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163話 裏社会に潜入

 こうして俺は、盗賊の情報を効率よく得るために、うだつのあがらない飲んだくれの変装をさせられた。

 メイクに関してはレナがそういうのが得意で、担当した。

「盗賊だからこういうのは得意なんです」

「そりゃ、すぐばれる盗賊じゃ、商売にならないか」

「うんうん、旦那、よくぼろぼろになってますぜ」

「全然うれしくない」


 ミーシャも猫の姿で、くすくす笑っていた。

「こんなご主人様に飼われていたら絶望しかないわね。こういう時って、似合ってるって言っていいのかしら」

「俺としては似合ってないって言われるほうがうれしい……」


 鏡を見たら、どうしようもないぐらいにひどい姿の人間がいた。メイクのせいか、かなりの悪人顔だ。服もわざと安っぽい破れたものにしている。


「では、これで情報収集に向かいましょう」


 そう言ったヴェラドンナの化粧も濃い。どうやら娼婦の設定らしい。服もかなり胸元を強調したものになっていた。


 そのヴェラドンナが俺の腕をとってくる。

「いいですか。ケイジ様は客ということで。よろしくお願いしますね」

「俺はいいけど……ミーシャが……」


 猫のミーシャはいかにも、機嫌が悪いという顔をしていた。

「作戦だから怒ったりはしないけど、あまり鼻の下は伸ばさないでね」

「でも、鼻の下伸ばしたふりができないとばれても困るんだけど」


「伸ばしてる演技で周囲を欺きつつ、私には演技だってすぐにわかるようにして」

 無茶振りにもほどがあるだろ……。


 俺とヴェラドンナ、それと猫になっているミーシャは夜の街に繰り出した。

 なお、ミーシャはヴェラドンナの肩に乗っている。


 これまでに使ったことのある酒場からさらに奥へ入っていくと、薄暗い路地のようなところに出た。


「こんなところに店なんてあるのか?」

 店の看板なんて、どこにもかかってない。商売をする気があるならこんなところでやったりはしないだろう。


「大丈夫です。裏の世界では知られたお店があります」

 ヴェラドンナは表情も変えずに進んでいく。そして、ぱっと見は前の通りにある店の勝手口だろうと思われる扉を開いた。


 そこは酒場だったが、入った瞬間、ヤバいところだとわかった。

 冒険者もゴロツキ崩れみたいなのは多いが、その比じゃない。もっとぎすぎすした空気を放っている。


 そこの客たちは一斉にこちらを見る。カタギとは違う空気が店に広がっている。


 どういう演技をすればいいかは覚えている。まずは酒を二つ注文した。


 いきなりほかの客たちにしゃべりだすと不自然なので、しばらくはヴェラドンナと会話をする。当然、ただのよもやま話じゃなくて、演技のうえでの話だ。


「大きな仕事が一つ入ったんだ。がっぽり稼げる」

「へえ、どこに猫が入るの?」

 猫というのは、泥棒とか強盗のことらしい。


「王都の南なんだがな。交易で稼いでる商人がいるんだ。これを一つ成功させればあとは半年ほど潜伏して楽しく暮らせるぜ」

「でも、あなただけじゃダメでしょう」

「ニャー」

 ミーシャが演技なのか雑に鳴いた。猫が猫の鳴き声を出しているので、違和感はまったくない。


「『赤い虎』のシマでもないしな。どこか流れてる連中があればいいんだが」

 この『赤い虎』というのは盗賊団の名前らしい。王都近辺を縄張りにしている奴らだ。


「あ~あ、七百万ゲインは保証できるんだけどな」

 こつこつと指でテーブルを叩く音が後ろからした。客の一人、大柄のはげあがった男だ。そこに俺は近づいて耳を近づける。


「『夜の爪』って流れの盗賊団ならいるぜ。数は三十人いる」

 おっ、盗賊団の紹介があった。


「けっこうな数だな。そういや、魔族が頭領してる盗賊団がいるって話だけどな」

 このネタに食いついてくるかどうかは賭けの要素もあった。駄目な場合は駄目だろう。だいたい、この『夜の爪』で合ってるかわからない。

 

「おい、その話、どこで聞いた?」

 男の声が低くなる。

 これは釣り上げた可能性が高いな。


「構成員だけで三十人もいるんだろ? 一人二人、口が軽いのもいるさ。といっても、俺はそういう噂を聞いてるだけだ。『夜の爪』がそれにあてはまるかなんて知らねえよ」

「そうか。まあ、魔族だろうとどうでもいい。稼げればいいんだ」


 男も納得したらしい。俺とケンカするメリットもないしな。


 ヴェラドンナがそのテーブルにやってくる。三万ゲイン分の小切手を持って、男のところに渡した。仲介料だ。


「それと、こちらはお渡しできませんが」

 これまでにダンジョンで見つけた、高額なアイテム類をその男に見せる。あくまでダンジョンで入手したものだけど、見ただけではそんなことわかるわけもないだろう。


「よしよし。三日後の同じ時間にここに来てくれ。『夜の爪』の奴を呼んできてやる。けど、金の半分は前払いになると思うけど、それでいいか?」

「ああ、問題ない」

 正直、またこの姿をするのは嫌だなと思ったけど、金を払えば信用されるなら楽な話だとも感じた。

 デカい額を目の前に出してくる相手なら、大きなウソはないって考えるんだろう。


 帰宅後、俺はけっこう気疲れして、ぐたっと休んだ。

 これ、思ったよりも体力使うものだな……。ばれないようにするっていうのは大変だ……。


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