192話 中ボスと戦う
俺たちは地下5階層への階段を見つけて、降りていった。
その階層はこれまでとまた違っていた。
なんというか、文明が発展しているというか、これまで土や石の壁が珍しくなかったのだけど、ラクリ教のダンジョンとは違うけど、きれいに磨かれた石で柱や壁ができているのだ。
ダンジョンのジャンルで言うと、洞窟から塔に移り変わったというか。小部屋も中には木の扉をいちいち開かないといけないものがいくつかあった。
「いよいよ、魔王に近づいてきたって感じがするわね」
ミーシャがあたりを見渡しながら、感想を述べる。それは俺も同感だ。レナは宝箱があるかもしれないとまた気持ちを盛り上げていた。たしかにラクリ教の時みたいな倉庫にぶち当たる可能性はある。
それと、この階層も敵がパッと見、いない。
これまでの傾向で言うと、魔族は防御ラインを何箇所か作っておいて、それ以外ではほとんど軍事力を割かない。今回もそういうところな気がする。
「このまま魔王まで何もないとは思えないけど、かなり近づいてきたのはわかる」
罠なども設置されてそうなので、気をつけて進みはしたが、全然そういうのにはぶつからない。
それと地図を作っているレナがとある特徴に気づいた。
「これ、きれいにシンメトリーになってますね」
俺たちが降りてきた階段を、仮に地図の下の真ん中とすると、その両側に同じサイズの部屋があったり、中央にも柱がはまっている廊下が伸びていたりして、まっすぐ上に向かっていく構造になる。
「いかにもボスがいそうだな……。ゲームによってはこのへんにセーブポイントがありそう」
「ご主人様の言いたいことはわかるけど、それはありえないわよ。だって、冒険者の幽霊の言葉が事実なら地下10階層までは最低でもダンジョンは続くからね」
それはそのはずなんだけど……。
「でもさ、その時代って魔王は復活してなかったんじゃないのか。だとしたら、復活した魔王が地下5階層にいるとか」
「え~。そりゃ可能性としてはあるけど、そういうのは一番奥にいてほしいわね……。たとえば5階建ての和風の城の天守閣にボスがいるとして、3階にいたら脱力ものだわ……」
ミーシャの言いたいことはわかる。ちゃんとダンジョン最奥にボスはいてほしい。しかし、利便上の問題などを考えると、そうもいかないこともあるんじゃなかろうか。
あと、この先に何かいそうという気はミーシャもしていたらしく、回復魔法で全員の体力は全快にした。
そして、中央の廊下を進んで大きな金属製の扉を押し開けた。
中にはいかにも悪魔といった感じの魔族が一人で立っていた。体が紫色なのだ。角もかなり立派なのが生えている。翼もあるし、足は獣っぽい。
まさか、ほんとに魔王なのか!?
「魔王様のところに進むことはまかりならん。この将軍バルドネがお相手しよう」
「あー、よかった、中ボスなのね」
ミーシャが変な理由で胸を撫でおろした。
「ふん、魔王様でないからあっさり勝てるとでも思ったか? だが、この私を舐めてもらっては困る!」
いや、おそらくミーシャは勝てそうとかそういう理由でほっとしたんじゃないとは思うけど……。
しかし、激戦になるのは間違いないだろう。
ミーシャがさっと俺たちの前に出る。俺はミーシャのすぐ後ろに立つ。俺は俺でレナとヴェラドンナを守らないといけない。
「ほう、猫の獣人が強いとは聞いていたが、本当にそういう布陣をとるのだな」
「ご主人様、敵の攻撃パターンがわかるまでは気を抜かないでね」
ミーシャが背中を向けたまま言う。
「こんなところで気が抜けるわけないだろ」
さて、戦闘開始だな。
「悪いが、接近してもらったほうが都合がいいのだ」
バルドネと名乗った中ボスが手を伸ばすと、ミーシャの周囲に次々に爆発が起こった!
そうか、攻撃魔法で一掃してくる作戦か。
ミーシャがいてくれなかったら、俺たちも爆風で飛ばされていたかもしれない。なんとかこらえた。
しかし、俺たちの横でも爆発が来た!
俺も思わず、何かにぶつかったように吹き飛ばされる。そんな致命的なダメージではないが。
「レナー、ヴェラドンナ、大丈夫か?」
「はい! ほぼ回避できました!」
すぐ立ち上がると、たしかに二人は距離を置いて立っていた。
攻撃魔法をかわせるって、すごい判断力だな。
「ほう、この爆発魔法をかわせるとは……。ここまで来るだけのことはあるな……」
まだ名前を出してきた中ボスは余裕を見せようとしているが、回避されることは想定外だったらしく、微妙に動揺しているようだった。
たしかにそこまでのダメージじゃないな。どんどん攻めていける程度だ。
「ご主人様、大丈夫?」
「割と大丈夫だ。まだまだいける」
俺はすぐに答えた。この魔族には俺たちを一撃で葬り去るほどの威力の攻撃はない。
「散開しつつ、攻撃に出ましょ!」
ミーシャと俺は両側からの攻撃に出る。
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