199話 魔王のところに
俺たちは全員でその扉を開いた。
その先の玉座に座っているのは、おそらく魔王だろう。いかにもRPGのラスボス感がある。ただ、見た目はほぼただの人間だ。顔が死人みたいに青白いことと、髪が同じように白いことを除けば、貴族の青年といった印象がある。
「まさか、この時代の人間がここまで来るとはな。何かの間違いではないかと思っているのだが、そうでもなさそうだ」
魔王の態度は堂々としていて、少なくとも追い詰められているという印象はない。ここで命乞いされても扱いに困るけど。
「引導を渡しに来たわ。長いスパンで地上を乗っ取る気だったでしょ」
ミーシャのほうも同じぐらい、堂々としている。
「お前がミーシャという謎の女だな。報告は受けているぞ。ラクリ教の勇者たちよりも数倍強いかもしれないというのは本当だろうかな」
「そんなことは知らないわよ。とにかく、私たちの仕事はあなたを倒すことなの。それが冒険者の仕事なんだから」
全部ミーシャにいいところ持っていかれてる気もするけど、それはそれでいい気がする。むしろ、俺がミーシャのいいところを持っていく権利もない。
「じゃあ、次はご主人様が何か話して」
「ここで、そんな無茶ぶりかよ!」
もう、だいたいミーシャが話してしまっている。
かといって、歴史に残る一戦になるだろうし、何かは言っておくか。
「おい、魔王、ここでお前の野望を砕いてやるからな! 今の人間もそれなりに強いってことを思い知らせてやる!」
「だがな、ラクリ教時代の勇者たちですら、我を封印することがやっとだったのだ。お前たちでどうにかできるかな」
まだ、余裕があるみたいだな。その余裕がどこまで続くか試してやる。
ひとまず、玉座から立たすところまでやらないと。
「ご主人様、それじゃ、行くわよ」
「わかった。とことんやってやる!」
俺とミーシャは魔王に向かって飛び出した。
後ろからレナの声援が聞こえる。ヴェラドンナは祈りながら、こちらを見守ってくれているはずだ。
魔王は座ったままで、両手を前に突き出した。炎が手に宿る。どうやら、豪快にぶっ放してくるらしい。魔王らしい攻撃と言えなくもない。火力の弱い魔王じゃ、つまらないしな。
「ご主人様、私の背後に隠れて! すぐに!」
俺は言われたとおりにミーシャの後ろに回る。たしかに俺のほうだと炎を防ぎようがない。でも、ミーシャもどうやって防ぐんだ?
「火には火をってやつよ!」
ミーシャも特大級の火炎魔法を撃ち込んだ。
その炎が魔王の炎を飲み込んで、逆に押し返した。
そして、そのまま直撃。
「やったか? さすがにまだダメか!?」
煙が消えていった先には、立っている魔王の姿があった。ダメージはあまりないようだけど、立ち上がらせるぐらいはできた。
「なるほど……。まさか、ここまでの力を持っているとは……。本当に人間か?」
「人間じゃないわ、猫よ!」
魔王はふざけられたと思ったのか、不愉快な顔になる。
「訳のわからないことを言うな。それとも猫の獣人だと主張したいのか」
「違うわ、私は正真正銘の猫で、おそらくこの世界最強の動物なの! それを証明するために魔王であるあなたを倒さないといけないのよ」
「いいかげんにしろ! お前ごときで我を倒せるか! 我は攻撃力も防御力も素早さも400を超えているのだ! 我に勝てる者などおらん!」
ああ、それは強いな。俺の攻撃力と防御力はまだ300オーバーちょい。素早さも260だ。もし、俺が一対一で戦ったきついだろう。
けど、ミーシャの敵じゃないな。
「なによ、それ。私、攻撃力は800を超えてるし、防御力も600超えてるし、ええと、多分素早さは1000に近いわ」
「そ、そんな生き物がいるかっ!」
しかし、事実だ。今のミーシャのステータスはこんなのだったはず。
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ミーシャ
Lv72
職 業:大魔法使い・聖戦士
体 力:695
魔 力:662 +50
攻撃力:774 +50
防御力:605 +50
素早さ:908 +50
知 力:714 +50
技 能:言語使用、回復(5+1)、毒治癒(5+1)、麻痺治癒(5+1)、幻惑(5+1)、洗脳(5+1)、炎(5+1)、氷(5+1)、風(5+1)、地面(5+1)
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俺も聖戦士になれたけど、そういう次元じゃないんだよな、もう。
「ミーシャ、お前が好きなだけやってくれ。俺も観戦することにする」
ここは飼い猫にのびのびやらせよう。だってミーシャも聖戦士だし。聖戦士が聖戦士に譲っても問題ないだろう。
「うん、わかったわ、ご主人様!」
にっこりミーシャが笑った。
ミーシャが魔王の真ん前に出る。
「タイマンでやりましょう。どっちがこの世界で最強か決めたいからね」
「ふん、お前をぶっ殺して、再び、反撃の足掛かりを作ってやるからな……」
悪いけど、魔王、お前に勝ち目は絶対にないぞ。




