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200話 魔王討伐

 まず、先手を打ったのは魔王だった。

「矮小な獣人よ! 我に屈せよ!」


 魔王の手が光りながら、ミーシャをわしづかみにしようとする。


 だが、その手が届く頃にはすでにミーシャは魔王の側面に回りこんでいる。


「あら、あなたの速度でもその程度なのね。やっぱり世界一、私は素早いみたいね」

 魔王の顔に驚愕の色が浮かんでいる。間違いなく、魔王は本気で挑んだはずだ。なのに、攻撃が当たらないのだから。


「地獄の雷鳴を喰らえ!」

 今度は手から電撃が走る。魔法なら回避も難しいと踏んだな。やはり、徹底して叩きつぶすつもりだな。


 けど、その方向には、もう誰もいない。ミーシャの回避性能に追いついていないのだ。


「何かしてくるのはわかるから、その間に逃げればいいのよ」

 くすくすとミーシャは魔王の真後ろで笑っている。


「ご主人様、見ていてね。私、初めて、自分の素早さの全力を出してみるわ」


 そう言うと、ミーシャは魔王の周囲を走り出した――のだと思う。俺の目ではもうとらえられない。

 これが素早さが1000近い人間の速度か……。1000近いっていっても、この世界のステータスの最高って、多分だけど999だろうから、ミーシャの素早さ958(装備による補正)はほぼ神の領域だろう。


 神対魔王だったら、神のほうが強いんだろうな。


「お嬢様、何が行われているかわかりますか?」

「いや、さっぱりわからねえ……。姉御、普段からすごいって思ってたけど、ここまですごかったんだな……」

 ヴェラドンナとレナも呆然としている。もう、こんなの、防ぎようも、止めようもないよな。


「くそっ……。これは幻覚魔法だな。そうとしか思えん! 魔法よ、消失しろ!」

 魔法の効果が消えるような魔法を魔王は唱えた。


 その結果、ミーシャは猫に戻ってしまった。

 たしかに魔法で獣人の姿になってるからな。元は長毛種ふさふさの黒猫だ。


 もっとも、ミーシャは相変わらず、魔王の周囲を走り回って、おちょくっている。

 魔法でもなんでもなく、ただの実力だからな。


「どういうことだ? なんで猫に姿が変わる?」

「いいかげん、現実を受け入れなさい。私はこの世界最強の猫なの。獣人の姿をとっていたのは魔法のせいだけど、能力は猫時代からの実力よ」


 ようやくミーシャは一度、止まった。

 これがある種の最後通牒と言っていいだろう。


「今からあなたを思いっきり攻撃するわ。それでもいいのね?」


 しばらく魔王は黙っていた。状況を自分なりに理解しようとしているのだろう。

 けど、理解しきるのにはやはり限界があったらしい。


「まだ、お前は何か我を騙そうとしておるのだろう!」

 魔王が再び、ミーシャに攻撃の手を伸ばす。


 それですべてが決まった。


 もう黒猫ミーシャは魔王の顔に跳びかかって、超高速の猫パンチを放つ。


 魔王の顔が大きくゆがむ。


「ふぐぅっ!」

 情けない魔王の声。カウンターがしっかり入ったからな。それに防御力が400台でも、攻撃力が800超えてる奴の攻撃は止められない。


 もちろん、それだけじゃ終わらない。ミーシャはがりがりがりと魔王の顔をひっかく。

 あっ、そこは猫らしい攻撃なんだ……。


「うああああっ! なんだ、こんな強い猫がいるわけが……」


 あとはボカスカ魔王を殴りまくる。面倒な時は単純に突進する。魔王も敵の的が小さいから戦いづらすぎるだろう。


「うわあ、遠くから見ると猫がじゃれついてるようにも見えるんですけど、そういうわけじゃないんですよね……」

 レナもどことなくシュールな最終決戦を見ていた。

「俺が魔王でも何かの間違いだと思うかもな……」

 しかし、これは真実で、魔王といえども、そこから目を背ければ報いを受ける。


「あなたの体力がいくらか知らないけど、そのうち0になるわよね。ラスボスって異様に体力だけ高いものだから、まだ大丈夫なのかしら?」

 すでに魔王はふらついていた。たしかに累積すれば想像を絶するダメージだと思うので、体力だけならミーシャなんかよりはるかに高いのかもしれない。それでも、じわじわ限界が近づいているようだ。


「どうして我が猫一匹に……。前回は勇者たち五人にようやく封印されただけなのだぞ……」

「知らないわよ。それだけ私が強いってことじゃないの? さあ、降参する? でないと、封印じゃすまなくなるわよ? といっても、封印の仕方なんて知らないけど」


 おそらくラクリ教の特殊な魔法でも使ったのだろうな。俺たちの知らない世界のものだ。


「わ、わかった……。取引をしようではないか……」

 やっと魔王が弱気な発言をしはじめた。どうにか落としどころを探ろうということか。


「お前は女としては最強だ。だから、男として最強の我の妻となれ。そうすれば、より最強の子供が生まれるだろう」


 なっ……。ここに来て妻になれだと……?

 しかし、意外と合理的な提案なのかもしれない。中世の戦争だけど、講和などの条件に両家の婚姻を結ぶなんてことはかなり多かったはずだし。


 でも、そんなのミーシャが飲むわけないけど。


「悪いけど、私にはご主人様が、いいえ、夫がいるの。ケイジっていう、そこに立ってる聖戦士よ」

「そんな弱い男とは別れて、我の妻になればよかろう」


 魔王はとくにそれが失言だと気付いていない。


 ミーシャが再び魔法で、獣人の姿になる。

 明らかにイライラしているのが顔でわかる。


「何が『よかろう』よ! あなたがご主人様の代わりになるわけがないでしょ!」


 ミーシャの全身全霊の猫パンチが魔王の顔に直撃した。


「ぶあああああああっ!」


 魔王は壁際まで吹き飛ばされて、そこに打ち付けられて、ばったり倒れた。

 直後、魔王の体は灰になって、そのまま崩れていってしまった。


 最後に漆黒の大きな球形の魔法石がだけが残った。

200話まで来ました! ありがとうございます!!!

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