184話 魔族から聞き出す
「もしかして……あのフロアとつながってるのかしら……?」
そうミーシャが言った。
たしかに地下35階層で俺たちが引き返した魔法陣にそっくりだ。
もっとも、それだけであの空間がつながってると断言するのは早計すぎる。だから、ミーシャの声もあくまでも仮説といった調子だ。
「もちろん、魔法陣が全部同じ様式で作られてた可能性はある。そのうちの二つを見て、これとこれだけが偶然同じだって感じてるだけかもしれない。けど……この魔法陣があれと同じことは間違いないよな」
「旦那、もしかしてこれに入ると、あの地下35階層に行くかもしれねえってことですか? で、あっちから入ると、ここに行くと」
「そうかもしれないとしか言えないけどな」
レナの言葉で余計にその説に気持ちに傾きつつあった。
もっとも、そんなのは全部仮説でしかない。入ってでもみないとなんとも言えない。
「あの、一つ名案があるのですが」
名案とはとても思えないような平板な声でヴェラドンナが言った。
「このまま、説を並べていっても答えは出ないままですよね。入って確かめてみるにしては危険がありますし」
「そうだな。敵がちょっと強いとかならいいけど、入った先が生存不可能な場所――水の中とか火の中ってこともゼロじゃない」
わざわざそんな罠を作ってはないかもしれないが、ワープした先が水没しているという危険もなくはない。
「そこでなのですが、適当な魔族を見つけて拷問してみてはいかがでしょうか」
嗜虐的な感じもなく、ごく当たり前の方法といった調子でヴェラドンナは言う。元暗殺者らしい考え方だ。
「お前、やりすぎだろって気もするけど、たしかに現実的だよな」
仮にあの地下35階層につながってるとしたら、魔族が使っていそうなものだし、いろいろ確認しておくべきだ。
そうと決まれば話は早い。俺たちは引き返して、人語をしゃべっている魔族を探した。
こっちから探してる時はなかなか見つからないと感じるものだが、やがて三人組で行動していたリザードマンを発見した。
「見つけたぞ!」「魔王様のところに行かせるな!」
よし、こいつらはぺらぺらしゃべるらしいな。
「ここだと連れていくのが大変だから、あの魔法陣のほうに誘導するぞ!」
「はーい、わかったわ!」
俺たちはすぐに敵に背を向ける。
こっちが逃げたと思ったリザードマンたちは何も疑わずについてくる。逃げていること自体は事実だけどな。
こちらのメンバーの素早さは相当なものなので、ぶっちゃけ全力で逃げれば敵が追いつくのは無理だ。ダメージを受けない程度の距離を保ちつつ、魔法陣のある区画を目指す。
「むっ、こっちは魔法陣だな」「どうせ、あれは使えんという話だ」「いや、魔族でなければダメージはなく使えると言うぞ?」「というか、あれは稼働してるのか?」
なんか、かなりいろいろな情報が入ってきたな。
俺たちは魔法陣へ続く廊下あたりで向き直る。
「悪いけどな、いろいろと聞かせてもらうぞ」
捕らえ方はけっこうえげつなかった。
ミーシャがリザードマンの足にさっと近づいて、それを一気に変な方向に曲げた。そこをレナが縄でくくっていく。盗賊だけあって、このあたりの腕前は一流だ。
あっというまにリザードマン三人を拘束することができた。
「くそっ! 我々を捕らえてどうする気だ?」「こんな辱めを受けるぐらいなら、とっとと殺せ!」
いや、殺すんだったら、こんな手の込んだことしないって。
「あなたたちの命だってどうでもいいの。これから尋ねることを教えてくれたら解放してあげてもいいわ」
ミーシャが冷たい目で尋ねる。脅しの時の態度だ。
「魔王様へのことは何人たりとも話せぬのだ……」
リザードマンの一体が答える。
「逆に言えば、魔王以外のことなら教えてくれるのね? 心配しないで。厳密にはあなたたちの機密とも言えないことかもしれないから」
相手に主導権を与えないようにずっと話を続けていく。ミーシャ、こういう脅迫や交渉、かなり向いてるな。
「この先に魔法陣があるわよね。あれについて教えてほしいの。あれって魔族が作ったものじゃないでしょ? ということはなんでここにあるのかしら?」
リザードマンたちが顔を見合わせた。どうするべきか相談しようとしてるんだろう。
もしかして、三人は多すぎたか?
「ああ、情報を聞き出すのに三人もいりませんね。二人は殺しておきましょう」
ヴェラドンナがあっさりと言った。やっぱり三人もいたらまずいとすぐ判断したんだな。リザードマンたちの顔色も青くなった。
「では、二人は背中を向けておいてもらいましょうか。有益じゃない情報をしゃべった場合は殺しますから」
さすがヴェラドンナだ。完全にこちらが相手を圧倒する空気を作った。もう、いくらでも尋問できるはずだ。
「わ、わかった……。話す……」
これで、ある程度の情報は聞き出せそうだな。




