181話 炎の出る床
さて、次は六階か。しかし、この上に魔王がいるにしては、ガラガラすぎるんだけどな。
俺たちはかなり違和感を覚えながら、その先に進んでいく。いくら強力なドラゴンゾンビが守っているにしても、その先のフロアがザルすぎる。敵のエンカウントが一切ないのだ。
「ほんとに魔王がこの上にいるんですかね? どうも、現役で使われている感じがないんですけど」
レナが五階フロアを見回しながら言った。言いたいことはよくわかる。
「やけにほこりっぽいよな。防御が手薄って言うより、使用されてないってイメージがある」
そう、どうにも空き家っぽいのだ。俺たちは空き家をずっと進んでいるような感覚にとらわれていた。
「しかし、一階には魔族が間違いなく集まっていましたし、我々を止めようとしてきました。ここが魔族の重要な施設であることは疑いようがないです」
ヴェラドンナのその言葉も正しいのだ。ずっと、敵が出現しないなら空き家の可能性も高いが、すでに相当数の魔族と戦った。最低でも、敵にとって守らないといけないものがこの建物には存在しているのだ。
「まあ、私たちは学者じゃないんだし、このダンジョンを全部攻略していけばいいのよ。引き返さないといけない理由もないわ。新しい情報もまた出てくるかもしれないし」
ミーシャはあっさり六階へと進む。
そこはまたがらんどうだったが、一部の床が妙なことになっていた。
漆黒の床が十メートルほどの幅を持って、部屋の中央に横たわっているのだ。
俺はすぐに王都のダンジョンで見たトラップのある床を思い出した。その床だけ見ても思い出さなかったかもしれないけど、地下30階台のエリアにちょっとずつ似ているからな……。
「これ、いかにも何かありそうだな」
「旦那、私はこの床に載りたくないですよ……」
レナも身をすくめている。いかにも何かありますって雰囲気があるよな。ここに来る途中に渡った沼みたいに、帯状に黒い床が広がっている。
ヴェラドンナが前に出て、荷物から食料を包んでいた木の皮を出した。食料はドライアドの森でもらったものだ。ていうか、ゴミとして捨ててなかったのか。
その木の皮を丸めて、ぽんとヴェラドンナが投げる。
ブワアッと床から火柱が上がって、すぐに木の皮が燃え尽きた。
「こういうことのようですね。何かが上に置かれるというか、上に来ると自動的に炎が噴き上がる仕掛けのようです」
「これはシャレになってないな……」
なかなか面倒な仕掛けじゃないか。しかし、この城の魔族はどうやって行き来してるんだ……? 解除ボタンでもあるんだろうか。
「誰か踏んでみる?」
ミーシャが無茶苦茶なことを言った。
「嫌に決まってるだろ。トラップとわかってるものを踏んで死ぬなんて最もバカらしい死に方の一つだぞ……」
「そりゃ、死んだらバカだけど、私たちのステータスならちょっとぐらい大丈夫だと思うのよね。じゃあ、わかったわ。私からはじめるわ。回復もできるから問題ないでしょ」
そう言うと、そうっと右足を黒い床のほうにミーシャは近づけていく。たしかに、回復ができるから、片足だけ置いても即死することはないから死ぬことはないはずだけど……。
「いや、ミーシャ、ここは俺がやる……」
ステータスが違うとはいえ、ここで飼い猫にやらせるのは何かがおかしいと思う。人としてそれでどうなのかという気がしたというか……。
「あっ、ほんと!? じゃあ、ご主人様、やって、やって!」
そんなに無邪気に言われると微妙な気分だけど、この中で男は俺だけだし、義務みたいなものだと思おう。
そうっと右足を俺は出して、黒い床に落とす。
炎が足に直撃する!
「あつっ! あつっ!」
俺はすぐに足を引き抜く。
「どうだった、ご主人様?」
そう聞きながら、ミーシャは回復魔法をかけてくれる。それで火傷はすぐに治った、
「たしかにダメージとしては即死クラスじゃないな。数字で言うと50ぐらいかな。ミーシャの体力なら700近いから、ごり押しでいけなくもないかもしれないけど、俺なら五歩耐えるのがやっとかな。ヴェラドンナなら三歩ぐらいできついと思う……」
とりあえず、どれぐらいのものかわかったのは収穫だな。これで具体的な対策を考える余裕ができる。
「なるほど。これなら打開策もありますね」
ヴェラドンナが言って、レナもうなずいた。
「旦那、これぐらいの幅なら私とヴェラドンナならジャンプでどうにかできる気がします。仮に届かなくても即死しないダメージなら大丈夫かなと」
そっか、職業的に身軽だもんな。
「それでは私からやってみましょう」
ヴェラドンナがいつもどおり、ほとんど表情を変えずに言うと、荷物を置いて、たたたっと助走をつけて飛んだ。
きっちりと黒い床を過ぎたところに着地する。そのまま、勢いをつけてぐるぐる床を受け身をとって転がったが、無事だ。
「行けましたね」
ヴェラドンナが静かに言った。
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