35話 武術大会5
すいません、ちょっと仕事で遅れました!
控え室に残るのは俺とレナだけだ。
なんだか、俺たちが貸切にしているみたいだ。
戦闘直後だから、決勝には休憩時間をはさむ。
相手がよく知っている顔だから気負いもない。
緊張せずにすむ点は本当にありがたいな。
「正直、お前がここまで残るとは思ってなかった。Lv20ぐらいの奴はトーナメントにいただろ?」
「当たらなければどうってことないですぜ。戦士は戦い方がワンパターンだから、どうとでもなるんでさ」
まだまだレナも体力が残っているらしい。
さて、どっちが最後まで立っていられるか。
「屋敷では主従関係ですが、戦場じゃ平等ですからね。勝たせてもらいますぜ」
「望むところだ」
そして、時間になって、俺とレナは呼ばれた。
聴衆の前に出ていくと、レナのほうの応援が圧倒的に多い。
「獣人メイドやれ!」「お前が最強だったら冗談としては最高だ!」「腰抜け冒険者どもをぶちのめしてやれ!」
たしかにレナはダークホースだろうし、冒険者の中では少数派の女性で、しかもメイドだから注目されるのは当然だ。
でも、勝つのは俺だ。
試合がはじまると、俺はすぐに突っ込んでいく。
「うおおおおおっっっ!」
レナの防御力は低い。一度でも攻撃が決まれば、そのまま一気に押し切れるはずだ。
「これまでの奴らと比べると早いな! だけど、かわせる次元だぜ!」
レナも体を流れるように動かして、攻撃を回避する。
メイド服がそのたびにひらめく。
よく、こんな動きづらいはずの服で戦えるな!
でも、よく見たらスカートにスリットが入っている。
これ、戦闘用のメイド服かよ!
気にせず、攻撃を繰り出す。
これが最後の一戦だ。多少、体力を使っても気にするな。
俺はミーシャにふさわしい男になる!
「旦那にも勝ったら、私はLv23以上の強さってことですかね!」
「そういう台詞は勝ってから言えよ!」
まだレナはナイフで攻撃には転じない。
それほどの隙は俺も作ってないってことだろう。
ある意味、光栄なことではある。
これでも家長なんだしな。家長の威厳にかけても負けられない。
レナがかわすことを意識している時は、たいていの攻撃を回避される。
でも、どこかで攻撃に移るはずだ。
その時を狙え。
そして、こちらの剣が思ったよりもそれて、体が流れた時――
「もらった!」
レナが仕掛けてきた。
ナイフを持って、ふところに入ろうとする。
しかし、それはこちらにとっても大きなチャンスだ。
俺はレナの足を払う。
攻めて来る時は気がはやって足下がおろそかになる。
ただでさえ、戦闘中は俺が振るう剣に意識がいっている。
足ならばいけると思った。
それが失敗したら致命的だが――
「っと……とっとっと……」
レナの体が泳ぐ。
効いた!
すぐにメイド服をつかんで、押し倒す。
ナイフをつかんでいる手を軽く蹴って、武器を奪う。
最後に顔の前に剣を突きつける。
「お前の負けだ、レナ」
「…………う、う~ん。まさか足技が来るとは思わなかったですぜ。ずるいな、旦那」
「戦闘にずるいも何もないだろ。俺はルールを守って戦っただけだ」
「そうだな。本職の盗賊ならこっからあがくこともできなくもないんですが……」
レナは打開策を探しているようだったが――
「あんまり美しくはないですな。それに武器がないまま旦那と戦う勇気もありません」
はぁ、とレナはため息をついた。
「ここが年貢の納め時ですかね。私の負けです、旦那」
その瞬間、俺の優勝が決まった。
これまでで最大の歓声が上がる。
俺は手を振って応える。
「うん、悪い気分じゃないな」
レナも倒れたまま、拍手をしてくれた。
「ご主人様、おめでとう! 今日は祝勝会ね!」
ミーシャも観客席の最前列で喜んでくれている。
もし許可が下りたら、このまま俺のところまで走っていきそうだ。
「おめでとうございます」
そこにギルド職員のアリアさんがやってくる。
あっ、そうか、賞品の授与か。
「50万ゲインがもらえるんですよね」
日本円で500万か。日本で働いてた時の年収より多いからちょっと複雑な気分だ。
「賞金もありますけど、まずはこれを」
アリアさんが渡してきたのは銀色の腕章だ。
「大会優勝者はAランク冒険者に認定します」
「え! いきなりAランクにですか!?」
俺はギルドの仕事をろくにしてないのでDランクのままだ。
まさかの三階級特進になるぞ。
「今回の大会の戦いから、勇気も臨機応変な判断も充分と評価されました。どのみち、まともに依頼を受ければBランクくらいまではすぐに上がるレベルですよね?」
「それはそうかもしれないですね……」
「ということでAランクです。おめでとうございます」
俺もありがたく、その腕章を受け取る。
またAランクに恥じないようにレベルを上げておかないとな。
だけど、もう一つ課題があった。
「ちなみに、今度、Aランクにふさわしいかの筆記試験をやります」
「えっ?」
「そこであまりに点数が低いと品格を問われてBランクに落とされますので注意してくださいね。内容はギルド全般にわたるものとAランク冒険者の気持ちを問う論述形式の問題です」
ものすごく久しぶりにテスト勉強をする必要が出てきたようだ。
次回からちょっと主人公が強くなります。




