157話 図書館で本探し
今年最初の更新です。今年もよろしくお願いします!
ミーシャは階段の奥に首を入れて、のぞきこむ。
のぞきこみたくなるほどに中は暗くて、視界は悪い。地下墓地への道と言われてもしっくりくる。
図書館長のカイルザさんはなにやら呪文を唱えた。
すると、階段のほうに薄明かりが灯った。
「これで足元は一応見えますので、ついてきてくだされ。転ぶとかなり下まで行ってしまうので、気をつけなされ」
肝試しみたいだなと思ったけど、うちの女子連中は猫・盗賊・殺し屋なのでまったく怖がらなかった。
「こういうかび臭い空気も意外と悪くないわね」
「金目の本ってどれぐらいするんですかね~」
「ここならいくらでも暗殺できますね」
一人ぐらい、怖くてひっついてくるみたいなイベントほしかった気もするけど、このパーティーでそんなの無理だよな。むしろ、ほとんどのモンスターより俺たちのほうが恐ろしいしな……。
地下図書館は想像以上に広くて、しかも深かった。
「この世界って、こんなにたくさん本があったんだ……」
そう言いたくなるほどに本棚には無数の本や、そもそも紙を集めて糸や紐で綴じたものが並んでいる。
「実のところ、ここの全貌を把握している者は誰もおらんのですじゃ。とても人生すべて使っても読み切れないだけの書物が並んでおりますし、だいたい、どこの言語かもわからない本も多い始末ですので」
少しカイルザさんは寂しそうに答えた。
これだけの本を前にして、自分の無力を実感してしまうということもあるのかもしれない。
「ちなみに、ピンポイントで北の土地について記した本があるのかしら?」
ミーシャの意識は目的にわかりやすく向いている。
「はっきり申し上げまして、すぐにこの一冊と言うことはできかねますが、あたりをつけることはできますのじゃ。地理書であれば地図が描かれているはずですので、探せなくはないはずですのじゃ」
パソコンでの検索システムの偉大さをあらためて感じた。
おそらく地下五階ぐらいの深さのところまで来て、やっとフロアを本格的に歩くことになった。
真っ暗闇ではないが、薄暗いので怖くはある。お化けが出てきても不思議ではない。
「これぐらいの明るさだと一番仕事には向いていますね」
「殺し屋はそうだろうな。盗む時はもっと暗くてもいいぐらいだぜ」
「本の匂いってかいでると眠くなってくるわね」
お前ら、もうちょっと女の子っぽい発言しろよ。
やがて図書館長カイルザさんの足が止まった。
「このあたりの棚が古い地理書のはずですのじゃ」
目の前にはずらりと革の表紙が並んでいる。
「さらにしぼりこむとどのへんなんですかね?」
「しぼりこみはできておりませんのじゃ。漠然と『外国』の地理についてはこのへんですのじゃ」
マジかよ……。
気が遠くなりそうになった。五冊や十冊じゃないぞ。これを全部確認するのか……?
しかも、昔の本はタイトルが雑で、『地理書』『外の世界』とかふんわりしたものばかりが並んでいる。もうちょっと具体的にしてほしい。
「仕方ありませんね。調べていきましょうか」
一冊を棚から抜き出すと、ヴェラドンナがぱらぱらと本をめくりだした。
「たまにはこういう労働もいいと思うわ」
ミーシャもそれに続く。
俺も一冊を抜いて、めくっていく。
しかし、なかなか地図らしいページすら出てこない。
こうして図書館長含めて四人で人海戦術で本を探す作業がはじまった。
――一時間後。
「あ~、疲れたわ……」
ミーシャはごろんと床に仰向けになっていた。といってもミーシャだけでなく、レナも同じことをしている。ひんやりして気持ちいいんだろう。
「こんなに見つからないとはな……」
日本時代、まさに自分が知りたいと思ってる情報の本が店になかなかないと感じることがよくあったけど、それと似た感覚だ。想像以上に疲れるな。モンスター倒すほうがわかりやすくていい。
「それだけ外の土地についての本はないんではないでしょうか」
ヴェラドンナは醒めた表情をしているが、きっと疲れてはいるんだろう。
「でも、探すしかないですからね。次の一冊に答えがあるかも――――待ってくださいよ」
ヴェラドンナはとたとたと本棚が並ぶ通路のほうに歩いていって、そこを横切った。
なんだろ、まさか敵はこんなところにいないと思うけど。
「どこに行かれたんでしょうな。もしや、トイレでしょうかのう」
図書館長が現実的な仮説を立てた。それはあるかもしれないけど、そういう反応ではなかった気がするんだよなあ。
ずっと待っていてもしょうがないので、俺はまたページめくりをはじめた。
そして十五分後。
すたすたとヴェラドンナが戻ってきた。足音がよく響くので、遠くからでもわかる。
何冊か本を腕に積んでいた。
「見つかりました」
「えっ!?」
俺の声も反響する。
「地理のコーナーではなく、伝記のコーナーの探検家の本を探しました。そこでいくつかめぼしいものがありましたよ」
ヴェラドンナが開いた一冊には、たしかにドライアドの森も、さらに北の地理も書いてあった。




