198話 最強のゴーレム
ゴーレムを全滅させると、扉が一つ開いた。戻る階段は相変わらず出てこないので、進むしかない。
「そんなに大きなお城じゃないし、少なくとも36階建てじゃないから、そのうち魔王のところに着くんじゃない?」
ミーシャはとことん余裕だ。もはや緊張感も解けてしまっているんじゃないかとすら思う。でも、ガチガチに緊張するよりはいいことだろう。
ちなみに次のフロアも似たようなものだった。
全身が金属のゴーレムが動きだした。
「そっか、ここまで来ると、もう魔族よりもゴーレムにやらせたほうが早いってことなのね」
「でも、魔法石で動いてるから魔族と言えば魔族なのかな。どっちかっていうと改造手術の賜物って感じもするけど」
ゴーレムの顔に当たる部分が発光した。
「嫌な予感がする! みんな逃げて!」
ビームらしきものがそこから飛び出ていた。
照射された場所は焼け焦げたようになっている。
「もう、ほとんど機械じゃない。なりふり構ってられないのを感じるわ。でも、こういうのも嫌いじゃないわよ。勝利の執念みたいなのを感じるからね!」
ミーシャは相変わらず、ジャンプしての猫パンチを繰り出す。
ガシン! と大きな音がして、わずかにゴーレムの腹部がへこむが、機能停止にはまだ遠い。
「あら、岩よりは頑丈にできてるわね」
ミーシャは素で感心していた。
「みんな、このゴーレムはそこそこ怖いから、注意してね。ここは私がやるわ! さすがにナイフも剣も届かないと思う!」
たしかにミーシャの攻撃を受けて平気ってことは、とんでもない防御力なんだろう。
それでもミーシャは何度も攻撃を仕掛けていく。腹部の攻撃でダメなら、足を狙うが、これはこれでそれなりに硬いようだ。
「そっか、そっか。なかなかやるじゃない。でも、弱点見つけちゃったわ」
ミーシャは少し離れると、高温の火炎の玉をゴーレムの足あたりに叩きつける。
さらに、また一発。
「まだ、まだ!」
今度は腕を狙って一発!
しかし、それでもゴーレムはまだミーシャを倒すべくビームを撃とうとしている。とことん、しぶとい奴だ。
さっとミーシャはゴーレムの背後に回り込む。これは体を動かしてミーシャをつぶしにくるパターンだな。
だが、ゴーレムは動かない。
いや、これ、動けないのか……?
「あら、こっち向かないの? 向けないわよね。腕と足の関節の金属溶かしちゃったもんね」
わざと意地悪な声で、ミーシャは言う。
「ああ! そういうことか! 姉御、ゴーレムを動けなくしたんだ!」
レナも得心がいったらしい。
「これなら、どんなゴーレムもただのでくの坊だな!」
しかし、ゴーレムの顔の部分だけがくるっと回転した。
そして、ビームを油断してたミーシャに向けて撃った。
ミーシャの尻尾に当たって、ほんのちょびっと尻尾が焦げた。
「あちちちちちちちっ! 熱いわ!」
思わず、ミーシャがそのあたりをばたばた走り出した。傷は浅いけど、あれはきついよな……。
そのせいでゴーレムの首もぐるぐる回転して、ミーシャをつけ狙ってビームを撃ちまくる。けっこう迷惑だ!
「もう! 首だけ動くなんて知らないわよ! とっとと壊れなさいよ! バカ!」
結局、キレたミーシャの猫パンチがゴーレムの顔にめりこんで、ビームを撃つ機能も壊れてしまった。
そのあとは何もできないゴーレムに延々パンチを浴びせて、ついに金属に穴を空けて、内部の核も砕いた。
「ふぅ……尻尾はデリケートなんだからやめてほしいわ……」
ミーシャは丁寧に尻尾に回復魔法をかけていた。
「いやあ、しかし、このゴーレム、多分これまでの敵で最強だろうな。ミーシャに一矢報いたわけだし」
「そういう言い方もできるわね。あのビームも直撃するとみんなにはかなり深いダメージになっただろうし、回復前に二発目、三発目が来ないとも限らなかったしね」
そんな大物もそこまで苦労せずに倒せちゃった時点でやっぱりミーシャは化け物だな。
「さてと、それじゃ次に進みましょうか。そろそろ、魔王が出てきそうな気もするけどね」
「俺も同意見だ。もっと強力な金属のゴーレムは困るしな」
ゴーレムが倒れたおかげで、また扉が開いた。そこは階段があるだけの部屋だ。もう、上に進むしかない。完全なる一方通行だ。
禍々しい扉が前にある。これが何かを仕切っているんだろうなというのはよくわかる。
俺たちはその扉の前で一度、深呼吸をした。
いきなり襲ってこられるということはないだろうけど、それでもここで気持ちの整理はしているほうがいい。
「繰り返すけど、私とご主人様でやるわ。ただ、後方にいても、さっきのビームみたいなことをやってくる可能性もあるから、気は抜かないで」
「わかりました! 慎重にやります」
「本職のつもりでのぞみます」
それって暗殺者の気持ちでってことかな……。
俺たちは全員でその扉を開いた。




