147話 森のダンジョン攻略
まず、魔族が暮らしているダンジョンへの道のり自体がわかりづらかった。
「地図をもらってなかったら、けっこう迷っただろうな……」
地下にダンジョンがあるから、目星もつけづらい。ドライアドの集落からも離れた辺鄙なところだ。どうせ、ドライアドのほうが貢納物を収めに来るから集落との距離なんてものはどうでもいいんだろう。
入口の階段には、さすがにミノタウロスらしき二人組が護衛として立っていた。
「ここは私がやりましょうか」
ヴェラドンナが遠方からナイフを飛ばした。
これが彼らの心臓に突き刺さり、そのまま倒れる。
「悪いけど、完全に死んでおいてもらうぜ」
これに接近したレナが首をかき切った。
護衛を片付けたので,ダンジョンの中に進む。
地下への階段は横幅が広い。隠れ住んでいるというよりは、権威の象徴とでも考えたほうがいい構造だ。
「なんだ、お前ら?」「人間がどうしてこんな森に?」
はっきり言葉をしゃべる魔族が多い。それだけ上級の者が多く配備されているんだろう。
「ご主人様、ここは一緒に戦いましょ!」
「そうだな。主人としてあんまり遅れはとりたくないしな!」
俺とミーシャが魔族たちに突っ込んでいった。
剣で片っ端から斬る。向こうは突然の攻撃に浮き足立っている。こっちは準備万端。その差は大きい。
しかもミーシャの攻撃は知能の高い魔族ほど戦慄させる。
ミーシャのキックを顔に受けた羊みたいな頭をした魔族が即死した。首の骨がありえない方向に曲がったようだ。
「税の徴収官殿がやられたぞ!」「そんなバカな! 上位種族のはずなのに!」
魔族の一部が逃げようとする。
「あれ、もしかして大物を倒しちゃったの?」
ミーシャはけろりとしている。まだ動きはじめたばかりだから、それも当然か。
怯えてる連中にもすぐさま近づいて、顔を両手ではさむ。
そこから先は、ちょっとおかしな方向に首を曲げる。
ごきっ。ぐぎっ。どぐっ。
変な音がして、魔族がそのまま沈黙した。中には顔が真後ろを向いている死体もあった。
「このほうが確実ね。少なくとも、刃物使うよりはいいと思うわ」
「あのな、ミーシャほど強くなければ素手で戦うぐらい接近するのは嫌なんだよ。だから、刃物を使うんだ。遠距離で戦えるからな」
そう言いながら、俺は魔族の一人を刺し貫いている。
ダンジョンの地下深くで手に入れたこの剣もかなり体になじんできた。
「ちなみにご主人様は何人倒したの?」
「八人ぐらいかな」
かなりのハイペースで敵を撃破している。
すると、ミーシャがドヤ顔を見せた。
「私の勝ちね。十四人やっつけたもの」
「ミーシャに勝つのとか、どう考えても無理だろ」
「旦那は的確に敵の隙を突いて倒してたんですけど、姉御は隙とか無関係に突っ込んで倒してますからね。隙を探さないだけ、姉御のほうが早いです」
後ろで見ていたレナがよくわかる解説をしてくれた。
つまり、やっぱりミーシャは問答無用で強いってことだ。ステータス的に隙って概念が俺と違うんだろう。
「この部屋は片付いたわね。さあ、とっとと次の部屋に行くわよ!」
ミーシャは次の部屋に入った途端、火炎をぶち込んで、部屋にいた敵を焼き殺した。
だいたい十秒ぐらいの出来事で、後方のヴェラドンナが入ってくる頃にはすべてが終わっていた。
「余計なことをされる前に殲滅する、それが今回の作戦よ」
「もう、作戦でもなんでもない気もするけど、効果的なのは間違いないな」
敵が十分な態勢を整える前に、槍をぶすりと刺すように奥へと攻め込んでいく。
最初の階層はとくにそんな複雑な仕掛けもなく、下へ降りる階段が突き当りの部屋にあった。
「よし、次の階層も行くぞ!」
「旦那、待ってください」
「私もお嬢様に賛成いたします」
獣人二人の声が俺の足を止めた。
「いったい何だ? 休憩には早すぎると思うけど」
「これは正面の入り口ですよね? そんな馬鹿正直に進む必要はないんじゃないですか?」
なんだ、その、いかにもほかの入り口があるような表現は。
ヴェラドンナが指で部屋の後ろを差した。
「あそこから隙間風が出ているのを感じます。十中八九、地下へ進む別のルートがありますね。階段がある部屋に置いているのも、冒険者がすぐにそちらに目がいくことを狙った仕掛けとして理解できます」
「な、なるほど……」
たしかにもっと手前の部屋なら捜索中に仕掛けを見破られるおそれもある。
けど、階段が視界に入る場所ならば、その部屋を探す意識は減る。
レナが隙間風のしたあたりをいじると、床がスライドして、地下への階段が出てきた。
「ほら、ちゃんとあったでしょ?」
盗賊&暗殺者ペアの嗅覚はさすがだな。
この調子だと攻略にかかる時間はさらに短縮できそうだ。




