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164話 盗賊団を騙す

 また、俺とヴェラドンナは変装をして、例の店に入った。

 俺たちの強みはとんでもない額のお金をぽんぽん出せるので、盗賊団を信用させやすいってところだ。

 それと、超高額の魔法石も持っていってやろう。組む気にもなれないザコとは違うと思わせられるだろう。


 店にいくと、また、こつこつとテーブルを叩く奴がいた。今回はやけに背の低い男だ。容姿だけならゴロツキには見えないが、発している空気がぴりぴりしている。まともな人間ではない。


「『夜の爪』に世話になりたい」

 そう言って、俺はボスを倒した時に得た、ものすごく貴重な魔法石を見せる。さすがにこれを渡すわけにはいかない。


「これだけのものがある屋敷を見つけた。あんたらの力を借りれば、やれる」

 ヴェラドンナがもう少し質の悪い魔法石をたくさん入れた革の袋を置く。前払いの意味合いだ。


「それで信用してもらえるには足りるか?」

「金額としては十分ですね。問題はあなた方が信用できるかどうかですが。こっちを一網打尽にする罠かもしれない。『夜の爪』は最近暴れすぎていますので」


 もし、こっちが官憲だったりしたらシャレにならないからな。


「そんなことを言われても困るわね。裏で生きているんだから、文句なしの札付きだって証明のしようがないもの。足もつかないように生きてきてることこそ、こっちが裏で成功している証拠でしょ?」

 ヴェラドンナがそう説明して、俺にしなだれかかってくる。


 ミーシャが「にゃー」とあまりくっつきすぎないでよみたいな意味で鳴いた。ミーシャには悪いけど、これはこれでうれしい。けど、ミーシャもレナの件は許可してくれたのに、ヴェラドンナのこういう作戦はダメなんだな……。


「素性がわからないにしても、何物でもない中年男が大きな仕事をやっているということはまずないですからね。バックにそれなりの領主や政治家がいることが普通ですよ。でなければ、罪をもみ消せないでしょう」


 背の低い男の言葉づかいは丁寧だ。悪人も大物になるとゴロツキじゃなくなるってことか。年は三十歳ぐらいか。


「申し訳ないですが、保護者がいない者との仕事はしないことにしているのですよ。盗賊団が崩壊すると大変ですからね。こちらを守ってくれている人たちも多いので、一斉逮捕なんてことは、そうそうできないと思いますが」


 なるほどな。巨悪は権力と結びついてるってことか。でなきゃ、叩き潰されたりするもんな。


 けど、これは厄介なことになってきたな。金目のものなら渡せるけど、悪人の世界でも信用が必要となると、どうしょうもないぞ。


「ずいぶんとお堅い盗賊団なんだな」

「長くやっていくにはそういうのが必要なんですよ。親方はずいぶん長い間、この世界で生きていますからね」


「わかったわ。それじゃ、これをお見せすればご理解していただけるかしら?」


 何か手紙みたいなものをヴェラドンナは男のテーブルに置いた。


 いったい、何だ? 差出人の名前を確認する。セルウッド家執事という表記が見えた。


 これ! セルウッド家の!


 声を出さなかっただけ偉いと思ってほしい。まさか、そんなものを持ち出してくるとはまったく思っていなかったのだ。


 内容はどうやら、ぱっと見で読んだかぎりでは、こちらは平穏無事なので心配しないでほしいといった、どうでもいいものだ。何か核心に触れるようなものは書いていない。最初からそういうものを選んだのか、意図的に偽作してきたのかはどっちかわからないけど……。


「セルウッド家……。ここがパトロンということですか……?」

 男も想像以上の大物の名前が出てきて、困惑しているようだった。なにせ俺も困惑してるぐらいだからな……。


「結局のところ、あなた方が信用されるかどうかですべてが決まるのだから、これがどういうものかは、あなたに任せるわ。ダメだというならほかを探すまでよ」


 慎重に男はその手紙を確認していた。真贋を見極めるぐらいの実力はあるのだろう。

 その間、ミーシャが暇そうに「ニャー、ニャー」と鳴いていた。なごむのでありがたい。この酒場は空気がとにかく重くて怖いのだ。


 酒場にいたほかの二人の客と、マスターも手紙を見ている男を注視していた。ヴェラドンナはこういう空気に慣れているのか、涼しい顔をしているが、俺は落ち着かないので、とっとと結論を出してほしい。


「偽作とは考えづらいですね。いかにも上級貴族の家政機関から出されるものといった趣だ……。内容はよくわかりませんが、これだけ私的なものをあなたが所有しているとなると……」


「やっと信用してもらえるのね。助かったわ。盗んだものと言うのなら、あと何通も見せるつもりだったけど」

 ヴェラドンナがさらに数通の手紙を出してきた。

 ここまで用意周到だったのか。さすが裏の世界で生きてきたことのある女だ。


「わかりました。あなた方の話を詳しくお聞きしましょう。ですが、ここでというのはよくないですから、アジトのほうにお連れしましょう」


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