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173話 深い谷を探索

 また、俺たちは原野を黙々と進むことになった。

「もうちょっと面白い要素がほしいわね。せめて景色がいいとかでないとやってられないわ」

 ミーシャが不平をこぼす。


「そんなこと言っても観光地の対極みたいな場所だからしょうがないだろ」

「せめて距離が短いならいいんだけどね」

「それは俺も同意する」


 沼と谷の間もかなり長い。王国の図書館の本にはそんなに細かく書いてなかったけど、つまり何の変哲もない原野が続くので描写しようがなかったということだろうな。


 せめて、何日ぐらい谷に着くまで歩いたか書いておいてほしいところだ。同じようにその土地を訪れる奴がいるなんて想定してなかったのかもしれないけど。


 途中、夜になって一泊した。そして、もう一日歩き通して、ついにその谷に到着した。


「たしかに、これは深いな……」

 対岸まで二キロぐらいはすっぽり切り抜いたように地面がなくなっている。

 もちろん間にかかる橋なんてものはない。


「図書館で読んだ本によると、ここで引き返したみたいですね。それも納得の地形かと思います」

 ヴェラドンナも表情は淡々としているが、しきりにその景色を眺めているから、ある種の絶景を楽しんでいるようだった。


「どこかに降りやすい道があるらしいんだけどな、さて、それはどこかな……」

「どうやら、私の出番みたいですね!」


 勢いよく、レナが崖に近づいて、様子を観察する。たしかに道とは思えないところに道を見つけるという点では、レナが適任だろう。俺が見てみても、正直さっぱりわからないと思う。


「魔族の話だと、あからさまな道はないということだったわね。遊歩道があったら底を突破されるから当たり前ではあるけど」

 ミーシャの言う通りだ。なので、基本的にはレナに任せるしかないと思う。山道を何度も攻略してきたプロに見てもらいたい。


 幸いというか、まともに木が生えてないところなので、木の陰になってよくわからない場所というのはない。


「谷がずっと横に広がっているんで、チェックに丸一日かかりますね。今日は暗くなってきたし、また明日やらせてください」

 レナもかなり慎重にやるつもりらしい。こっちとしても元よりそのつもりだ。


「わかってる。急かす気はない。しっかり調べてくれ」

 帰りにどれぐらい時間がかかるかはおおかたわかる。そういう意味では帰りは心理的にかなり楽だ。パーティーのレベルからしても敵に出会った途端、全滅の危険があるなんてこともない。


 その日はレナはかなり早い時間に寝た。その分、早朝から起きて谷を調べるらしい。



 次の日も朝からレナはチェックに出かけた。強力なモンスターが出るおそれもまったくなくはないので、レナには全員で同行する。ちなみにこんなところには住めないからなのか、モンスター自体のエンカウントはまずない。


 過去にひたすら綿密にダンジョンを調べたことがあったけど、あれに似ている。


「どうだ? なんか見つかりそうか?」

 俺からはまったく進展はわからない。ただ、レナが崖に顔をのぞきこんだり、少しだけ降りられるところに降りては戻ってを繰り返したりしているだけだ。

「検証にどうしても時間がかかるんです。ここは気長に待ってください」

 そう言われたら、こっちは黙るしかない。


 どうも何か手がかりになりうるものを探しているようだけど、何なんだろうか。


 それで、その日も昼過ぎになったかなという頃。

「よし!」


 レナが元気のいい声を出した。


「わかりやした! ここです! ここから行けます!」

 かろうじて降りられそうなポイントにレナは指を差す。


「疑ってるわけじゃないんだけど……これ、なんか根拠はあるのか……?」

 俺から見ると、どこもゴリ押しで降りていく場所にしか見えない。降りることはできても帰れるんだろうか……。


「よ~く見てください。モンスターの足跡らしきものが残ってるんですよ」

「言われてみれば、何か岩場にくぼみみたいなのがついてるように感じなくもないわね」


 ミーシャも確信が持てないようだけど、俺も同じだ。これは盗賊にしかわからない領域だと思う。


 ヴェラドンナもそのあたりをチェックする。

「使われていますね。道の空気を感じます」

「なんだよ、道の空気って……」

 抽象的な表現でよくわからない。


「長く使われている道は、そこに生活感みたいなものが残ります。一見ただの山に見えても狩猟者がよく利用すれば、そこはただの山とは違う人が使った、別の空気が流れるんです。この場合は人ではなくてモンスターが歩いているわけですが」


「言いたいことはわからなくはないけど、観念的なものだから、100パーセントは同意しづらいな……」

「殺し屋の勘とでも言うようなものです。そういうものに敏感になりますからね」


 でも、盗賊と殺し屋がここだと言っている以上、信じるしかないだろう。


「わかった。じゃあ、ここから降りていこう」

「はい。登っている足跡もありますから、ここを使って戻ってもこれるはずですよ」


「時間的には今から行けるかしら?」

 ミーシャが尋ねる。

 たしかにもう昼過ぎだ。崖を降りるど真ん中で夜になられると困る。


「そうですね、念のため朝から動きましょうか」

 俺たちはその「道」の前で、もう一泊した。

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