169話 魔王城攻めの準備
盗賊団『夜の爪』の団員はしっかり国の軍隊に引き渡した。
多分大半の奴は、どっちみち死刑になろだろうけど、それはしょうがない。そういうリスクを込みで盗賊団をやってたんだろうし。
俺たちは資料に関しては王に直接渡した。軍隊にうかつに渡して握りつぶされても困るからな。一番偉い人に持っていくのが確実だろう。
「ありがとう。これはこちらで適切な対応をすることにしよう」
王はそう言った。まあ、すべて厳正にやって国政に混乱が起こってもまずいし、そのあたりの対応は任せよう。こっちは冒険者であって政治家ではないので、どういった対応をするのが正しいかわからない部分もある。
「はい、よろしくお願いします。俺たちに裁く権利はないですしね」
「それで君たちの一行はついに北に向けて旅立つのか」
王もこれで魔王の軍隊の拠点が王国の領土から消滅したことは把握している。
となると、次は必然的に魔王の土地に入っていくことになる。
「そうですね、しばらくはこの国は安全になったとは思いますが、魔王に征服欲があるのは間違いないですし、叩いておくほうがよりよいでしょう」
「それに私たちにとって戦いがいがある相手ってそれぐらいしかいませんし」
ミーシャは王に対しても堂々としゃべる。別にそれを無礼とかは王も感じていない。
「それもそうであるな。君たちが生きている時間を得るためにも、魔族の土地に踏み込むべきかもしれん」
ミーシャは小声で「ご主人様と一緒にいられるなら何でもいいんだけどね」と言った。たしかにミーシャにとってはそれが一番なんだろう。でも、力を使いたいというのも間違いじゃない。ずっと、弱いモンスターを倒してお金稼いでもしょうがないしな。
「君たちの助けになれることがあれば言ってくれれば、全力でサポートするが」
「いえ、大丈夫です。ほかの冒険者が参加しても危ない旅になりますし」
「そうか、わかった。冒険者のことは冒険者にしかわからぬだろうしな」
まさしくそういうことだ。
俺たちは魔王討伐の準備を進めることにした。
準備といっても、海外旅行じゃないんだから外国のお金もパスポートもいらない。これまでの冒険に使っていた道具で十分だ。着替えは多いほうがいいが、あまりあるとかさばってしまう。
「服を作る魔法でもあればいいんだけど、そういうのはないわね」
俺たちの部屋で、ミーシャが荷物を詰めながら言う。
「魔法って別に願いが自由にかなうような意味合いのものじゃないからな」
「ねえ、ご主人様、今回の旅って、冒険的には最後の旅になるのかしら」
さらっと、ミーシャが尋ねた。
少し俺は言葉に詰まった。
悩んだとかじゃなくて、単純にわからなかった。
「俺、そういうこと考えたことなかった。マジで」
だって、冒険の終わりなんて定義はないのだ。半永久的に続けられるだろう。
「けど、私たちにとって意味のある冒険って、敵と戦ったり、何かクエストを達成したりってことになるわよね。で、その時に必要な能力って、モンスターと戦う時ぐらいにしか使えなくない?」
「言いたいことはわかる。チートなステータスを有効利用するって意味では、魔王倒したらおしまいになっちゃうのかな。ゲームでよくあるみたいに、真のボスとかいるかもしれないけど」
ミーシャはちょっとだけ寂しそうな顔をしていた。
「私、ご主人様と一緒ならなんだっていいって思ってたし、家でごろごろしてるほうがいいぐらいに考えてた。でも、最近、ご主人様とする冒険も楽しいってことに気づいてきたわ」
ていうか、最近なのか……。
「そりゃ、旅行みたいなもんだもんな」
「なのに、もうすぐ本格的な冒険がおしまいになるっていうのは寂しいかも」
俺はミーシャの頭をこつんと小突いた。
「バカ。ミーシャのためなら魔王倒したあとでも、いくらでも楽しめる冒険を提案してやる。だから、気楽に構えてろ。ミーシャは偉そうにどーんとしてるぐらいでちょうどいいんだ」
ミーシャが笑顔になる。そして、そのまま俺に抱きついてきた。
こうなると、もうかわせない。かわせない絶妙のタイミングとスピードでミーシャは俺に抱きついてくる。
「やっぱり、ご主人様は最高! ほんとにほんとに愛してるわ!」
「おい、まだ旅の準備が終わってないぞ……」
「そんなの関係ないわ! いちゃいちゃしましょ! しばらく、またこの屋敷も留守にするんだから!」
「それもそうか……。わかった、お前に任せる」
結局、準備そっちのけでミーシャと部屋でいちゃつくことになった。
宿も何もない土地でいちゃつくのはいくらなんでも難しいだろうし、これぐらいがちょうどいいのかもな。
もちろん、今回の旅の目的は魔王を倒すことだけど、ミーシャを楽しませるってことが俺の裏テーマだ。こっちもしっかり充足させてみせる。それは飼い主としての義務みたいなものだな。




