183話 魔王の城地下一階
地下の空気は地上階とまったく違っていた。
そりゃ、地下のほうが湿気がこもりやすいとか、風通しが悪いからカビ臭いとかそういうこともあるかもしれないが、もっと根本的に違うのだ。
内部の様式が地上階と比べて、はるかに無骨で、装飾のようなものはほとんどないに等しい。つまり、これが意味するのは――
「これって、ラクリ教と関わりがない場所っぽいわね」
ミーシャが核心をついた。
「俺もそう思う。多分、高く伸びてた階と地下では設計者が違うんだ。どっちかが後から建てられた」
「それなら順序は簡単よ。地下が絶対に先だわ。だって、最上階にカギがあったんだから。地下ができてないのに、そんなものを作る奴はいないって」
「もしかしたら別の用途かもって気もしたけど、たしかにカギのためだけに作ったものと考えたほうがいいよな。がらんどうの階もあったし」
となると、ラクリ教の関係者はこの地下への侵入を阻むためにああいうものを作ったってことだろうか。
けど、そんなこと考える前に魔族がやってきた。
紫色の体に筋骨隆々の肉体を兼ね備えたいかにも魔族という連中だ。長い剣を持って襲い掛かってきた。
剣士の俺が前に出る。体力的に即死することもまずありえないからだ。ミーシャだと強すぎて、俺たちが戦えるかどうかがよくわからない。
敵の剣の一撃をこちらの剣で防ぐ。
はっきりと重いと感じた。
かといって、かなわないというような恐怖感まではない。勝てるとは思うけどこれまでのダンジョンで対峙した敵の中では相当トップクラスだろう。
Aランク冒険者一人に匹敵するぐらいか。
「ミーシャ、ほかの二人を援護してやってくれ。こいつら、それなりにやるぞ!」
「わかったわ、ご主人様!」
俺はまずは眼前の敵一人に集中する。今は装備が頑丈だから大丈夫だけど、これ、ずっと前に戦ってたらかなり苦戦したかもしれない。
しばらくやりあった後、隙を見つけて、思い切って相手のノド元に剣を刺し込んだ。
それで、敵は絶命したらしく、力なく膝をついた。
後ろではミーシャがたしかに補助にまわって、レナとヴェラドンナに戦わせていた。
敵の強さはダンジョンでなら基本的にそのフロアでだいあい釣り合いがとれている。差所の一体と戦えば、だいたいのレベルも予想がつく。こういう人為的な要素が強い場所だと怪しいけど。
ヴェラドンナが背後から回り込んで敵を切った。ただ、かなり時間がかかったという印象だった。それでも、ひとまず戦闘は終わった。
「ヴェラドンナ、レナ、感覚としてはどれぐらいの強さだと思った?」
「そうですね、旦那、王都のダンジョンの地下30階層より下のあたりって感じですかね。ただ、あれよりもさらに強い印象はありますけどね」
「レナもか。俺もなんとなくあのダンジョンからの連続性みたいなのを感じるんだよな」
「敵の強さのせいだとは思うんですけど、少なくとも地下一階目って感じじゃないんですよね。もっとずっと潜った先って気持ちはあるんです」
「そうだな。わかる。けど、まずはこのフロアを探索しよう」
慎重に、慎重にそのフロアを進んだ。同じような種類の魔族と戦闘になることもあったが、戦闘の回数はそう多くない印象だ。魔族の密度は低めだ。
もっとパーティーのレベルが低かったら、一戦一戦が中ボス戦ぽい気持ちになったのかもしれないけど、俺たちの場合はミーシャがいるので、そこはそんなに苦戦もなく先に行ける。
地下へと進む階段も見つけたが、それは後回しにする。
フロアの構造としてはかなりわかりづらい。一言で言うと、迷路に近くなっている。
「これ、お宝を隠してるダンジョンみたいですね……。居住環境としてはややこしいな……」
マッピング担当のレナがぼやくように言った。
「やっぱり何か隠しているのでしょうか、お嬢様」
「このフロア自体にか? ありえなくはねえな。まだ行けてないブロックもあるしな。旦那、姉御、こっちの探索が終わったら逆側にも行きましょう」
そして、レナの言葉のとおり探索を進めていって、また、おかしなことに気づいた。
あるところまで行くと、また壁面装飾などがラクリ教のものっぽくなったのだ。
いかにもなんかあるなと俺は気を引き締めながら進んだ。ドラゴンゾンビみたいなのと戦う可能性があるからな。
一方、レナはお宝があるかもとうきうきしているようだった。
別に扉も何もなく、あっさりと袋小路の部屋にたどりついた。
でも、そこにはものすごく特徴的なものが置いてあった。
王都郊外のダンジョンの地下35階層にあった、あの魔法陣がある。
水がたまっていて、プールの底みたいになっている下部に魔法陣が描かれている。
どう考えても、過去に見たあれと共通点があるよな。
「もしかして……あのフロアとつながってるのかしら……?」
そうミーシャが言った。
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