたりしたが、レナの話は出なかった。
さらに次の日。
俺たちは馬車に乗って、かなり深い森の中に入っていった。
お付きのメイドさんも数人揃っている。
「今日はケイジさんとミーシャさんにご覧いただきたいものがあるんです」
そう当主に言われたら断るわけにもいかない。
同じ馬車に乗りながら、俺たちの一団は森深くに入っていく。
しかし、森の中ということは、それなりに危険もあるということだ。
巨体の牛みたいなモンスターが飛び出てきた。
しかも群れをなしているのか、数体が馬車の隊列を囲んでいる。
「ああ、お化け牛ね。なかなか狂暴な奴のはずよ」
高位のミーシャはとくに驚きもしなかった。
実際、俺のレベルでも問題ない。
群れだとしてもLv20ぐらいあれば大丈夫だろう。
では、久しぶりに剣を抜こうかと思ったが――
「いえ、必要ありません。我が家のものが片づけますので」
当主に止められた。
でもあんまり兵士みたいな人はいないような……と思っていたが――
付いてきていたメイドさんたちが次々に牛に向かっていく。
彼女たちは武器を隠し持っていたらしく、次々に牛を攻撃する。
結局、ものの数分で敵を全滅させた。
「パーティーとしてはなかなかのものね」
ミーシャも素直にその実力を褒めた。
「でかした。これで選抜試験にはなりそうだな」
当主がしたり顔で言った。
選抜試験って何だ?
当主は俺のほうに顔を向ける。
「ケイジさん、私はミレーユとじっくりと話をしました。娘はあなたの家で暮らしたい、貴族の生活なんてまっぴらの一点張りで、私たちも折れました。これからも娘をよろしくお願いいたします」
きっと俺の顔は明るくなっただろう。
少なくとも、ミーシャの顔は曇り空に差し込んだ光みたいに、ほっとしたものになっていた。
それから、当主はレナにも、ちらと目をやる。
「もちろん、ケイジさんがご納得いただけなければダメですけれど」
「娘さんのことは大事にします」
「わかりました。では、娘をよろしくお願いいたします」
わざわざ丁寧に当主は頭を下げる。
「ただ、ミレーユも貴族のはしくれです。使用人として働かせることは我がセルウッド家の体面にもかかわります。そこで――」
名案だとばかりに当主の顔にも笑みが宿る。
「――ミレーユの代わりになる新しい使用人をこちらで選ぼうと思ったのです」
ああ、選抜試験ってそういうことか。
「冒険者の方々の家ですし、留守を守る際、戦闘能力も必要かと思いました。その中で、先ほどの牛に対して、最も活躍したのがその者です」
馬車の外に当主の視線が移った。
そこには狐耳のメイドさんがいた。




