15話 ミーシャ、人間の姿になる
ついにミーシャ、人間になりました! まだ人間になっただけという感じですが・・・。
「変化の魔法、試してみるわ」
「そうか、ついにだな……」
俺も息を呑んだ。
むしろ、俺のほうが緊張しちゃっているかもしれない。
いよいよ、ミーシャが人間の姿になれるのだ。
「すぐに上手くいくかはわからない。でも、失敗しても死ぬ魔法じゃないし、私のレベルからいけばやれなくはないはずなの。変化魔法は相当高位とはいえ、おおかたLv25ぐらいから簡単な次元のものなら覚えられるはずだから」
「それなら楽勝だな。ミーシャはLv71なんだから」
「ただ、人間になるのは難しいみたいだし、Lv25程度だと変化の時間も短いみたいだけどね。本当に見張りを騙して一分後には元の姿に戻るとかいう使い方しかできないらしいわ」
「あ、そうか、同じ魔法でもそこに実力差があるんだな」
この世界の多くの魔法は(1)から(5)までの5段階に分けられる。
レベルが低ければ威力の小さい(1)とか(2)のものにとどまる。
ミーシャが俺を回復魔法で全快させられるのも最高の(5)のものが使えたからだ。
「変化魔法の場合、体の小さいものに変身するほうが楽みたいなの。全体のイメージが簡単だからなんでしょうね。だから、人間が猫に化けるほうがずっと容易」
「なるほどな。たしかに小さいもののほうがブレが少なそうだ」
「もっとも、成功するまでやるけどね」
ミーシャは決意をこめた瞳で言った。
そして、ミーシャは後ろ足二本で、二足歩行のように立ち上がると――
前足を押すように前に突き出して力を込めはじめた。
そして、ミーシャの周囲に煙がふわっと立ちのぼる。
部屋の半分はその煙で覆われてしまった。
だが、窓が開いているわけでもないのに、その煙は短時間で消えていく。
その煙がすぐにかき消えていった先には――
一糸まとわぬ少女の姿があった。
年齢としては十六、七歳ぐらいだろうか。
とはいえ、胸はあまりないからもっと幼いかも――ってそんなことはどうでもいい!
頭には猫の耳が二つ。
お尻からはミーシャ時代からあるかわいらしい尻尾が一つ。
「ミ、ミーシャなのか……?」
その子はまず自分の両手を確認するように見つめた。
「せ、成功したのかしら……? ……そうよね?」
少なくとも声はミーシャと変わらなく聞こえる。
「う、うん……そうみたいだ……」
「や、やったわ、ご主人様! 私、ついに人間になれたのよ!」
ミーシャはそのまま前ぶれなくこっちに抱きついてきた。
その力を受け止めきれずに、俺はよろめいて、ベッドに倒れこむ。
「ご主人様、わかる? 私、人間よ! こんなふうにご主人様を触れるんだよ! 抱き締められるんだよ!」
「あの、抱きついてくれたことはうれしいんだけど……その……」
ミーシャは思い切り素っ裸なわけで……。
「…………あれ、そういえば服は……」
ミーシャも何かおかしいと気づいたらしい。
「にゃーっっっっっ!」
それから猫の時代よりもはるかに大きな叫び声をあげて、俺から飛びのいた。
「人間って服を着ないとこんなに恥ずかしく感じるものなのね……。すうすうして落ち着かないわ……」
自分の腕で体を隠すようにするミーシャ。
ああ、猫って毛皮を常に着てるようなものだもんな。
「服も変化の魔法で作れるはずなんだけど、まだ慣れてなくて失敗したみたい……。猫には服って概念が希薄だったせいかも……」
「そ、そっか……」
「は、早く、女性向けの服を持ってきて!」
「わかった!」
俺はとりあえず宿屋の一階に降りた。
でも、まあまあ日も落ちてきていて、夜が近い。
これは市場もおひらきになっているだろう。
「あの、すいません、おかみさん……変な頼みなんですけど……」
俺はおかみさんの服を貸してもらえないだろうかと尋ねた。
おかみさんは最初のうちだけキツネにつままれた顔をしていたが、やがて、にやにや笑って、
「ああ、いいよ、いいよ! いくらでも持っていきな! でも、娘のほうがサイズが合うだろうけどね。そっちを探してみるよ」
「いや、この際、サイズはどうだっていいんです……」
あと、ルナリアの服を貸してもらうって変態的と思われかねない。おかみさんでもあんまり変わらないかもしれないが。
ぽんぽんとおかみさんはこちらの肩を叩いた。
「さっき女の子の大きな声がしたよ。猫かと思ったけど、あれは人だったね」
「あ、うるさかったですか……」
「みなまで言わなくてもわかるよ。そういう商売の娘でも連れこんだんだろう。うちはそういうことはしない宿なんだけど、まあ、若い男の冒険者なんだ、しょうがないさ」
あれ、なんか……。
勘違いされてるっぽいぞ!?
「勢いこんで、相手の服まで破いちまったとか、若いとそういうこともあるよねえ。女で失敗した冒険者も過去に泊めてきたからわかるよ」
「いや、おかみさん、あの……」
「しょうがない、しょうがない。服を弁償しろって高い金をふっかけられないように、いい服を出してやるよ」
「あの、別に俺はそういうことはなくて……」
「でも、次からは恥ずかしくても事前に言っておくれよ。宿泊客かどうかわからなくなるからね」
「も、もう、とにかく服貸してください!」
誤解の解消より服を借りるほうが先だった。
ルナリアの服を借りて、二階の部屋で待つミーシャに渡した。
「人間の服って、尻尾がひっかかるわね……」
「獣人用の服もあるのかもしれないけど、急場はそれでしのぐしかないな」
尻尾はお尻のあたりで丸めてどうにかすることにしたらしい。
ルナリアの服を着たミーシャをあらためて見つめた。
やっと、堂々とミーシャを見つめられる。
「どう? 変じゃないかしら……」
ミーシャはまだ不安そうだったが――
「ものすごくきれいだ」
ほかに言葉なんて必要なかった。
「ありがとう、ご主人様……」
ミーシャはあらためて俺に抱きついてきた。
俺もやさしくミーシャを抱き締め返した。
本当に幸せだ。幸せで溶けそうなぐらいだ。
ただ、心配性なもので、余計なことが頭にのぼってきた。
ミーシャのこと、少なくとも、宿のおかみさんには言わないとまずいよな……。
俺の名誉のためにも……。
次回はいちゃらぶします!
次回は夜11時頃の更新予定です!
それで第一部「ミーシャ、人間になる編」完、続いて明日から「新居でのいちゃらぶ編」をアップ予定です。




