38話 一流の騎士
Aランクの正式な昇級試験はギルドの部屋で行われる。
でも、ギルドの部屋に入ったところから、アリアさんに――
「もうAランク冒険者にしか見えませんよ」
と言われた。
「レベルを上げていったせいかな。今、Lv29だから」
「すごいですよ! Sランクになってもおかしくないぐらいです!」
「Aランクで恥ずかしくないようになろうとレベルを上げてた」
試験の問題もかなり勉強したおかげで、あっさり合格点をとれた――と思う。
解いた瞬間に採点されるわけではないからだ。
そのあと、今度は論述形式の問題をやる。
こちらは決意表明みたいなものを書けという内容だったので、この国で最強の冒険者になれるよう、真剣に戦っていきたいといったことを書いた。
結果発表は少しあとだ。
一階の酒場に降りていくと、ミーシャとレナが待ってくれていた。
「まだお酒は飲まないわ。祝杯にしたいから」
「これで落ちてたら最悪だな」
「旦那が落ちるわけないですぜ。テストは7割もとれたら余裕で受かるんでしょ?」
「でも、解答欄がずれてたとかいうこともあるかもしれないからな」
結果が戻ってくるまでは安心しない。
一方で俺の存在は大会のせいもあって、知られているから、ほかの冒険者の客にも軽んじられることはなかった。
「やっぱりオーラが違うな」
「そこにいるだけでも、実力者ってことがわかる」
そんなこと、本当にわかるのかと思うが、評価されるのはありがたいことだ。
30分ほどして、アリアさんがやってきた。
「おめでとうございます。筆記試験合格です!」
「よしっ!」
思わずガッツポーズする。
「おめでとう! ご主人様!」
ミーシャも思いきり抱きついて、それからキスもしてきた。
俺はもちろんキスも受け入れた。
「お二人ともお似合いですぜ!」
レナだけじゃなく、周囲の客も拍手を送ってくれる。
「今日は俺のおごりだ! みんな、飲んでくれ!」
せっかくだし、景気のいいところを見せよう。
「Aランクおめでとうな!」
「また、すごい冒険者が生まれたな!」
「本当にめでてえぜ!」
たしかにAランク冒険者が出るのは街の誇りでもあるんだろう。
その日はへべれけになるまで酔っ払った。
とくにレナは顔を真っ赤にしていた。
「いや~、うめえな! こんなにうまい酒は盗賊やってた時以来だぜ!」
「おい、変なこと言うなよ!」
俺はあわてて口をふさぐ。
「むぐむぐ、むぐむぐ……」
もう大丈夫そうだから手を離した。
「旦那、悪かった……つい、気が大きくなっちまったんだ……」
「お前を匿ってるってわかったら、全員お縄になっちまうんだからな……」
ただ、ちょっと聞いてた冒険者がいたらしい。
「ん? 盗賊? 何の話だ?」
「ああ、なんでもない! なんでもない!」
「そういや、前にこのへんを荒らしてた盗賊ってどこに行ったんだろうな」
まずい!
明らかに都合の悪い話の流れになってきた!
そこにミーシャが新しいグラスの載ったプレートを持ってやってきた。
「ほら、そんなどうでもいいことは忘れなさい。はい、新しい、お酒。なかなか高いものよ」
「おお、ありがてえ!」
ナイス、ミーシャ。
俺は心の中でつぶやく。
そうだった、そうだった。普段は忘れてるけど、レナは犯罪者ではあるのだ。
話してみれば悪い奴じゃないからといっても、犯罪者じゃないということにはならない。
もうちょっと慎重になったほうがいいのかもしれんな。
しかし、それから数日後、異変が起きた。
どうも、屋敷の周りをうろついてる奴がいるようなのだ。
どうも不穏な感じの続きですが、とくに暗くなったりはせずに次に続きます。ご安心ください。