148話 ショートカットで楽しよう
その隠し階段は明らかに幅が狭くて、しかもやけに長かった。
「これ、かなりの高確率で、いくつか階層をパスしてるわよね」
「そうだな。きっと、こういうのを使って、敵を挟み撃ちにしてやっつけるつもりだったんだろうな」
両側から何十というモンスターに攻められたら、ほぼすべての冒険者パーティーが滅ぼされるはずだ。仮に一対一では倒せる程度の敵でも、その数が数体になれば難易度は一気に上がる。回復の暇だってない。
けど、そのための隠し階段を逆に利用されようとしてるわけか……。俺がこう言うのもおかしいかもしれないけど、敵が不憫になってきた……。
暗い階段を歩いていると、光が漏れているのが見えてきた。
なお、地下に広がるダンジョンとはいっても真っ暗だと生活もできないから、一般の部屋や通路は相当に明るい。光を灯す魔法が使われているようだ。拠点のダンジョンだからそういう魔法使いが派遣されているんだろう。
「どこに出るかわからないから、私がまず様子を見るわ」
ミーシャが部屋に通じるドアを開けた。
そこには何十という魔族が集まっていた。
ああ、詰所的な部屋なんだなとすぐにわかった。
ミーシャ以外は部屋に入る手前で待機。
「ふうん、そういうことね。なるほどね」
ミーシャは堂々としている一方で、魔族たちは混乱していた。
「なんだ、魔王城からやってきた援軍か!?」
「いや、こんな奴が来ることは聞いてないぞ!」
ミーシャが獣人に見えるから判断に困っているらしい。
すると、ミーシャがにっこりとかわいい笑みを作った。
顔だけ見たら、天真爛漫という表現がよく似合うような邪気のない笑み。
俺たちは扉の隙間からのぞいているだけだけど、正直悪寒がした。
その笑みを見せているのは、この世界最強の生物だ……。
「すみません、ここの代表者の方はどこにいらっしゃいますか? 教えてくださいますかね?」
「ああ、ボスならそっちの道をまっすぐ行って、二つ目の十字路を右だ」
「おい、機密を勝手に言っていいのか?」
どうやら、率直に聞かれたせいで、誰かが答えたようだ。
まだミーシャは笑みを崩さないでいる。
「ありがとうございます。じゃあ、お礼にこれをどうぞ」
次の瞬間――室温が急激に下がった気がした。
ほぼ同時に魔族たちの悲鳴が聞こえた。雄々しい悲鳴もあれば、物悲しいかすれたような悲鳴もあった。でも、それもすぐに聞こえなくなった。
ミーシャが何かしたんだろうけど、戦闘らしいばたばたした音はしない。
「何か魔法を使ったみたいだな。そろそろ入るか。あれ、扉が開かない……」
しょうがないので蹴って開けると、その先には氷で固められた魔族で部屋が埋め尽くされていた。
「全部、氷でやっつけたわ。この階層で火事になったり、地割れ起こして生き埋めになったりしたら困るからね」
「そうだな。その判断自体はすこぶる正しい……」
一瞬で敵が全滅か。やっぱり無茶苦茶だな。
「このローブは魔力の威力を上げてくれるから、そのおかげもあるわね」
「そういえば、ミーシャもそういうボーナスを受けてるんだよな」
ミーシャの特殊能力を持つローブはすべての魔法の威力をアップさせる。
普通、魔法の威力って最高で5止まりのはずなのだが、ミーシャは+1の6相当のものが使えるのだ。
まあ、そんな化け物に勝てる奴はいなかったということだな。
「ご主人様、私のスマイルでみんなメロメロだったわ。ふふっ☆」
ミーシャがとてもガーリーな笑みを作って見せた。その顔だけなら文句なしにかわいいんだけど――
「旦那、私、姉御の顔が死神に見えます……」
レナがふるえてるのは部屋が氷で寒いだけじゃないだろう。
「奇遇だな。俺も同じだ」
「え~、私は死神なんかじゃないよ~☆」
まだミーシャは作った笑いを続けている。
こんなえげつないことをする人間が天使めいたかわいい笑みを見せるなんて、魔族も思わなかっただろうな……。
「これは暗殺術における色仕掛けの亜種ですね。無害であることを装って、敵を殺す方法です」
暗殺者が解説してくれたので、きっとそうなんだろう。
「じゃあ、ボスの場所もわかったし、そこに行こうね☆」
「ミーシャ、そのかわいい顔はやめろ」
こう、プリクラで目をいじった顔みたいな、美しいはずなのになぜか不自然な感覚がある。
ほら、人間って左右対称の顔を美しいと認識するけど、あまりにも完全にそうだと生きているものとして不自然に思うっていう、アレ。
「旦那、とりあえずこの部屋は寒いし、移動しましょうか……」
「私も寒いから移動したいわ」
実行犯までそんなことを言った。
よし、とっととボスを片付けに行くか。
これでボスをすぐに倒せたら、割とガチでタイムアタックって感じがするな。
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