201話 おめでたいことだらけ
「封印する前に倒しちゃったわね。でも、倒すほうがより確実だし、いいわよね」
ミーシャはけろりとした顔で、漆黒の魔法石を拾った。
「ボールとして転がして遊べそうね」
ある意味、猫らしい発言だ。
「お疲れ様、みんな。これで目的達成ね」
俺がまずミーシャのところに走っていって、抱きついた。
「よくやった! お前のおかげでこの世界は救われたぞ!」
「おおげさね。ほかのみんなでもこつこつ戦えば、きっと勝てたはずだわ。魔王っていってもパーティーで向かえばどうとでもなる次元よ」
かといって一対一で叩きつぶせるのは、やっぱりミーシャだけだと思うが。
「姉御、お疲れ様でした!」
「素晴らしい勇姿でした」
レナとヴェラドンナもミーシャを讃える。完全無欠の勝利と言っていいだろう。
「乾杯しようにも、ここには何もないし、とっとと王都に戻りましょう」
「お前、ほんとさばさばしてるな」
「だって、たいしたことなかったんだもん。これぐらいの敵なら、ちゃんとみんなもいつか抜けるようになるわ。みんなもかなり強くなってるわよ」
ミーシャがいる以上、偉い態度を取ることはできないな。でも、ちょうどいいかもしれない。
●
俺たちは地上に戻ると、王であるアブタールに報告を行った。
その場には何人もの歴史家が集まってきて、ダンジョンの攻略についてなど、様子を興味津々で聞いてきた。これ、公式な記録に残さないといけないからだろうな。
そのあと、お城の食堂などを使って、盛大なパーティーが開かれた。以前にお世話になった冒険者たちも、王都近辺にいた者たちは呼ばれて駆けつけた。
魔物使いのリチャードや、Aランク魔導士のマルティナなんかの姿もある。
「あなたたちの話を聞いても、壮大すぎて、よくわからないわ……」
マルティナはどう褒めていいかもわからないという顔をしていた。
それと、リチャードのイタチがまた虚空のほうに向かって、反応していた。
もしやと思って、ミーシャに聞いたら、やっぱりそうだった。
冒険者の幽霊がそこにいるらしい。
「自分の記録も君たちのおかげで証明されそうだし、よかった。これでゆっくり眠れそうだ――と言ってるわ。無念の思いも少し晴れて、ここにも現れることができたらしいわね」
「先輩に負けないように、これからも精進します」
俺は姿勢を正して、大先輩がいるほうに頭を下げた。
豪勢な食事は出ているのだけど、話しかけてくる人間も多いので、意外と食べられない。時の人と言えなくもないし、しょうがないか。活躍したのはほぼミーシャだけど。
ようやく、パーティーの終盤になって、ミーシャと本格的に時間をとって話せる時間がとれた。
「改めて、お疲れ様、ミーシャ」
「それはご主人様も同じでしょ」
俺たちの間には冒険者同士といより、夫婦同士の空気が流れる。
「さてと、次は何を目標に定めようか?」
「行ってないダンジョンもまだまだあるし、そこを探索していくのもいいかもね」
そういう、この世界をすべて塗りつぶすような楽しみ方になっちゃうかな。
でも、ミーシャと一緒にいるのだったら、何をやっても楽しい気もする。
と、なぜかミーシャの顔色が急に曇った。
しかも、やけにその場でえずく。
「おい、ミーシャ、どうした? もしかして、酔っぱらったか?」
そんなに飲んでたような気はしなかったんだけど。
ゆっくりとミーシャは顔を上げた。
「酔ったのとは違うわ。ご主人様、よく聞いてね」
まさか、悪い病気じゃないだろうな……。
「多分、赤ちゃんができたの。私でもご主人様の赤ちゃん、作れるんだね……」
顔を赤らめながら、ミーシャは言った。
「や、や、やった! ミーシャ、おめでとう!」
俺はミーシャにすぐに抱きついた。
「もう、苦しいわよ、ご主人様……」
「それぐらい我慢してくれ」
ああ、冒険以外にも世界の楽しみ方なんていくらでもあるじゃないか。
俺の声が大きくて、周囲も気付いたらしい。
「おっ、子供ができたのか」「聖戦士同士の子供、これは天下無双の子供になるな!」「さらにめでたいじゃないか!」
これ、パーティーは朝になるまで終わらなそうだな……。
そのあと、ヴェラドンナが俺のほうにやってきた。
「ミーシャ様の件、おめでとうございます」
「あ、ああ……。でも、まだ無事に生まれるまで安心はできないけどな」
「それで、実は魔王戦前だったので、黙っていたことがあるのですが」
なんか、意味深な言い方だな。
「お嬢様にもお子さんができたようです」
「えええええっ!」
レナは顔を赤くしてうつむいていた。
ほんとにおめでたいことだらけになったな。
子育てのこともしっかり勉強しないといけなくなりそうだ。