168話 盗賊団壊滅
「とにかく、貴様らは全員殺す!」
ボスの肉体がふくれだして、緑色に変わる。
人間は仮の姿ってことだな。いかにもボスにありがちだ。
けど、そこにミーシャが飛んでいく。
変身中のボスをぼかすか猫パンチで叩く。
「ぐっ! ぶふっ! お前、卑怯……」
たしかに変身中を狙うのって卑怯と言えば卑怯かもしれない……。
「知らないわよ。そっちが殺そうとしてきたんだから文句言う資格ないし!」
集中攻撃で、ついにボスの首が変な方向に曲がった。
変身途中のかなり不気味な姿でボスが倒れていった。
ミーシャはさらに肉を引っかいて、皮膚から魔法石を引っ張り出した。もはやグロさとか気にしないな……。
「はい、終わりましたね。旦那たちもお疲れ様でした」
レナが締めのあいさつをしたけど、俺が一番何もしてないんだよな。
「レナはどうやって入ったんだ?」
「これだけの規模のアジトだから、合計三箇所は入口があるんですよ。そっから入りました」
なるほど。まあ、火事とかになったら危ないしな。
「あっちで『夜の爪』に関する資料も見つけたんで、王国に報告ですね」
「そうだな。ああ、縄ないか? 生きてる奴は縛ったうえで王国に連絡しよう」
生存者は随時、縄で拘束した。ケガ人はミーシャが回復魔法をかけた。
こうして、なんだかんだで『夜の爪』を仕切っていた魔族のボスも片付けた。
●
俺は『夜の爪』を滅ぼしたら、すぐに特殊メイクみたいなのをはずした。地下だけど水ぐらいは、ちゃんと連中が汲み置いていたので、それを使った。
裏の世界の怪しいオッサンというキャラはこれでおしまいだ。ヴェラドンナも娼婦じみた濃い化粧を落としていた。
「よかった、普通のご主人様だわ。本当に別人のオッサンだったらどうしようかと思っちゃった」
「そんなホラーみたいな展開嫌だし、本物の俺はどこにいったんだよ」
ミーシャは笑っているから、本気でそう考えていたわけじゃないんだろう。
「でも、だんだんとご主人様、役回りが上手くなってきてたわね。やっぱり演技なんてものも慣れと経験なのね」
「それはそうかもな。ミーシャも猫の役、上手かったぞ」
「もう! これは元々よ! 生まれた時から猫だわ!」
ふざけたら、ミーシャに怒られた。
「でも、ミーシャって黒猫だから、こう裏社会の奴が飼ってる猫としてぴったりなんだよ。マフィアのトップとかが撫でてそうだし」
「褒められてる気はしないわね……」
「高級そうって意味合いもある」
「おちょくられている気もしなくもないけど、言いたいことはわからなくもないわ」
レナは『夜の爪』が持っていた資料を閲覧していた。
「これ、大物の貴族も名前連ねてますね。出回ったらヤバいな。ま~、どう扱うかは国に任せるか」
「この国の王様は頭がいいから、鬱陶しいのを失脚させるためとかに使いそうだな。でも、こういう盗賊とかと関わったほうが悪いわけだから、いいんじゃないかと思う。火のないところに煙は立たずってやつだ」
まさにその言葉がすべてだと思う。
そもそも非合法団体と絡んだ奴がどんな目に遭おうと知ったことじゃない。
「あ、ちなみに私は泥棒はしましたけど、こんな疑わしいだけで殺そうとするなんてひどいことはしてませんでしたからね!? 一緒にしないでくださいよ!?」
「わかってるよ。そんな心配はしてない」
「どうせ、盗賊団なんだから似たようなもんじゃないの?」
人の姿に戻ったミーシャがあくびしながら言った。
「いいえ、全然違いますよ!」
「はい、お嬢様のおっしゃるとおりで、裏には裏の名誉みたいなものがあるのです。人間はどこまでいっても社会的な生き物ですから」
やけに達観したようなヴェラドンナの言い方だ。
「そういや、ヴェラドンナの名前って裏社会だと知れているのか?」
「そしたら、捕まえてる人たちに聞いてみたらどうですか?」
俺は生存者を一時的に縛って置いている部屋に行って、質問した。
「なあ、お前ら、ヴェラドンナって知ってるか?」
盗賊の顔色が変わった。死より恐ろしいものを見たなんて顔になっている。
「もしかして、あの娼婦みたいな女はヴェラドンナだったのか……?
「え? ああ、そうだ、そうだ。普段からあんなんじゃないけどな」
「そんなの見たら、そりゃ地獄に行くよな……」「こうなることは必然だったな……」
相当ビビってるな……。
「お前らの世界だとそんなに危険な人間なのか?」
「ヴェラドンナがやってきたら、絶対に助からないって言われてたからな……。近頃はあまりヴェラドンナがやったらしいって事件がないから平和になったって思ってたんだけど……。あいつに皆殺しにされた盗賊団もあったはずだぜ……」
皆殺しって……。非合法の奴だと捜査もテキトーになりそうだし、仕事としてはやりやすかったんだろうか。
「あんたも気をつけな。ヴェラドンナとかかわるとか、本当に怖いことをしてるんだぜ」
盗賊たちに忠告される有様だ……。




