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2話 最強の飼い猫

「レベルが1……。あんたも大変だな……」

「まあ、生きてればいいこともありますよ……」


 完全に同情される流れになってしまった。

 まあ、バカにされてないだけマシと受け取っておこう。


「どっちみち、そのレベルだと一人じゃ何もできないし、ついてきたほうがいいぞ。15層に下りて15000ゲインもらうんだ。それだけあれば、二か月は食っていける」


「ありがとうございます……」

 俺はしっかり頭を下げた。


 この冒険者たちに見放されたら、もう行き場がなくなるところだった。


「ところで、その生き物は何なの?」


 冒険者の一人、二十歳ぐらいの女性がミーシャを指差して言った。


「あれ、猫を知らないんですか?」


 そうか、この人は猫のいない世界から来たんだな。そういう世界もあるよな。かわいそうに。人生の三割は損してるな。この世界はどうやら普通に猫がいるらしいから、そのかわいさを実感してくれ。

 いや、まあ、猫がいない世界にいたことより、今の俺のほうが何割かかわいそうなのだが……。


 小一時間もすると、ダンジョンに馬車は着いた。


 山の岩盤に小さな洞窟があるが、その先に階段があって、どんどん下っていくらしい。


「モンスターぐらい、怖くないぜ!」


 自然と俺に最初に声をかけてきた男がリーダーのような役割になって、ダンジョンを進むことになった。


 俺を入れて総勢五名のパーティーだ。


 なお、ミーシャを連れていって許されるか不安だったが、問題はなかった。

 Lv1の奴なんて最初から戦力じゃないから何をしててもいいらしい。


 スライムやサソリのモンスターを倒して、パーティーは順調に進む。


 たしかに説明で聞いたように自分のレベルと到達できる階層がほぼ同じというのは正しいようだ。最初のうちは苦労にも入らない感じで先に進めた。

 もちろん俺は何もしないまま、ついていっているだけだったが。


 ただし、役には立っている。

 ミーシャがいることで場がなごむのだ。


「この猫、かわいいな」


 ザコモンスターと戦うといっても命懸けだ。

 そのあとにミーシャの頭を撫でると心もなごむのだろう。

 ミーシャも俺以外の人間にも愛想を振りまいてサービスしていた。


 そして俺たちは順調に地下15層まで到達した。


 あとは戻るだけなのだが、せっかくだし少し散策しようということになった。

 俺としては意見を言う権利もないので、素直についていく。


 しかし、その判断はあまりにうかつだったと思い知らされることになる。


 通路の前に小柄なゴーレムが出てくる。

 ブロック状の石を組み合わせた体をしている。

 顔に当たる部分の石が二つの怪しい光を発しているが、あれが目に見える。


 やっぱり、地下もここまで来ると強そうなのが出てくるな。


「これぐらい、たいしたことねえさ!」


 男が剣で斬りつける。

 だが――あまり効いてはいないようだ。


 直後にゴーレムが腕を振り上げる。


 グオオォ!


 パーティーの一人が頭をつぶされた。

 おそらく即死だろう。血が流れていく……。


 場の空気がすっかり変わってしまった。

 相当ヤバいモンスターもこの階層だと出てくるんだ……。


 たしかに地下15層まで行けるっていうのは、あくまで到達できるという意味でしかない。その層にアイテムを駆使しないと倒せない敵がいても不思議はない。

 それがまさにこのゴーレムなのだ。


「そうだ、馬車で王国の人間に言われたわ。ゴーレムだけは気をつけろって……。15層から出るけど、Lv20は必要って……」

 その話、もっと早く知りたかったな……。

「誰か回復魔法は!?」

 俺は声を荒げた。

「蘇らせることまではできないわよ!」


 最悪だ! かなり撃退が難しいモンスターと遭遇してしまったらしい。


 次の敵の一撃で紅一点の女性も壁に打ち付けられる。


「逃げよう! こいつらにはかなわない!」


 Lv16の男が叫ぶ。

 リーダーに当たる男もうなずくしかなかった。

 俺もミーシャを抱えて泣きそうになりながら走る。

 ダンジョン攻略で無理をしすぎた……。


 だが――

 逆側の通路にまで別のゴーレムが出てくる。

 最悪だ……。

 ゴーレムにはさまれた。


「眠りの魔法は?」とLv16の男が言う。

「俺は戦士らしいんだ! ない!」とリーダーの男。


 戦って道を切り開くしかないと二人は突っこんでいくが――

 二人では無理だ。


 ゴーレムの手によって二人ともつぶされる。

 文字通りの意味で。

 ちょっと身を守っても、敵の攻撃力が高すぎて、防ぎきれない。


 残されたのは俺だけだ。


 どうしよう……。


 こんなにすぐに死にそうになるだなんて……。


 しかし、逃げ道はない。

 両側にゴーレムがいる。


 もう終わりか……。


 ミーシャならゴーレムの隙間を抜けられるかもしれないが、こんな洞窟で生きていけるとは思えない。


 こんなところまで連れてきて悪かった……。


 その時、俺の腕からミーシャが飛び出した。


 ああ、恐怖を感じ取ったのだろうか。


 動物の勘っていうやつか。


 ミーシャ、お前だけでも少しでも生き延びて――


 ミーシャがゴーレムの前でぴたりと止まった。


「やめろ! 殺されるぞ!」

 それじゃ、いい的になる!

 ゴーレムの腕がミーシャに振り下ろされる。


 だが――


 ミーシャはそれを素早く回避し――


 ゴーレムに飛びかかって、猫パンチ。


 ゴブッ。

 鈍い音が響く。


 その一撃で、ゴーレムが粉々になって崩れる。


「えっ……?」


 夢か? 夢なのか?

 ゴーレムがミーシャに破壊された。


 しかし、まだそんな考察をしている暇はなかった。


 もう一体、ゴーレムは残っている。


 だが、ミーシャはすぐに体をターンさせると――


「キシャーッ!」


 再び、ゴーレムに突っこんで前足をゴーレムの胸に叩きこむ。


 その部分に大きな穴が空いて、ゴーレムが沈んでいく。


「マジかよ……」


 ミーシャがゴーレムを二体とも倒してしまった。


 そこで、俺は女神の言葉を思い出す。

 女神はこう言った。


 ――左と右の設定が逆だ。


 つまり、俺のステータスをチートにするのと間違えて、ミーシャをチートにしてしまったのではなかろうか。


 だとしたら、ミーシャが強い理由もわかる。


 というか、それしかありえんだろ。


 てとてと。

 ミーシャが俺の真ん前にやってきた。

 上目づかいでこっちを見てくる。

 これは「いいことしたから撫でて」のサインだ。


「そうだな、ファインプレーだよ」

 俺はミーシャの頭を丁寧に撫でてやった。

次回は夕方6時頃の更新予定です。本日は三回更新を目指してます。

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