146話 森の地下のダンジョン
俺たちはそのドライアドに、住処に連れて行かれた。
こんなところに家なんてあるのかと思ったら、地下に通じる階段があって、土の下で暮らしているらしい。
「ドライアドにとっても、この寒さはなかなかこたえますから、あったかい地下に住んでいるんです。栄養は土からとることもできるのですが、足りない分はたまに鳥を狩ってそれを食べます」
階段を下りていく途中、ドライアドが教えてくれた。
「わたしの名前はアーです」
「変な名前ね」
ミーシャが遠慮なく言う。
「ドライアドの名前はみんな短いんですよ。ほかの者もこんなものですね」
「ふうん。ドライアドにはドライアドのルールがあるのね」
地下の住居にも数人のドライアドがいたが、またしゃべるミーシャに驚いていた。
「これまで何度も変な目で見られてきたけど、こんな珍しい種族に変な目を向けられるのは、なんだか心外だわ……」
ミーシャは納得がいかなかったらしく、住居に入ると、獣人の姿になった。その変身で、また驚かれていた。
俺たちはケルティンの森に来た理由をあらためて説明した。
「この土地を支配している魔族を倒しに来た。遠路はるばるな」
「そんなことが可能なんでしょうか……? あいつらは強いですよ……」
ドライアドからしたら、そうなんだろうな。
「実績はある。すでに二人ほど魔族のボスを倒してきた。だから、次はここってわけだ」
「そ、そんなにすごい方なんですか!」
「ええと……Sランク冒険者って言って、通じるかな……?」
「わかります……。それは伝説の勇者を示す言葉も同義語ですから……」
自分たちが伝説の勇者クラスかはわからないけど、ミーシャがチートなのと、俺とレナが王国屈指の冒険者なのは事実だ。
ドライアドたちも、魔族に発覚した時のことを恐れてか、最初は関わるのを避けたがっていた様子だったが、俺たちの実績を聞いて、考えをあらためてくれたらしい。互いに顔を向けて、意を決したようにうなずいていた。
「あなたたちに賭けたいと思います。魔族のことでわかることはすべてお話いたしますので」
ドライアドのアーの話によると、魔族は森の奥の巨大な地下の穴に住んでいるという。
そこはダンジョンになっていて、知らない者が入ると迷いこんだり、敵にはさまれて殲滅されたりする構造になっている――らしい。実際に戦った者は皆無だからだ。じゃあ、なんでわかるのかといえば――
「魔族たちが何度かしたり顔で、内部構造について話してきたことがあるんです。こちらはすでに完全に服従していますから、ウソではないかと……」
「また、地下のダンジョン攻略に逆戻りなのね。冒険者って日の当たらないところが好きな職業よね。そんなにダンジョンも嫌いじゃないけど」
「これまでの地下ダンジョンとは意味合いが違うと思います。今回は防御施設として純粋に作られたものでしょうから、挟み撃ちに便利な通路などがいくつも用意されていて、こちらを大軍で攻撃したりといったこともしてくるでしょう」
ヴェラドンナが冷静に解説した。
俺もそれが正しいと感じる。王都の近くにあったダンジョンはモンスターが「生息」してるに過ぎなかった。そこに連携のとれた作戦などあるわけもなかった。
だけど、今回はそうじゃない。魔族の軍隊が敵だとすれば、侵入者を倒すための設備も行動もとるだろう。
「安心して。必ずこのケルティンの森を魔族から奪い返してあげるわ」
「なら、相手にとって不足はないわ。これまでのダンジョンは簡単すぎたしね」
しょぼい冒険者が聞いたら怒り出しそうな言葉だけど、ミーシャにとったら純然たる事実だ。
「わかりました。こちらが知っているダンジョンの地図も提供いたします。貢納物を届ける時に降りたこともありますので」
ドライアドが知っているのは、ダンジョンの手前にあたる場所だけのようだったが、それでも知らないよりは心強い。
長らく、魔族に統治されていて、ドライアドたちも鬱憤がたまっているようだ。それでも、我慢していたのは能力差がありすぎたからだ。
魔族に劣らない者が立ち向かうというなら、彼らの態度も変わってくる。
「なるほど、魔族の役人の背後に複雑なダンジョンがあるみたいだな」
最初のほうはとくに迷路のような要素もない。話によると、地下五階層はあるらしいから、この先が敵を迎撃することが前提の施設なのは確かだろう。
「あんまり時間をかけて逃げられてもよくないですし、先手必勝で行きましょうぜ、旦那」
レナもやる気らしく、腕をぐるぐるまわしていた。
「そうだな。このケルティンの森を奪還してやろうか」
俺たちはアーの家で休養を取った後、ダンジョンへの侵攻を開始することにした。
今回のテーマはずばり先手必勝だ。
余計な作戦を実行される前にこちらでかき回して、かき回して、叩きつぶす。




