202話 新しい家族の生活
そして、六年ほど後。
俺はあいかわらず王都郊外の屋敷にみんなで住んでいる。
みんなでというと、娘のミルカとラフラも含めてだ。
魔王を倒してから先、レナとミーシャの順で出産の時期が来た。
二人とも安産でレナの子供がラフラ、ミーシャの娘がミルカ。ちなみにミーシャとの子供ってどうなるんだろう、純粋な猫だったら、ちょっとどういう気持ちで接していいかわからないなと思ったけど、幸い猫の獣人の姿だった。
レナとの子供であるラフラのほうもライカンスロープ、つまり犬の獣人として生まれてきた。
もう、最近は元気に屋敷の周りを走っている。
俺がヴェラドンナの屋敷の掃除を手伝っていると、ミルカとラフラが泣きながらやってきた。
「おいおい、どうした?」
「あのね、レナお母さんの特訓が厳しくてね……」「うん、レナお母さん、厳しい。もっと高くジャンプしなきゃダメだって……」
ラフラとミルカが続けて言う。なるほどな。最近だと、レナは二人を立派な冒険者にすると息巻いて、いろいろ教えているのだ。それは悪いことじゃないけど、二人が泣くとなると、ちょっとこれは問題があるな。
「そっか。わかった。レナお母さんに言っておく」
二人の顔がぱぁっと明るくなる。かわいい。二人とも、本当にかわいい!
「でもな、二人は冒険者にはなりたいんだよな?」
揃って、「うん!」と答える二人。
「じゃあ、つらい時も頑張らないとダメだぞ。でないと、いつまで立っても冒険者になれないからな」
「はぁい」「ふぁい……」
一応、ラフラのほうがお姉さんだけど、あまり姉と妹って意識は二人にはない。どっちも友達という意識らしい。
「けど、泣きたい時は泣いていい。それはしょうがない。泣いてもまた努力すればいいんだ。わかった?」
「うん」「うん」
心なしか、ミルカがラフラの反応を見てから言ってる気がするけど、これは姉と思ってるというより、真似をしてようと考えてるからなようだ。
俺は一応、レナのほうに報告に言った。母親らしからぬハーフパンツ姿である。あくまでも冒険者という意識らしい。
「あんまり泣かしてやるなよ。まだ子供なんだから」
「けど、今のうちに基礎を習得してないと困るのは二人ですよ。私だって、二人が冒険者になりたくないなら、教えませんけど」
そうなんだよなあ。親にあこがれて冒険者になりたいって言い出したのは、娘たちなのだ。そりゃ、Sランク冒険者というものに子供ながらにあこがれるのはしょうがないが。
「それに、私からすると、姉御のほうが教育が雑すぎるんですよ。また二日ほどかけて、まだ未探索のダンジョンに行っちゃってるし」
そう言われると返す言葉もない。ミーシャは相変わらず自由奔放で、母親になってもあまり性格に変化もないようだ。
「今日、戻ってくるはずだから、言っておくよ」
「私がどうかしたの?」
そこに、ひょっこりミーシャが背後から現れて、変な声が出た。
「お前、やけに早かったな……」
「想像以上にダンジョンの攻略がすぐに終わったのよ。お土産も買ってきたわよ。娘はどこにいるの?」
母親が戻ってきたのに気付いたのか、ミルカがたたたたっと走ってきた。
けど、それをラフラが追い抜いて、ミーシャに先に抱きついた。うん、ラフラまでミーシャのほうになついちゃってるんだよな……。厳しくしつけないからだろうな……。
「ミーシャお母さん、おかえりなさい」「ママ、お帰りー!」
「はい。あとで、飴をあげるからね~」
「姉御、甘やかして子供に気に入られるのは反則ですぜ……」
「別にそういう魂胆はないわよ。私、厳しくしつけられたことがないだけ」
なにせ、猫だからな……。
「それに、今のままだと、ドライアドの薬で、私たちのほうが、ほら……。だから、たっぷりかわいがってあげたいじゃない」
「わかりますけどね。でも、私はだからこそ、しっかり育てておきたいんですよ」
俺たちSランク冒険者はドライアドの薬で不老不死の力を授かっている。
でも、それって娘より長く生きちゃう可能性が高いってことなんだよな。
まだ先のことにはなると思うけど、娘が成人したら、そこは笑顔で冒険者として送り出すべきだろうということで、ふわっと了解は親の間で得られている。
そこを考えるのは寂しいけど、そのおかげでミーシャの中にまた不老不死の霊薬を手に入れるという目的が生まれて、いろんなダンジョンを詳しく探すようになったので、そこは悪いことじゃないかもしれない。長い人生、張り合いは必要だ。
そこにヴェラドンナが詰まった洗濯籠を持ってやってきた。晴れた日だからちゃんと干せたらしい。
「ミーシャ様、お帰りなさいませ。今日は何の料理になさいますか?」
「そうね、ご主人様の精力をつけるものがいいわね」
「お前な、子供の前でそういうこと言うのやめろよ!」
「あら、私のためとは言ってないわよ。むしろヴェラドンナのために言ったんだけど」
にた~とミーシャが笑う。奥でヴェラドンナも顔を赤らめていた。
そう、実はミーシャとレナの許可をもらって、今、俺とヴェラドンナの間もそういう関係になっている。
まあ、なんていうか、長年、一緒に暮らしていると、情が湧くというか……。きれいなヴェラドンナと暮らしていて、俺のほうもその気になってきたというか、ヴェラドンナもむしろ待っていたっていうか……。
「私との間に子供ができたぐらいだから、ヴェラドンナとの間にもできるわよ! 頑張って!」
「だから、そういうことは言うなって!」
「あっ、二戦目は私だからね」
もう、余計なことを言うとかえって面白がるから、黙っておこう……。
と、ちょんちょんとレナが俺の服を引っ張ってきた。
「私も交ぜてください……」
今日の夜はとんでもないことになりそうだなと思いながら、俺はため息をついた。
「ヴェラドンナ、できるだけ肉をがっつり食べたい」
ヴェラドンナが「かしこまりました」と丁重に言った。
その様子を見ていたミーシャがくすくすと楽しそうに笑っていた。
ある意味、いつもどおりの家族の風景だ。
チート猫、これにて完結です! 最後までお読みいただきありがとうございました!
活動報告にあとがきに当たるものを書きました。




